第12話 実験の中で、確信を得る。

 また、俺は吹っ飛んでいた。

 当然正式に配備しても、改良は必要。


 ただし、基礎実験では無く、空手の型を覚えて、その動きを試す。

 テストに、相方ができた。


 今朝見たときに、嫌そうにしていた館野。

 彼が今回、もう一機に乗っている。

 知らなかったが、彼が初期のテストオペレーターだった様だ。


 本気では無いが、組み手を行う。

 その中で、やはり繋がる感覚。

 彼の方は分からないが、こちらでは、動きが予想できる。

「こりゃいい」


 当然、館野はコロコロと転がり回る。


 テストが終わり、ぐったりとした様子で降りてきた。

「克己、あんた何か武道の心得があるのか?」

「いや、型だけ資料を貰った」

「それにしては、動きが良すぎる。俺は生身だが、戦闘訓練を受けているんだ」

 そう言いながら、首をひねっている。


 その疑問は、武器を装備し始めて、さらに顕著になっていく。

 その時俺は、この所ずっと思っていたが、サポートアーマーとの一体感を感じていた。

 今持っている模擬刀と呼ばれるが単なる鉄パイプ。

 その先まで、素手で持っている感覚がする。


 自分と相手、それを鳥瞰する感じで理解できる。

 突き出されてくる模擬刀。

 半身で躱し、模擬刀を外から内側へ押し込み、同時に膝を出してコクピットを蹴りあげる。

 それだけで、館野は気を失った様だ。


「もういやだ」

 降りてきた、館野の第一声がこれだ。


 館野がパイロットをするため、今日は彩佑も付いて来ている。

「じゃあ、久しぶりに乗ってみる」

 彩佑が手を上げる。

 当然スタッフは、ノリノリ。

 何よりも、情報が優先。

 聞くと少しの期間だが、彩佑もオペレートしていたようだ。


 問題は無いようで、彩佑が乗り込む。

 無線で、『前より全然まし』と声が入る。

 初期型っていったい?


 『はじめ』

 声が掛かり、一気に距離を詰める。

 足で、相手のつま先を詰めるように踏み込み、腕を掴み上半身をねじる。

 俺の視界の前を、彩佑の乗った機体が飛んでいく。

 見事に、転がっていき、動かなくなる。

 だが、怪我のないことと、なんだか幸せな感情が流れ込んでくる。


 なんだ?


 『気持ちいい。もっと』

 そんな声が聞こえて、すっくと立ち上がる。

 それから、小一時間。戦闘? 訓練を行う。


「あー。ジェットコースターみたいだった」

 妙にハイテンションで、降りてくる彩佑。


 それと対照的に、メカニック達が焦っている。


 棍棒。鉄パイプで、強化ボディがヘコんでいたからだ。

 戦いの中で、腕が延長され強化するイメージ。

 一瞬、炎が出たのも見えた。


 録画をしていたので、きっと見返し彼らは悩むだろう。

 そうきっと、俺は魔法使いか新型の人類として覚醒した。

 今度、検診時に先生に聞こう。

 あの先生なら、当然だよと言いそうだけどな。


 その晩は、館野と三人で、居酒屋へ直行して反省会を行う。


 多少、館野が落ち込んでいたしな。

「新世が凄いのは、ずっと見ていたから知っているが、浅見はどうしたんだ? 初期型より大分はましだが、大きくは変わっていないぞ」

 凄い勢いで聞いてくる。


「あー理由は、言えないけれど、縦揺れは訓練のたまものかな」

 でヘヘという感じで、彩佑が照れる。

 それを聞いて、俺はピンときてしまった。


「縦揺れ? 慣れた? あっ。そうかなるほどね」

 館野も気がついたのだろう。ニヤニヤと嫌らしい顔になる。


「新世はおとなしそうな顔をして、そんなに凄いのかぁ」

「うんそう。凄いの。初めての事を色々知ったわ」

 真面目に彩佑が暴露する。

 ほら見ろ。館野の顔が、凄く下種な感じになったぞ。


「仲が良さそうで、何よりだ」

 この時は、知らなかったが、館野のプラントより彩佑のプラントが強力で、俺のはもっと強力だったらしい。

 データはできたから、二人のプラントも埋め直すと、後日神野エイメス先生が言っていた。それと、外での具現化はナノマシーンのオーバーフローで、これは意図して行ったものだという事。ナノマシーンで魔法使いを造れると確信していたようだ。

 結局、俺ももう一段大型プラントを埋めると決められ、その計画は進められることになる。


 ただこれは、秘密で口外禁止。軍内部でも言っては駄目だと口止めされる。



 酔い潰れた、彩佑の顔を見ながら、館野に相談する。

 こいつと寝ていて、夢を見る事。

 多分それは過去。こいつに対して現実に起こり、彩佑は今の状況になっていること。

 何とかしたい。


「その気持ちの根底はなんだ。頼まれたわけじゃないんだろ?」

「ああ、こいつは俺には多分言わないだろうし、俺が何かをしても心の負担は消えないかもしれない。だが、奴らは生きている。何かの折。出会うこともある。その時こいつの苦しむ顔は見たくない」

 そう説明すると、館野のニヨニヨが止まらない。


「愛だな。いいなぁ。その年でその青臭さ。俺も彼女が欲しい」

「この中で、ガチガチの守秘の中。誰かと付き合うと確実に監視対象だな」

「だよな。でも仲間になるなら、身体的には最悪の状況で、連絡が来る幸運が必要だからな」

「かわいい誰かの、不幸を祈るのは嫌だな」

 それを聞いて、一瞬。

 たしかにと思い、顔に出たようだ。


「そうそれも、俺を好きになって貰わなきゃならん」

 ごまかすように、館野の冗談が刺し込まれる。


「そうか、それは難問だな」

 笑いながら、それに答える。



「おい。泣くぞ」

「冗談だよ。おまえは良い奴だ」

「ありがとう。だが、俺はノーマルだからな」

「安心しろ。俺もだよ」

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