真・義妹編
第13話 新生活のはじまり
「あああああああああああああああ……!!!」
叫んで叫んで叫びまくって、俺は
…………全身が汗だくだ。
ゆっくりと周囲を見渡すと、家のリビングだった。そうか……俺は悪夢を見ていたらしい。
よりによって千城と……思い出しただけで吐き気がする。
千城と別れるところまでは本当の記憶だ。その後の連れションは俺の夢。変な夢を見てしまった。
病院から出て、真っ直ぐ家に帰ってから、眠気に襲われてそのままソファで眠ってしまったんだ。そして、あの悪夢を見たというわけだ……。なので、千城はヤバいヤツではない――はずだ。そう信じたい。
喉が渇いたので俺は水を飲みに台所へ向かった。
するとチャイムが鳴った。
向かってみると、そこには瑠海の姿があった。……って、すごい格好だな。この黒いドレスのような衣装は……いわゆるゴスロリだろうか。
「こんにちは、隼くん」
「可愛らしい服装だ」
「えっへ。実は、ゴスロリ趣味があるんだよね」
背が低くて少女のような瑠海には、よく似合う。メイクも地雷系だ。
「ギャルじゃなくてゴスロリなんだ」
「今の私の流行りはギャルより、こっちだから」
「なるほど、可愛い」
「ありがとう、隼くん」
「立ち話もアレなんで、どうぞ、上がって」
俺は瑠海を家に上がらせた。
トコトコと後ろをついてくる瑠海は、生まれたてのヒヨコのように可愛かった。
リビングに案内し、ソファに座ってもらった。
茶を出し、さっそく話を進めた。
「――へえ、千城と会ったんだ」
「病院を出て少しだけ話をした。その後…………う」
「ん? 顔色が悪いけどどうしたの?」
あの悪夢を思い出してしまったとか言えない!!
「な、なんでもないよ!」
「そ、そう?」
心配そうに俺をみつめる瑠海。さすがに千城に襲われた夢を見たとか言えるわけがねぇ……。なので俺は誤魔化すことにした。
「それより、新しい家を探さなきゃですね。お金も用意しないと」
「あ! そのことなんだけどね、桑野さんから現金を預かっているの。はい、隼くん」
手渡される封筒。
中身を見てみると、三十万円が入っていた。
「こ、これはまさか……!」
「そう、
朱音と桑野先輩の事件から一週間経ち、ようやく全額弁済となった。これはまぎれもなく、俺のお金。朱音があんな酷いことをしなければ生活費に使っていたお金なのだ。
こんな形で戻ってくるとは。
「良かった。これを新生活に充てましょう」
「いいの?」
「構わないよ。一刻も早く、瑠海と暮らしたいから」
「嬉しい。ありがとう」
大胆にも抱きついてくる瑠海。突然のことに俺はドキドキした。
もともとは母親という認識があったけど、今はもう“義妹”だ。だから、本当に妹から抱きつかれている感覚だ。
しかも、朱音とは大きく違う。
匂いも、感触も、優しい言葉も、距離感も……胸の大きさも。
「いえいえ。ところで、瑠海の住んでいる家はどうするんです?」
「あそこは賃貸だから大丈夫。千城が卒業次第、出ていく予定だったから」
「そうか。とにかく、物件を探さなきゃだね」
「そのことなんだけど、一応探しておいたんだ」
瑠海は、スマホを取り出して画面を見せてくれた。
そこには条件の良さそうな賃貸アパートやマンションが記載されていた。へえ、市内でもこんなにあるんだな。
「結構安くて広い部屋もあるんだ」
「意外でしょ~。よーく探すとあるっぽい」
「近いうちに内見する?」
「そうね、早めに見て回りましょ。隼くん、学校は?」
「来週の月曜日から復帰する。今日が金曜日なので、まだ休めるよ」
「じゃあ、不動産屋さんに連絡しておくね」
「頼むよ」
順調に話が進んでいると、瑠海は小さな頭を俺に預けてきた。
「隼くん……眠たくなってきちゃった」
「お、俺でよければ布団にも枕にもなるよ」
「うん。隼くんの体温高くてポカポカする」
うとうとする瑠海。
ホント、可愛い。
眠たそうにしている瑠海を眺めていると、突然リビングのドアが開いた。
「隼! 帰ったぞー!! ――って、なんだこりゃあ!?」
ドアが開くと、そこには親父が立っていた。
バケモノでも見たかのような表情で俺と瑠海を見比べる。なんちゅう顔してやがる。……いや、それもそうか。
俺の隣にいるのが朱音ではなく、知らない女性なんだからな。
「ていうか、親父いつの間に海外から帰ってきた!」
「お、おい。隼……これはどういうことだ! 朱音はどうした!」
「朱音のことは詳しく話すよ」
「く、詳しく? 意味が分からない。なにがあった。その隼にべったりくっついているアイドルのように可愛らしい少女は誰だ!?」
大混乱に陥る親父。当然だよね。
こうなっては説明するしかない。
俺は朱音に裏切られていたこと。朱音が複数の男と関係を持ち、お金を貢いでいたこと……そして、一週間前に俺が殺されかけたこと、それが原因で朱音は拘留中であることを話した。
「――というわけなんだ」
「な、なんだとぉ!? 朱音がそんな事件を……起こしたのか……」
「悪いけど、朱音とは縁を切った。俺はもう面倒を見ないぞ」
「しかしだなぁ……」
「どうしてもって言うなら、親父が面倒を見てやれ」
「
残念そうに溜息を吐く親父。
もともとは親父が朱音を助けたんだよな。
「割愛するが、そうして俺は瑠海と出会った」
「なんてことだ。母親だった人を妹にするとは……いや、隼は21歳で……瑠海さんは20歳だから不自然ではないが……むちゃくちゃだぞ、お前」
俺だって最初は不可能だと思った。でも、年齢は関係ない。そう思って俺は、無理にでも押し切ろうと思った。けれどお互いの事情が分かって可能だと確信したんだ。だから、俺と瑠海は兄妹になれた。
「世の中にはいろんな愛の形があるんだぜ、親父」
「なにを言っとるんだお前は」
親父は呆れて背を向けた。
「どこかへ行くのか?」
「朱音のところだ。これでも責任がある」
「……分かった。任せたよ」
「うむ。またあとで詳しく教えろよ」
家を出ていく親父。
あとで詳しくねぇ……?
面倒なのであとでメッセージアプリで送っておくか。なんて思っていると瑠海が俺に身を預けて眠っていた。
「……隼くん…………好きぃ」
「……! る、瑠海……」
寝言とはいえ、今のは嬉しい。しばらくはこうしていよう。
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