第20話 魔改造

「トルク? これ以上ですか?」

 そう言うと、あからさまに嫌そうな顔になる。


「ああ。一歩目が欲しい。静止状態からの踏みだし、そこだけ別のサポートでも、乗せて早くできないか?」

「うーん。重くなりそうですね」

 彼の考えはなんとなく分かる。それ用の駆動モーターを組むつもりなんだろう。


「でも、実際動いていると、一歩目が意外と多いんだよ」

「そりゃそうですけどね。ギヤードモーターで、トルクを出しても、レスポンスはどうかな?」

 やっぱり。


「単純にトルクというと、ギヤードになるのか? 逆に負荷になりそうだ。昔の車のATみたいに、回転を常時させておいて、瞬間だけクラッチを繋ぐのは?」

「トルコンですか? もう博物館にもありませんよ。クラッチも構造は理解していますけれど、そんな使い方。すぐ焼けそうだし」


 翌日、返事が来た。


「伸び側で、一瞬だけ圧縮空気を使います。その方が無駄がないので。ぽんと入れて、後は解放。圧力は油圧で送ります。シャフトの強度が不安ですけどね」

 話をするメカニックは、とんでもないクマを目の下に飼っている。

 視線もなんだか怪しいし、表情が変だ。手伝ってあげよう。


「イメージは分かる。コンプレッサーとサージタンクを乗せて、どのくらい増える?」

「使うのは一瞬ですから、容量もそんなに必要ありません。ホバーで機動させるわけじゃないのでしょ」

「それ、良いなあ」

「やめてくださいよ、先ずは一歩目の改良。腕も必要ですか?」

「ありがたいな」

「とりあえず、一機だけ組みます」

 ふらふらと、一緒になってカーゴへ向かう。


 後日。


「よーし、久しぶりに混ざる」

「できたの?」

「一応、仮組み。メカニックがゾンビになった」

「あらま」

 そう言われて、工場側を見ると、メカニック数人が壁にもたれて眠っている。

 幾ら守秘があると言っても、人間をもう少し増やせば良いのに。


「じゃあ軽くやってみよう。動けそうなら少し組み手だな」

 館野に言ったつもりだが、ぼーっと葵ちゃんを見ている。


「おい。大丈夫か?」

「ああ。幸せだ」

 予想以上に、ぼけた返事が来た。


「やるぞ」

「ほいほい」

 あの分じゃ、俺が言ったことを、聞いていないのだろうな。


 さて、動かしてみる。

 ノーマルモードと、パワーモード。

 スイッチを入れると、コンプレッサーが回り始める。

「よしよし。タンクの置き場所がなくて、背負うことになったが、汎用機だとフレームから見直さないとな。まあ実用になればだが」


 タンクをくぐり搭乗する。

「むっこれは、太るとやばい」

 何とか潜り込む。

「転がって、タンクに穴があいても怖いな」

 そう思いながら、一歩目を踏み出す。


 パシュッと言う、大昔のターボについていた、ブローオフバルブのような音がする。それは良いが、骨が軋む。

 体が、足が勝手に持って行かれる。

 手を伸ばそうとすると、手も、少し動かした瞬間反応する。

 思った以上に効くが、デチューンは簡単だ。圧を落とせば良い。


『おーい大丈夫か?』

 ヘッドカムから、館野の声が聞こえる。

『何とかな。大丈夫だろう。背中は攻撃をするなよ』

『分かった』

 得てして、こういうのはフラグと呼ばれる。


 いくつかの、模擬戦闘中、館野が振った模擬刀。

 俺の動きが速く、背中を叩く。

 ホースを繋いでいた、ジョイントを叩きやがった。

 エアが抜ける音。

 あわてて、パワーモードのスイッチを切る。

 エアが抜けるまで待って、降りる事になった。


 見ると、接続部の根元から破損。

 このタンク、急ごしらえのワンオフ物。

 仕方が無いので、自分で修理を始める。


 だが、少しの時間でも、効果は十分確認できた。

 フレームへの内蔵でもして経路を隠せば、簡略化できる。


 起き上がったメカニックと、図面を考える。

 今のサポートアーマーは、体より少し大きいくらい。

 それがもう一回り大きくなるが、フレームとタンクを一体化して作り直した。

「窒素と酸素に分ければ、水中も」

 そんな怖い意見も出たが、どこへ向かうつもりなんだろうか?


 そんな平和な時間。

 ユーラシアのある国は、滅んでいなくて、地下へ潜っていた。

 まあ今頃、植物も工場で大量生産できるし、元々何かの意図があって造っていた物なのだろう。

 そこで、自動対応反撃装置を装甲車や軽戦車に搭載し、新開発のAIにその運用を任せた。

 まあ構造は簡単。

 その国の中では、いま地上にいるものは、すべてモンスターとしたのだろう。

 動く物は、すべて殲滅。

 そんな作戦が実行された。


 テスト地区での運用はうまく行き、実効支配エリアを広げるため、航空戦力まで投入開始。

 燃料や武器、弾薬補充もAI管理のファクトリーで自動化。

 その結果は、目を見張る成果を残す。


 だが、指定エリアに、敵がいなくなると、AIは勝手に中継施設を構築。その範囲を拡げ始めた。

 当然、空も地下も。

 そして、以外とそのAIは賢かった。


 元データは、某先進国の自動増殖型AIハルマゲドン。

 元の設計データには、強制停止や実効範囲を定める安全装置が組まれ、安全に敵国での悪を消滅させる機能を持っていた。

 ハルマゲドンの名前から分かる様に、ヨハネの黙示録に書かれた神の裁きの事。


 中途半端に組んだため、抑止のない神の裁きが、今始まった。

 最初の設定通り、動く物の殲滅。

 救いは、武器が旧型であることと、核が含まれなかったこと。

 だが造った国の地下施設は、二週間で殲滅された。

 自身で造った、神の裁きによって。


 追われるように、モンスターは拡大し、それを追うように自動機械が、世界に広がり始め、世界は、終末へと向かい始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る