第4話 お兄ちゃんのことが好きだから!

 今から帰ると朱音にメッセージを返信。

 それから俺は歩いて帰路へ。


 帰宅中、俺は朱音にどう仕返ししてやろうかプランを練った。


 一瞬で終わらせるのは面白くない。

 じわじわと分からせてやる。


 やがて自宅が見えてきた。


 家に入ると、俺の気配に勘付いたのか朱音がやってきた。明るい表情で。



「おかえり、お兄ちゃん」



 なんだその何食わぬ顔。

 朱音、お前が裏で千城先輩と繋がっていることは知っているんだぞ。だが、ここは感情を必死に抑えた。今はその時ではない。


「ただいま……。朱音、変わったことはなかったか?」

「変わったこと~? うーん、なにもないよ。ずっとお兄ちゃんのこと考えていたくらいかな~」


 ウソだ。

 朱音は、千城先輩と過ごしていたはずだ。

 証拠の動画も瑠海さんから見せてもらっている。

 念のため、動画データも貰ってある。

 いざとなれば“切り札”として使う。


「朱音が俺のことを考えてくれるなんて嬉しいね」

「当たり前だよ~。一緒に住んでるんだもん」


 俺の腕を引っ張る朱音。

 こうして家に戻れば、俺に甘えるように接してくる。だが、なんの感情も生まれることはなかった。


 心は極寒のように冷めている。

 かつて感じた温もりはもうない――。


 自室へ向かい、俺は制服を脱ごうとするが、朱音がついてきていたことに気づく。


「どうした、朱音」

「いつもお世話してあげてるでしょ~」

「そうだっけ?」

「うん、だってお兄ちゃんのこと好きだから。ずっとお世話するんだ」


 ……ウソだ。

 ウソだ。ウソだ。

 ウソだ。ウソだ。ウソだ……!


「ひとつ聞かせてくれ、朱音」

「なぁに?」

「最近、三年の先輩と……仲良いよな?」

「…………さ、三年の先輩さん? なんのことかな」


 朱音は一瞬動揺しつつも、平静を装っていた。声のトーンが弱々しくなっている。……やっぱり。


「最近、出費も増えていないか。家計簿が赤字だぞ」

「そ、それは……ほら、お洋服とか……買ってる……から」

「俺は毎月のバイト代……五万をお前に任せている。全部消えてるよな」

「食費とか掛かるもん。ふ、普通だよ」


「そうか。それならいいけど」


 服を着替え終えると、朱音は明らかに顔を青くしていた。今、素直に話すのなら少しは許してやろうかとも考えたが、その気配はなかった。



「あ、あのね……わたし、お兄ちゃんのことが好きだから! ほら、将来はお兄ちゃんと結婚するって言ったじゃん。だからね、安心して?」


「俺のことが好き? 信じられないな」

「え……?」


「朱音は俺のことなんてどうでもいいんじゃないか? 他に好きな男がいるじゃないのか?」



 朱音から本音を聞くまでは、なるべく感情的にならないよう冷静な言葉で俺は追及していく。



「他に好きな人なんていないよ。お兄ちゃんが大好き」



 俺に切り札を使わせてくれるな。

 頼む、本当のことを言ってくれ。



「最後にもう一度だけ聞く……朱音、三年の先輩さんと付き合っているんだろ」

「そ……それは……ご、ごめんね、お兄ちゃん」


 涙目になって謝る朱音。

 ようやく認めたか。


「分かった、もういい……けど、俺たちの関係はもう……」

「そんなの嫌だよ!」

「いいか、朱音。これでも俺は怒りをかなり抑え、譲歩している方なんだぞ。これ以上、俺を怒らせるな。千城先輩とよろしくやればいい」


「そんな! お兄ちゃん、わたしを捨てるの……!?」


「それはこっちのセリフだ。朱音、お前が俺を捨てたんだろうが。裏切ったんだろうが!」


「で、でも遊んだだけだから! 別に付き合ってるとかないし!」



 まだウソをつくのか!!

 もう限界だ!!


 俺は“切り札”を使うことにした。


 懐からスマホを取り出し、あの映像を朱音の目の前につきつけた。



「朱音、これがお前の本当の姿なんだろ!」

「…………っ!」



 そこには着衣の乱れた朱音と千城先輩の濃厚に絡み合う姿が映っていた。もう言い逃れはできないぞ。

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