第14話 凶悪な体

「おーい。機体を壊すな」

 本部から、通信が入る。


「盾か何かが欲しい」

「盾か、良いなあ。俺も欲しい」

 今日も元気にじゃれ合っている、克己と彩佑。

 館野はすでに、ひっくり返っている。


「新世はおかしい。どうして後ろからの攻撃が分かるんだ?」

「アラームが鳴るじゃないか」

「いやそれはそうだけど、浅見と戦っていたはずなのに、後ろから行った俺のマシンのヘッド部分を、模擬刀で突っついて、体勢を崩した瞬間に蹴ってくるってどういう事だよ」

「その後、反動を生かして、私のコクピットも蹴られた」


「機体は同じ性能だぞ」

 本部から合いの手が入る。


「これは、機体がどうこうという問題じゃない。それに時々新世の模擬刀が光っているだろ。なんだよあれ?」

「秘密だ」

「やっぱり新兵器か?」

「いや俺達はできるらしい。例のあれを、意識による物理変化だってさ」

「例のあれ。あれか、熟練の差と言うなら、俺が一番長いはずなんだが」

「きっと気合いが違うんだよ」

「ちっ。言ってろ」


 いつもの様に、打ち上げ。

「「「お疲れ」」」

 ジョッキをぶつける。


「かー美味い。それで、例のあれって、具体的にどうするんだ?」

「そのままだよ。意識して、物理現象として変化させる」

「物理現象?」

「光とか、燃えろとか、水とか。魔法だな」

「じゃあ、呪文がいるのか?」

「呪文じゃなく、明確な反応についてのイメージかな? 指先なり掌なり、にじみ出したナノマシーンよ火となって館野を燃やせとかな」

 そう説明すると、眉間にしわが寄る。


「呪文じゃないか?」

「だから言葉には意味がないんだよ、思いの方が重要。ついでに体も意識すると早く動く」

 そう言うと、二人共がびっくりする。


「何それ? 聞いていない」

「言っていないけど、彩佑お前は分かっていると思っていた」

「えっ。どうして」

「繋がっている感覚の時は、同じだから。あれは意識の強化。ついでに部分強化していつもやっているだろ」

 今度は、彩佑の眉間にしわが寄る。


「それでいつも、私が負けるの?」

「そうだな。でも気持ちいいだろ?」

「そうだけど」


「楽しそうで良いなぁ」

 館野が冷や奴をスプーンで潰し始めた。

 そのまま一気に飲む。


「意識の訓練なら、生身でできるぞ。火は危ないから光とかな」

「あー。体の中から滲ませて、光れ」

 館野がそう言いながら、人差し指を見ていると。見事に光り出した。

「こりゃいい」


「できたじゃないか。後は地道に訓練だな」

「おう。分かった、かっこよさそうな呪文を考える」

「だから呪文は、必要がないというのに」

 そう言って笑う。


 あの不幸な事故から、色々あって今の状態が凄く楽しいぞ。

 前は、日々が辛かった。

 周りからの評価は、できて当たり前、できなければあいつは駄目だ。そんな世界だった。


 俺は本当に戻りたいのか?

 彩佑と館野。

 みんなが等しく努力。まるで中学生時代のクラブ活動。

 去年までは、あいつは少なくとも、『頑張ってよ。じゃないと恥ずかしいじゃない』いま思い返せば、俺のことより、自分の見栄が優先。

 そんな事にも気がつく余裕がなく、俺は焦って、無理をして突っ込んだ。とてもじゃないが曲がれないスピードで。


 自業自得。

 見事に、再起不能と言われた瞬間に捨てられたし、いま考えればよかった。

 思い出の流れで、つい、元婚約者のことを考えてしまった。


 その気持ちは、彩佑に備わった能力と、女の勘にプラスされて、気がつかれたようだ。

「むう。余所の女の事を考えている?」

「よく分かったな。今が幸せだと考えて、去年までは不幸だったと思い返していた」

「あーそう。そうだね」

 照れてれと、赤くなる彩佑。


「あーいいなあぁ」

 そして、館野がいじける。

 今度は、山芋の短冊がクラッシュされて流し込まれる。

 トラップに、揚げ出し餅を注文しておこうか? 混ぜるときに気がつくか?


 噂をすれば、やってくるもの。

 他の二人と違い、俺は世間から隠れていないため連絡がつく。


 珍しく、家の電話が鳴る。

「もしもし、私。美栄なんだけど、久しぶり。元気そうな姿を映像で見たわ」

 思わず眉間にしわが寄る。プロモーション用の動画配信か?


「何の用だ?」

「何よ、その言い方?」

「婚約は解消をしたし、他人だろう。連絡をしてくる方がおかしい。違うか?」

「そんな言い方をしなくても。ねえもう体は完全なの?」

 なんとなく、ピンときた。


 目の前で、不安そうな感じで座っている彩佑の頭をなでる。

「普通の生活には問題ない。手足は、お前も知っているとおり義手義足だからな」

「義足? でも」

「でも何だ?」

「この前のビデオでは、普通そうに」

「ああ凄いだろう。最近のものは本当に凄い」

 言いながら、腕と足は作って貰った。義理の手足で間違いないよな。

 言い訳をしながら、心の中で舌を出す。


「……じゃあ、戻ってこないの?」

「どうだろうな? だが情熱は随分冷めた。体もこんな感じだしな」

「そう。……じゃあ」

 そうして電話を切ったが、彩佑は不満そう。


「そこはやっぱり、レースには戻るが、よりは戻さないと言って欲しかったな」

 そう言ってふくれっ面。


「悪い。だがレースに戻る気が冷めたのは本当なんだ」

「どうして? 戻るために頑張ったんでしょ」

「だけどなあ。今の方が楽しいし。力の事を考えると、凶悪なドーピングだ。知覚と各種機能。人間としては限界突破をしている。絶対ずるいだろう」

 俺がそう言ったことで、思い当たったのだろう。


「確かにずるいかもね。今度試しに乗ってみたら?」

「そうだな」

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