第19話 結果。新世のフォローと出世。

 ニヨニヨしながら、新世と浅見が俺たちを見ている。

 アーマーの中で戦闘中だが、スピードがいつもより遅い。


 結局、遅れるのは一緒だということで、昼飯を食って、ゆっくりと来た。

 彼女は、早く行きましょうと焦っていたが、『大丈夫』だと言って、俺が誘ってゆっくり来た。普段なら。

「いやあ。すまんすまん」

 そう言えば、許してもらえる。

 そう、いつもならね。


 先日の、葵が負った怪我のおかげで、装甲の改良とマシンの強化。つまりタイプ01型改を今日に限り、陸軍の上役が見に来ていた。

 少し考えれば、改良型のお披露目と葵の復帰。上が見に来るタイミングとしては、ベストだろう。


 たらたらと、訓練所へ入ると、何故か、ドアの前に見慣れない奴らが二人立っていた。俺たちを見て、素直に敬礼をして通してくれたが、俺の中で警鐘が鳴る。

 そう心理的に、何か焦りを産ませる音色。



 いつもと違う、少し緊張する雰囲気。

 いつも聞こえる雑談や評価が、聞こえない。


 激しくぶつかるアーマー二つ。

 それは、いつものこと。


 その向こうに見える。見慣れない違和感。制服組三人ほど。

 いやあ。やばい。

 俺達のマシンの方へ、こそこそと近寄っていく。

 俺達を見かけたメカニック達が、一瞬こっちを見て、ふいっと目をそらしやがった。


「おい。これ一体何だよ?」

 小声で聞く。

「晩稲曹長が、今日から復帰に合わせて、新型アーマーのお披露目。お偉いさん、朝十時から来ている。君達、お偉いさん。待たせた。首危ない。分かる?」

 なんで、どんどん片言に。


 ああ。そか、気がついたのね。

 あの人たち、こっちに、来ているよ。

 逃げられない。

 ワタシ、シンゾウバクバク。アタマグルグルネ。


「お疲れ様です。視察ご苦労様です」

「です」

 二人で、ビシッと敬礼をする。


「きみが、晩稲曹長だね。遅れたようだが、まだ体調がよくないかね。まああの怪我で、まだ一月。軍医が言うには、全治六ヶ月以上が普通。本当なら無理はよくないが」

「はっ。お心遣いありがとうございます。えと」

 葵が言いよどむ。


「失礼します。彼女からは言いづらいと思いますので。本日アーマーに機乗するのが多少ストレスになっていたようです」

「そうか。まあそうだね。無理はしないように。今、見ているように要望を入れて、改良し、多少危険度は下げたはずだ。君もテストをして、何かあればリポートを上げてくれたまえ」

「はい。ありがとうございます」

「うむ」

 そう言って、ニコニコと微笑んでくれた。


「だが、晩稲曹長が体調が悪く、連絡を入れられないようであれば、君が発見をしたときに、連絡を入れるべきだったな」

 そう言って、ぎろりと睨まれる。


 横から、情報が行ったようだ。

「館野曹長、機乗したまえ。君は問題ないのであろう」

「あっはい。失礼いたします」


 そうしてあたふたした俺は、きっちりと、新世にとどめを刺され押さえ込まれた。

 あーうん。秒殺という奴だ。


「彼は素晴らしい動きだな。手足のように扱い、スピードがみんなより一段階早い」

「彼はプロドライバーで、契約で開発に協力をしていただいています」

「なんだと、軍の人間じゃないのか?」

「ええ最初、軍内部に扱える人間がおらず。彼に依頼をして、改良し、一般の兵でも乗れるように仕上がった次第でございます」

 そう言うと、お偉いさんは考え始める。


「そうか。彼、士官待遇で入らんかな。プロのドライバーなんだろ」

「今は、世界が混乱中で開催されていませんが、国際ライセンス保持者です」

「ううむ。だが、佐官は無理だな、士官で准尉か准尉長辺りで頼んでみてくれ」

「はい」

 そう言った後、視線は、館野の機体へ移動する。


「それにしても、先ほどの男。あっという間に倒されてしまった。ふがいない」

「ですが、彼も、今正規で乗っている者達を簡単に倒せます」

「何だと、そんなに違うのか」

「ええ。彼らは特殊なのです。肉体は、人間をやめています」

「そうだったな。身体測定でトンという単位を初めて見たよ」

 思わず、案内をしている士官も苦笑い。


 やがて、デモが終わり。克己が降りてくる。


「いやあ素晴らしい。君、本格的に軍にはいらなかね」

「ええ。良いですね」

「今なら、士官待遇でどうだ」

「お願いします」

 さらっと返事を返したつもりだが、理解してくれなかった。


「何なら、専用の機体を作って、赤く塗ろうじゃないか。どうだね」

「ええ。お受けいたします」

「うむ。えっ良いのかね。赤くするよ」

「いえそっちではなく、入隊お受けします」

「本当に?」

「はい。よろしくお願いいたします」

 そう言った瞬間、偉い手さんのお付きが、わたわたしたが、すぐに復活。


「それでは、速やかに契約を、してくれたまえ」

 そう言って、視察も終わったのだろうが、上官さん。上半身は威厳を保ち、足下がスキップをしている。


 今日来てよかった。彼の加入は、私の説得と報告をしておこう。

 そうして、館野の遅刻はうやむやになった。


「辞令が来た」

「凄く早いな。どれ? 准尉? 上官じゃないか」

「そのようだ。よろしく頼むよ館野曹長」

「へーい」


 そうして、克己が班長となり、アーマーの魔改造が加速していく。

 赤くはならなかったが。

「どうして、赤くしないかだって? 目立つからさ」

「そうなんだ。なんとなく軍の中では高性能イコール、赤って言う伝統があるのよね。後金色とか」

「金色って、対レーザー兵器用のシールドか?」

 そう言うと首をひねる、彩佑。


「さあ、本当に分からないの。大昔からの伝統みたい」

「軍というのも、変わっているな」

 二人で首をひねる。


「そうね。そう言えばあの二人、仲良くできているのかしら?」

「ガキじゃないし、後は知らん。気まずくなったら、館野を降格しよう」

「かわいそうに、館野さん」

 彩佑の中では、館野の降格は決定事項のようだ。


「追放したら、頑張るんじゃないか?」

「そうかしら? 追放系って、隠れたとか、気がつかない能力が必要なのよ」

「何の話だ?」

「さあ?」

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