第12話 カミングアウト

「もう一度言うけど、俺と瑠海は兄妹となり幸せに暮らす。千城も独立すればいい」

「……っ!!」


 千城は敗北を認めたかのように脱力して、抵抗する意思すら感じなくなっていた。



「千城……大丈夫?」



 さすがの瑠海も心配になっていた。

 だが、千城は白目をむいて気絶していた。


 ガクガクブルブル震え、床がじわじわと湿ってきていたところを見ると、どうやら失禁してしまった模様。


 ショックが大きすぎたらしい。


 その後、駆けつけて来てくれた医師たちにより千城は、別の部屋へと移動した。



「大丈夫ですかね、千城」

「心配してくれてありがとうね、隼くん。うん、気絶しているだけだから心配ないって」


 そりゃ良かった。


 ――1週間後、俺は無事に退院。


 千城はいつの間にかいなくなっていた。瑠海によれば、千城はあれ以来、精神的に参って頭がおかしくなってしまったという。


 どういう意味だ?


 病院を出ながら疑問に思っていると、ちょうど千城が現れた。



「……よう、隼」

「千城……」

「母さんから聞いた。あんた、年上なんだってな」


「そうだ。だから俺がお前を呼び捨てにすることは自然なんだ」


「そのことだけど」


 少し言い辛そうにする千城は、けれど真剣な眼差しで俺を見据えた。


「なんだ?」

「もう母さんの気持ちは変わりそうにない。なら、母さんの幸せを一番に考えてやるべきだって思ったんだよ」


「へえ、妙に素直だな」


「まあな。年下の後輩が俺の母親を寝取って、妹にするとか正気じゃないと思った。でも、事情を聞けば隼、お前は昔の事故で歳だけを食っていたようだ。まさか21歳とはな。そんな風に全然見えないぜ」


「本当のことだ。病院には確認したんだろ?」

「ああ、調べさせてもらったよ。悔しいが、お前の事故は本当だった。五年前、街中で起きたプリウスミサイルの事故。時速100km/hの車が交差点に突っ込んできて、お前はかれた……」


 そう、俺は突っ込んできた車にぶっ飛ばされて……本来なら死んでいたはずだった。しかし、奇跡のような条件が重なって、俺は軽い骨折で済んだ。


 本来なら即死なのだが、その代わり俺は植物人間となった。


 五年経過するまで意識は戻らなかったんだ。



「おかげで多くの時間を失った。朱音との時間も……まあ、彼女のことは今となってはどうでもいいけど」


「そうだな。お前を刺して殺人未遂の容疑で捕まった。大切な妹ではなかったのか?」

「昔はね。そりゃ、当時は可愛かったさ。朱音は俺を頼るしかなかったし、俺も朱音を頼るしかなかった。意識を取り戻したあと、親父が直ぐに海外へ行ってしまったから」


 どうやら俺の入院費がかさんだようで、親父は海外出張もしながら稼いで賄っていたようだった。



「隼、お前のことはよく分かった」

「なんだ、俺と瑠海の関係を認めてくれるのか」

「……ああ、母さんを頼む」


 寂しそうに千城はそう口にした。

 そして俺は察した。

 きっと千城はこれを最後の別れにしようとしているのだと。


「任せてくれ。必ず瑠海は幸せにする」

「その言葉を聞けて安心した」


「じゃあ、これでお別れかな」


「最後に……。最後に、トイレに付き合ってくれよ」

「……ん? あぁ、連れション?」


 俺も丁度トイレに行こうと思っていたし、構わんか。

 病院のトイレを利用した。

 ちょうど人気はなく、俺と千城の二人きり。

 用を足していると千城が俺の背後に。


「……隼」

「ど、どうしたよ、千城。怖い顔して」


「隼……実は俺は……バイなんだ」


「へ…………」



 唐突とうとつなカミングアウトに俺は固まった。

 バイって、両性愛……つまり、男も女もイケるってヤツだ。


 ま、まさか!!



「俺は……俺は、隼、お前のこともずっと気になっていた。強く当たっていたのは母さんに嫉妬していたからだ」


「は!? はああああああああああ!?」


「年下は嫌いだったんだが、年上と分かって俺の気持ちが一気に変わった。隼、母さんはくれてやる。だけど、その代わりに俺も愛してくれ」



 俺に抱きついてくる隼。

 背筋がゾワゾワして、鳥肌が立った俺。


 おい、おい、ウソだろおおおおおおおお!!


 うあ、うあああああああああああああああああ!!!!!

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