第11話 愛し合っている
一週間で退院できるということで、しばらく安静となった。
瑠海さんはいったん家に戻るということで、俺にキスをしてから帰っていった。
これからどんな生活を送ろうか。
そんな贅沢な悩みを抱えながら、俺は眠った。
――翌日。
わざわざ瑠海さんが迎えに来てくれた。
俺の為に来てくれたんだ。
「ありがとうございます、瑠海さん」
「ううん、いいの。これからのことも話さなきゃだし。その前にお腹はどう? 痛くない?」
「痛み止めのおかげで少し楽です」
「無理しないでね」
瑠海さんは俺の手を優しく握ってくれた。
それだけ心が十分に癒された。
「さっそくですが……昨晩はありがとうございました」
「そ、そんな、私は当然のことをしただけだから」
「それでもです」
本当に感謝している。
命の恩人だ。
もし瑠海さんがいなければ、俺は朱音に刺されて死んでいただろう。
「うん。それで……どうしよっか」
「瑠海さんを義理の妹にします。年齢的には問題ないですし」
「それには私も驚いてるよ。てっきり、隼くんは年下だと思っていたから……」
誰だって普通はそう思う。
でも、人にはそれぞれ事情がある。
特に年齢のことになるとセンシティブな問題となる。
「俺もです。けれどこれで合法的に兄妹になれるんですよ」
「偶然とはいえ嬉しいわ。私、ずっとお兄ちゃんが欲しかったから」
どうやら、瑠海さんは一人っ子のようだった。
あまり友達もおらず、一人きりが多かったのだとか。だが、高校生になってから環境が変わったと瑠海さんは語った。
「なにがあったんです?」
「ほら、高校生デビューって言うじゃない。イメチェンしたら、急にモテるようなっちゃって……」
そうか、瑠海さんは童顔で小学生のようだったから、そういうのが原因で浮いた存在になっていたのかもな。
しかし、転機は訪れた。
瑠海さんはギャルメイクをして、周囲を驚かせた。
すると一躍人気者になり男子が寄ってくるようになった。
それが元旦那との出会いであったのだとか。
なるほど、その名残が今もあるわけだ。瑠海さんはちょっとギャルっぽいところがるというか、でも清楚なんだよな~。
絶妙なバランスで美が保たれている。
「へえ、瑠海さんにそんな過去が」
「恥ずかしいけどね……」
照れくさそうにする瑠海さん。可愛いな。
「俺はあんまり過去がないからうらやましいです」
「朱音ちゃんとはあんまり?」
「ええ、俺は寝たっきりがほとんどでした。でも、目覚めてからは朱音とは、それなりに仲良くやっていたかな」
今となってはもう思い出の中の存在でしかないが。
「これからは、私と一緒よ」
「はい、瑠海さん……いや、瑠海」
「隼くん」
俺の名前を呼んでくれる瑠海。
この日から、俺と瑠海は“兄妹”となった。
瑠海は、母親だったこともあって俺を凄く甘やかしてくれた。
頭を優しく撫でてくれるし、キスもしてくれた。その大きな胸の中に顔を埋めさせてくれたり、俺を包んでくれた。
「……俺、こんなに優しくされたの初めてだ」
「そうなんだ。それが聞けて嬉しいわ」
「退院したら、もっと瑠海とイチャイチャしたい」
「うん、私も。ずっと一緒にいようね」
「デートとかしたい。あと新しい家も見つけなきゃ」
「そうだね、隼くん。今の家だといろいろ危ないかもしれないし」
万が一にも朱音が戻ってきたり、千城先輩から嫌がらせをされるかもしれない。そういうリスクも想定して引越しをしないと。
そんなことを考えていると、病室の扉が開いた。
なんとそこには……千城の姿が。
「……ふざけるな、ふざけるな!! 隼、お前が母さんを義理の妹にするだと!? 正気かよ、このクレイジーサイコ野郎が!」
「「千城!!」」
俺も瑠海も、驚きのあまり千城の名を口にした。
「隼、お前の悪事を学校にバラしてやる!!」
「ま、まて。落ち着けって、千城」
「呼び捨てにするな、バカ!」
「一応、お前は義理の息子(?)になるからな」
「うるせえ、黙れイカレポンチ!!」
千城は、病室に入ってきて俺の方へ走ってくるなり、殴ろうとしてきた。お、おい、ここは病室だぞ!!
だが、瑠海が
「やめて、千城!」
「か、母さん……邪魔をしないでくれ」
「ごめんね、千城。母さんと隼くんは、愛し合っているの。好きすぎて胸が苦しいの……もう隼くんなしじゃ生きていけない」
「そ、そんな……」
その場に崩れる千城。
もう俺と瑠海の仲を引き裂ける者はいない――。
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