第16話 悲劇は起こる。

 おれが、知り合いチームのマシンで、自分の化け物加減を確認していた頃。


 ユーラシア大陸の、調査に出かけた日本軍の兵達。

 候補生だった彼らも、慣れていっぱしになった頃。

 大体悲劇はやってくる。


『二時の方向。大型注意』

『『『りょ』』』


 大型って、何あれ?

 見えてきたのは、ジャイアンとな、ジャイアントパンダ。

 立ち上がった高さは、優に三メートルを超えている。


『かわいくない。目が赤く光っているし』

『カムで愚痴るな』

『りょ。すみません』


 五機ワンセットで運用中。

 右手には、重機関銃(じゅうきかんじゅう)を装備。

 背中には、兵の要望に応え大型の剣が装備されている。

 ロマンと、背中側の装甲を兼ねている。


 そして周りの雑魚を一斉射で吹っ飛ばし、かわいくないパンダに銃口を向ける。

 だが、右に動くと思われた巨体は、足を踏み換えし、左前へと転がる。


 囲むように、展開していたサポートアーマー部隊は、反応が遅れる。


 二人が、ボウリングのピンのよう跳ね飛ばされて転がる。

 すぐさま、ジャイアンとなパンダは、ローリングから左足で蹴り起き、左手で目の前のアーマーをぶん殴る。


 悲鳴を上げながら、吹っ飛んでいくアーマー。

 巨大な力で、殴られたためマシンの右半分がちぎれ飛ぶ。


 残りは一台。

 その機を、赤い双眸が、捕らえたとき。

 さっき飛ばされたうちの一台が、剣を抜き突進してきた。

『やらせるかぁぁ』

 捨て身の攻撃で、パンダの背中から胸まで剣を突き通す。


『みんな無事か?』

 班長が、周りを見回すと半壊したアーマーを発見。


 晩稲(おくて)伍長が乗った機だった。

 皆はあわてて、残骸や伍長の右手まで拾い退却をした。


 晩稲伍長の状態は悪く、応急手当と心肺装置をつけ日本へと向かう。

 連絡を聞いて、神野が二つ返事で受け入れを受諾。


 二時間後には、到着をした。

 伍長。晩稲 葵(おくて あおい)二十三歳。女。身長百六十二センチメートル。

右手、欠損。肋骨までダメージ。右肺挫滅。

 非常によくない状況。


 だが、神野には問題ない。

 女の子のため、傷が残らないように注意して、施術を行う。



「どういう事だ。伍長は腕ごと持って行かれたぞ」

「どうしても、手足は装甲が薄くなりますから、受けた攻撃の方向が悪かったとしか言いようがありません」

 研究所のスタッフと、彼女を送ってきた隊の上官との会話。


「それか、丁度爪が装甲のつなぎ目に入ったのかもしれません。部品は回収されたようですから検証いたします」

「頼むよ。生身じゃ危なくて、作戦を実行できないんだ」


「分かりました」


 かなりのご立腹。

 鳴り物入りで導入し、初めての被害。

 それまでに行った作戦実績で、それなりに評価は受けているのだけど、やはり部下の怪我は心にダメージが来るようだ。


「あー。また、連勤記録が更新される」

 周囲にはパンデミック隊と呼ばれている。

 部屋の中で、ゾンビが徘徊をしていると。だが、実際。一体二体、混ざっても分からんなと納得をする。仕事をしてくれればゾンビでも良い。死んでいるならこき使っても死なねえ。それが現場の本音だ。


「候補者!! 今度は軍属だ」

 資料を持って、嬉しそうに館野がやってくる。


「ほう、どれどれ」

 資料を見て、顔をしかめる俺達。


「モンスターの攻撃らしいが、ひどいな。無事治ったのか?」

「いや、まだ治療中」

 怪我の内容と、資料が添付されているが、かわいい感じの顔は良いが、右半分が押しつぶされた感じで右手は肩の下から欠損。右側半分。胸の形がおかしい。


「押しつぶされた感じだな」

「そうみたいだ。立ち上がったら、三メートルを超えるパンダだってさ」

「うわー。あれって結構、野生種は凶悪なんだろ」

「まあ熊だからな」

 そう言いながら、館野は資料を読み込む。


「何を見ているんだ?」

「スリーサイズ」

「ひど。彼女まだ、死にかかっているのよ」

「それはそうだけど。なあ、男なら気にするよな」

 そう言って、こっちを見てくる。

 そうなの? と言う顔で、彩佑まで見てくる。


「俺に振るな。それに好きになれは、気にならん」

 館野に言うふりで、彩佑に伝える。


「えへ。よかった」

「あーまた。いちゃつく」

 館野がすねる。



 そんな頃。

「克己に婚約者?」

「ああ、かわいい子だったよ。性格も良い感じだったし」

 嫌みを混ぜ、彼女に伝える。

 話し相手は、衣借 美栄(かりぎ みえ)。克己の元婚約者。


 未だ界隈でうろうろしていて、克己が走ったことを聞いたらしい。

「それで、彼どうだったの?」

「普通に、体は大丈夫そうだったよ。ただもう引退だとさ」

 そう聞いて、思いっきり驚く。


 そして都合よく、勝手な解釈を発動。

 つまり、体は治ったが、レースをするのは辛いのね。だから、引退か。

 かわいい彼女というのは、業腹だけど、壊れたのならあげるわ。

 誰か、探さなきゃ。


 この勘違いは、ある発表があるときまで継続する。

 そして、その後騒動を起こす事になる。


「ありがと」

 そう言って、ぴらぴらと手を振ると、ピットから離れていった。


「いい加減、スタッフ扱いをやめさせないと駄目だな。守衛に言っとかないと。克己に迷惑だ」

 そう彼女。顔に覚えがあるせいか、勝手に我が物顔で入ってくる。

 ぼちぼち、色々なところから、苦情が上がる様になる。


「ここは? 私は?」

「気がついたかい? 病院じゃないが、君は治療中だよ」

「そういえば、パンダに吹っ飛ばされて」

「そうそう。今はゆっくり療養をして」

「はい」

 彼女は、すぐ後。自分の体に起こった異常に気がつき絶望する。

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