第9話 彼女の秘密

 彼女、浅見彩佑(あさみさゆ)は一度死んだ。

 実際は、死にかかった。


 だが普通なら、すでに死んでいたはず。


 彼女は、高校三年生になるまでは、普通に友人もいて楽しく高校に通っていた。

 それなりにモテる容姿だった。

 だがそれが、一人の男の目にとまり、その男がぼやいた一言で、人生が変わってしまった。


「あの子、かわいいよな」

「はぁっ、あたしが横にいるのに何言ってんのよ」

 その男が見た、視線の先に目を向ける。


「あの女。浅見じゃんか」

「おっなんだ。知り合いか? 繋ぎつけろよ。らんこーしようぜ」

「真面目ちゃんだからなぁ。レイプショーかな。連れを連れてきてよ」

「おお良いね。何時やる?」

「あんたね。私の立場は?」

「なんだ。調子くれやがって、嫌なら別れんぞ」

「いや、ごめん」


 次の日から、何故か突然クラスではぶられて、いじめが始まった。

 夏休みになれば、きっと大丈夫。

 彩佑は、期末試験を受けて、終わると逃げるように帰る日々。


 その日は、帰ろうと思ったら、靴がなくなっていた。

 上履きで、玄関へ降りる。

「おんや、真面目な浅見ちゃんが校則違反だ。あんた靴は?」

「隠され、いえ無くなって」

「探してきてやんよ」

 むろん自分が隠した靴。

 適当に時間を潰し、適当に傷をつけた靴を渡す。


「これかい。あんたいじめられてんの?」

 傷の入った靴を、突き出してくる。


「ありがとう。そうなの突然」

「何とかしてやろうか?」

 その言葉に驚く。

 親しい友人が教えてくれた言葉だと、こいつが、この女が主犯のはず。


 まさか違ったのか?

 いえそんな事は、無いはず。

 きっといじめの一環なのだろう。

「良いわごめんなさい。靴ありがとう」

 そう言って玄関を、出ていく。

 足早に、家へと向かう道を歩く。


 その途中で、背中から衝撃を受ける。

 EVは、無音なので、作動音的な音が出るようになっているはずだが、全くの無音で轢かれた。体が軋む。その瞬間、数人に抱え上げられ車へ連れ込まれる。


「あら、おめざめ」

 体が痛い。気がつけば学校の机のように見えるが、拘束具が付いている。何これ?

「なんでこんな」

「ごめんね、彼氏があんたとしたいんだってさ、相手してあげて、一回くらい良いでしょ」


 そこからは覚えていない。

 気がつけば、どこかの駐車場。


 スマホに着信があり、わざわざ、ビデオを撮影してくれたようだ。

 相談? 病院? 警察? 私は、忘れたい。靴や鞄を並べスマホのロックは外し、名前と住所、あいつの名前を書いて逮捕してくれとお願いして、六階の屋上から飛んだ。


 体が痺れてよくわからない。

 親が、誰かと話をしている。


「脊椎損傷。自発呼吸も厳しくあまり長くは……」

 

 警察から連絡があり、病院へ行く。

「性的被害にあい、突発的に自殺したようです」

「そんな、助からないんですか」

「助かっても、これから先……」


「……ならば、かけてみますか? 国の秘密と言うことは、表向き娘さんは亡くなった事に……」

「…… ええ。お任せいたします」


 そして、お父さんとお母さんの言葉。

「「ごめんね。助けるためだ」」


 また意識は途切れた。


「はい。目は覚めたかな? 意識はどう?」

 知らない天井に知らない人。


 体が、感覚が無い。

 目線だけは動く。私の首に変な機械が繋がっている。


「君は、体中複数箇所の骨折と、首の骨が挫滅。まあ現代医学では完治は難しい状態だ。だがしかし、君のお父さんとお母さん達がサインをした。君に意識が無かったからね。君は、最新技術の被験者となり、正義の味方になって貰う。理解したら、瞬きをして」

 よくは分からなかったが、正義の味方という言葉が心に響いた。


「良し。意思確認は終了。君の体は、元の体とは比べものにならない物にしてあげよう。君の境遇は聞いた。でも今から、君は生まれ変わるんだ。分かったね。そういう点ではものすごくラッキーだ、お金を積んでどうにかなるものでは無いしね。ゆっくりお休み」


 そして、私はぼやけた意識と、体中の激痛で目が覚めた。

 右手を伸ばし、コールボタンを押す。


「どうされました?」

「痛くて、体中が痛くて、何とかしてください」

「あらあ、おめでとう。そっちに行くわ。せんせぇ。センセーってば」


 おめでとう? 何それ。

 そこで思い出した。自身の状況。

 痛みに耐えながら、さっきボタンを押した右手を見る。

 ぐぅぱあとしながら、物が触れる感覚を確認をする。

 感じる。

 親指と、人差し指、中指、薬指。小指。すべて分かる。

 左手を動かそうと思ったら、管が一杯刺さっていた。


 何故か左手に、金属のホースを刺すような、部品が生えている。


 他にも、なんだかおかしい。

 右手で、体をまさぐる。胸の真ん中にも傷があり、お腹にも。


 背中側を、触ったとき、記憶がふっとフラッシュバックをする。

 でも、そうね。体は新しくなった。

 記憶だけ。忘れてしまえばいい。

 右足太ももにも傷跡。ふくらはぎにも。


 そうやっぱり、私は全身変わったの。


「ああ、神経が、完全に繋がったね。まあ薬はあげよう。まだ数回痛いけど頑張ってね努力できないようなら、彼を見ると良い。右手右足も無くなっていたから大変だ。彼は失った物を取り戻すまで。君より大変だが、彼は努力するきっとね」


 そうして、私は彼を見続けた。

 先生に聞くと、一方的で向こうからこちらは、見られないようだ。


 彼は意識を覚まし、努力し始めた。

 無くなって、造られた手足、慣れない感じでぎこちなかったが、すぐに克服し普通に動き始めた。思わず自分のことのように嬉しかった。


 そんな折、私の方が先に退院し、私は、全く別の戸籍を貰った。

 歳は同じ、十八歳。

 今は、新型機械の開発テストをしているけれど、無理。

 立ち上がって、少し動くだけで内臓が。


 すぐ、首になり、トレーニングと、武道を習う。


 そしてフラッシュバックの悪夢は見なくなって、良かったけれど、彼の数ヶ月見続けた。裸の彼が、眠っている私を優しく抱き寄せる。

 そして、名前を呼ばれて、優しいキス。

 いつもそこで、目が覚める。


 そして、話が来た。特殊で、人数少ないからね。

 彼が、例のテストをする。

 そしてこちら側の、フォローをする。

 彼は私たちと違い、表の世界に顔がある。

 私は、彼の世話をするのに立候補した。

 その時はまだ、あまり期待していなかったけれど、都合良く酔っていたし、見続け見慣れた体が目の前に。もうね数ヶ月お預けされていた気分。

 彼に嘘をついた、襲ったのは私。眠っている彼を少し味見した。


 彼の気持ちは分からないけれど、好きになって貰えばラッキーくらいで付き合っていこう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る