第3話 愛してしまったの……

 声が漏れないように必死に耐える瑠海さんは、エロくて可愛すぎた。

 俺もはじめての経験に震え、緊張でたいした動きはできなかった。

 それでも、俺は辛うじて大人の階段をのぼることができた。


「……気持ち良かったです。瑠海さん」

「私もよ、隼くん」


 瑠海さんは、俺にキスしてくれた。大人の甘くて深いキスだ。


 俺は幸せを得た。 

 すごく幸せだ……。


「時間も遅いのでそろそろ帰りますね」

「そうね。千城はお風呂に入っているようだから」


 隙を見て、俺と瑠海さんはクローゼットから飛び出た。

 千城先輩にバレないよう、玄関を目指していく。

 ゆっくりと、ゆっくりと。


 ……ふぅ、玄関まで無事に来られた。


「今日はありがとうございました。曇っていた心が晴れました」

「それは良かったわ。でも、妹さんとやっていける?」

「分かりません。でも、あれでも義理の妹なんです」


 果たして妹して見れるかどうか怪しいところではある。

 今、俺の心は壊れかけている。

 いや、もう壊れてしまったという方が正しいだろうか。

 そうでなければ、こんな状況にはなっていない。


「そう。無理しないでね。いつでも私を頼ってね」

「その時はよろしくお願いします」


 俺は背を向け、玄関から出ようとした――が。



「あれ、母さんいたのか……って」

「千城!!」



 ちょうど千城先輩が風呂から出て来てしまった。

 驚いて身を引く瑠海さん。

 俺も石像のように硬直するしかなかった。


 ……やっべ、見られてしまった。



「お、おい……お前!」



 千城先輩が俺の顔を見て驚愕していた。

 そうだろうな。

 朱音の、一応兄がこんなところにいれば何事かと思うだろう。


 けど、妹に手を出した千城先輩にも責任はある。だから……。


「か、千城先輩、どうもです」

「朱音の兄の隼……だよな?」

「そうですよ」

「俺に文句を言いに来たのか?」

「文句? いえ、そんなんじゃありませんよ。俺は、瑠海さんに会いに来ただけです」


「……は? 母さんに!? てか、母さんを名前で呼ぶな! 気色悪い!」


 当然の反応だ。

 実の息子にしてみれば、恐ろしいほどの拒絶反応が出て当然。だけど、その表情が見たかった。


「千城先輩が悪いんですよ」

「な、なんのことだ!」

「とぼけるんですか。俺の義理の妹・朱音に手を出していましたよね!!」


 怒りや憎悪など全ての感情を混ぜ、俺は叫んだ。



「…………っ!」



 あの表情は図星だ。

 千城先輩は冷や汗を流し、明らかに挙動不審に陥っていた。



「だからですよ」

「な、なにが?」

「千城先輩、あんたの母親を寝取ってやった……」


「………………え」


 俺の言葉に処理が追い付かないのか、千城先輩は呆然としていた。



「もう一度言ってやる。俺と瑠海さんは愛し合った! さっきお前がリビングでのほほんとしていた

ときにな!」


「うそ……! うそだ……」

「うそじゃない。そうでしょう、瑠海さん」


 確認するように俺は、瑠海さんに視線を送る。瑠海さんは当然うなずく。


「ごめんなさい、千城。私は、隼くんを愛してしまったの……」

「な、な、なにをいっているんだ、母さん……!! そ、そんな……うそだあああああ、うああああああああああ……!!!!」



 発狂するように千城先輩は絶叫していた。



「先輩……いや、これからは義理の息子かな」

「…………ぁ、あぁ、うああああああああああああああ!!!」



 千城先輩は、恐ろしいものを見るような目で俺を一瞥いちべつし、玄関から飛び出して行ってしまった。


 その直後、俺のスマホに連絡が入った。



 朱音:お兄ちゃん、帰りが遅いよ~? 大丈夫?



 ……朱音。

 次は朱音の番だ。

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