第14話 元恋人

 しばらくまったりしていると――チャイムが鳴った。

 なんだ、今日は来客が多いな。


 親父が帰ってきたのだろうか。

 さっきはともかく、二回目でいちいち鳴らす必要はないはずだ。ということは来客のはず。


 俺はひとりで玄関へ向かった。


 扉を開けると……そこには知らない男が立っていた。20代くらいの若い男だ。……なんだ、この人。


「ここ、大島さんの家ですよね?」

「はぁ……そうですけど、あなたは?」

「俺は水田みずた。瑠海の元旦那です」

「はい……!?」


 おいおい、マジかよ。

 なんで今更現れたんだ。

 ていうか、なんで俺の家を知っているんだ!


「驚くのも無理ないですよね。突然、押しかけてしまって申し訳ない」

「申し訳ないっていうか、なんでいるんです?」

「ここに瑠海がいると聞いて」

「誰に聞いたんです?」

「千城くんから」

「なっ……」


 千城のヤツ、この元旦那に俺の居場所を教えたのかよ。最後の最後にやってくれたな。


「悪いんだが、瑠海を返してくれないか」

「なに!? ……ま、まってくれ。瑠海とは別れたんじゃないのかよ」

「別れたさ。それから俺はある女性と結婚を前提に付き合っていた。だが、一年後……捨てられてしまってね。で、ふと瑠海のことを思い出して……関係を修復できないかと模索していた」


 捨てられていたのかよ!

 それで瑠海とよりを戻そうと……? そんなの身勝手すぎだろ。


「あんた、瑠海を一度捨ているだろうが。無理に決まっている」

「……反論できないほどにその通りだ。けどね、俺はまだ瑠海を愛しているんだ」


 なにを言っているんだ、この男は!


「悪いが、瑠海は俺のものだ。帰ってくれ」

「いや……聞いたぞ。君と瑠海は『兄妹』だってね。付き合っているわけではないんだろ?」


 くそっ、千城のヤツ余計な情報をベラベラと喋りやがったな。

 だが俺はそれでも瑠海を譲る気はない。

 ここは断固とした態度で臨む。


「そうだ。兄妹であり、付き合ってもいる。俺だって瑠海を愛しているさ!」



 ありのままの想いを叫ぶと、リビングから何事かと瑠海が走ってきた。



「ね、ねえ、隼くん……どうしたの!? って……うそ」



 俺はともかく、玄関にいる水田を見て瑠海さんは驚いていた。



「瑠海! 俺だよ、俺! 水田みずた りくだ!」

「陸くん……なんでここに!」

「迎えに来たんだよ、瑠海。俺と一緒にやり直そう!」



 水田は必死に訴えかけてきたが、瑠海は首を横に振った。そうだ、それが瑠海の気持ちなんだ。



「……ごめんなさい。もう、あなたとは無理です」

「!? 瑠海!! なぜ!!」

「私は隼くんが好きなの!」

「……っ!」

「それにね、あなたは私を捨てたじゃない……。どうして他の女性を選んだの!」

「そ、それは……」



 さすがの水田も動揺を隠しきれずにいた。これはもう決定的だろう。コイツに復縁のチャンスはもう絶対にない。


 俺はこの機会を逃さず、瑠海さんの手を握った。



「瑠海」

「うん、隼くん」


 水田に見せつけるように、俺は瑠海を抱きしめた。そして、キスをした。



「……………そ、そんな……! く、くそおおおおぉぉぉ……!!」



 背を向け、走り去っていく水田。文字通りの敗走だ。

 もう来ることもないだろう。

 まさか、元恋人が現れるとは思わなかったが、これで俺と瑠海がどれほど愛し合っているか分かったはずだ。

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