第13話 最悪の事実

 噂をすればなんとやら。

 新人候補がいるようで今、絶賛死にかかっているようだ。

 館野が嬉しそうに、報告書を持ってくる。


 だがそれは、最悪の情報だった。

 一緒に書類を見ていた、彩佑の顔から表情が抜けて青ざめる。

 館野もそれに気がついた。


 浅沼 暁姫(あさぬま あき)十八歳。

 犯罪行為により逮捕。主犯とは認められず執行猶予中。

 関係グループのお礼参りと見られる暴行を受け、全身打撲。右眼球神経挫滅。

 多数の骨折。女性器並びに肛門裂傷。


 等々。


「まあ、自業自得だな」

 この言葉を言ったのは、彩佑が告白をしてくれたから。

「辛かったな」

 そう言うと。

「あなたに出会えたし、おかげでつらさも大分癒えた」

 そう言って、笑ってくれる。


「こいつは駄目だ、先生に言ってくれ」

「分かった」

 館野が答える。


 だが数日後。

 神野エイメス先生が、マッドでサディストであると理解をする。


「先生、痛いし、体中が動かないの。何とかしてよ」

 何とか顔だけ動かし文句を言う暁姫だが、神野先生はどこ吹く風。

 実際、いま見ているカルテは、暁姫のものではなく。これから来る三人のもの。

 ナノマシンプラントの拡張について考察中で、興味は三人から否定された瞬間、暁姫から失われていた。


 外から、ノックが聞こえて返事を返す。

「いいよ。入って」

 ドカドカと数人が入ってくる音がして、暁姫は何事かと目で追う。

 そして、信じられないものを見た。


「なんで、死んだはずでしょう?」

 機能が残っている左目は、大きく見開かれる。


「あー。間違いないようだね。警察の調書だけで、かわいそうな方かと勘違いをしてしまった。もう引き取った以上返せないし困ったね」

 神野先生は、やれやれというかんじだ。


「そいつが何を言ったか知らないけれど、私は被害者よ。大体そいつは死んだはず」

「君には残念かもしれないが、私が全身全霊をかけて生き返らせた。それでまあ、君も書類通りならかわいそうだし、何とかしようとしたのだが、君の調書。中身が事実誤認だと分かってね。おかげで私の計画も狂ってしまった」


「先生、そいつが何を言ったのか知らないけれど、嘘なの」

「残念だがね、警察に出したはずのいくつかの証拠が隠蔽されていたようでね、複製品を彼女が隠していた所から発見をした。君達には何か伝手があったようだね。警察にも手を入れないといけないね」


 そう言うと、焦り始める。

「そいつが悪いのよ。彼を誘惑するなんて」

「誘惑じゃないよね。彼の方が彼女を見初めて手を出した。それを手助けするついでに、彼がまた、彼女に手を出さないように他の男も用意をした」

 そう説明されると、目が泳ぎ始める。

 導き出した答えは、言い訳を諦めたのか告白し始める。


「あいつに抱かれるだけなんて、ご褒美じゃない。だからあたしは。他の奴らに声をかけたのに、連れが捕まったのはお前のせいだなんて。信じられないあいつら」

 そう声を、張り上げる。


「さてと、せっかく来ていただいたから、最終判定をしていただこう。館野君が、チーフかな?」

「まあ今のところは、そうですね。不採用と言うことでお願いします」

 その答えを聞いて、また左目が見開き。館野を見つめ俺を見つめ彩佑を見つめる。

 ぎょろぎょろした感じが、彼女の焦りを物語る。


「次は、新世君だね」

「当然不採用です」

 そう答えながら、彩佑の肩を抱く。


「おやおや、もう決まってしまった。最初に浅見君に聞くべきだったかな。すまないね浅見君」

「いいえ先生には、感謝しています。死にかかった私を助けていただいて、おかげで、彼にも会えたし。絶望の中で諦めた幸せをいま満喫しています」

「ほう、と言うことは、二人は恋仲だと。それは良い。プラントの二世への影響も調べられる」

 そう先生が言うと、彩佑は焦る。


「その検査って、赤ちゃんに影響とかは出ませんよね」

「当然だよ。そんな事はしない」

「なら良いです」

「じゃあ俺にも候補を是非」

 館野が焦ってお願いをする。


「そうだね。問題がなければ、彼女が候補になり得たが、駄目そうだ考えよう。彼女はそうだな別の繁殖実験にでも使おうか」

 それを聞いて、暁姫ビクッとする。


「ちょっと待って、私だって男なら誰でも良いわけじゃ無いの。やめてぇ」

「同じようなことを叫ぶ彼女を、君達は、笑いながら見ていたよね。そういうのを因果応報というのだよ。こちらもただ飯を食わすようなことはしない。頑張りたまえ。浅見君、彼女に会えるのはこれで最後だろう、罵るなり殴るなりどうでもできるよ」


「いいえ。先ほども言った通り、思い出したくもない最悪な経験でしたが、そのおかげで彼に会えた。それで十分です」

「うん? 彼女を許すの?」

「いいえ。許しません。それはそれ、これはこれ。彼女にかける言葉などないだけです。後は先生のお好きなように」


「分かった、そうしよう。面接はこれまで。お疲れ様」

 そう言われて、俺達は退室をする。


 体の動かない彼女は、目だけで俺達を追いかける。

 その時、彼女の目から涙が伝う。


「さて、彼らにはそう言ったが、何に使えるかな?」

 そう言いながら、私は特別室から、簡素な病室へ移動させられた。


 毎日毎日、何をされるのか分からない恐怖が私を襲う。

 気は狂いそうになり、何かされているのか、ちっともよくならない体の痛み。


 そして、思い出してしまう、照れ照れとしたあの二人の雰囲気。

 お互いが、求め合っているのが見て分かった。

 私の欲しかったもの。

 皮肉なものね。

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