第8話 思いもしない、生活の始まり

「まあ、始めましょうか」

 歩兵用、サポートアーマー。タイプ01型に乗り、取り扱いの説明を受ける。


「と言うことで、グリップ力が高いので、加減速はかなり来ます。上下動は、かなり緩衝させているので、ビルの五階程度からの落下なら怪我することもありません」

「ありがとう」

 基本的な動きだけなら、体を動かすだけで動く。


 だが、わずかなラグが、どのように影響するのかは不明だ。

 だが、動き始めて理解する。

 上下動、緩衝はするのだろうが、その分ふわふわが凄い。


 これは内臓に来る。

 うわ、三半規管もやばい。


 何とか、千メートル走は終わった。

 一分もかからない。時速だと、六十キロくらいか。

 ああ、目が回る。

「お疲れ様です。次は反復横跳び。準備をお願いします」

「はい」


 多分、線と線の間隔は普通の一・五倍ほど広い。


「よーい、始め」

 うりゃ、うりゃ、うりゃ。必死で、反復横跳び。言っていたように、加速で意識が薄れる、停止もひどい。内臓が左右に揺さぶられる。

 

 先生に習ったように、意識をして、身体強化を始める。

 すると、一気に楽になった。

 空間全体の、スピードがゆっくりになる。

 テストの時と同じ。俺の周りがゆっくりとなり、空気の流れさえ粘りが出てくるようだ。

 だが、百回を越えてきた頃だろうか、右足のフレームが耐えきれず、ぶっ壊れて吹っ飛ぶ。


「どわーあああぁ」

 俺は叫び声を上げなら、すっ飛んでいく。


「おっおい。生きているか?」

 のぞき込んでくるメカニック。


「なんとかな。それより強度不足だ」

「すまない。今まで、機械より先に人間が壊れていたんだ。原因ははっきりしている。あんた今暇なんだろう。専属で契約をしてくれ」

 そうして、訳が分からないが、専属契約を貰った。


 金額は多くはないが、テスト時以外は、好きなことができる。ただ、ボディガードという監視役が付いたが、気の良い奴で問題はなかった。

 ただこいつ、ボディガードのくせに一緒に飲むんだよ。


 館野と言って、実にボディガードらしい名前。二十八歳。年上らしい。


「いや、あんた凄いね。死にかかって半年で復帰? 信じられないぜ」

「いやまあ。普通なら死んでいた。たまたま良い先生がいて、良い研究があった。それが見事にはまって、命をつなげたんだ。感謝だよ」


「そうか」

 彼は、あの研究所の関係者ではなく、外部組織の人間で、まあ国の人間だということだ。

 そして、俺は酔い潰れ、組織にはめられる。


「おはようございます」

 目を開けると、かわいい顔があった。


「そういう、あなたは誰?」

 俺はあわてて、ベッドから飛び起きる。


「ひどいわね。一夜を共にした仲なのに」

「なんとなく記憶はある。ついでにしたことも。思い出した」

 そうだ、館野と交代でこの子。

 浅見さんだ。この子が家の中でのボディガード。

 よく知るためなら、良いわよ。そう言って、抱き合った。


 事故の後、俺の姿に絶望して婚約者が去った後、半年。

「思い出してくれて嬉しい。どうだった? あまり慣れていないから自信はないの」

「いやまあ。良かったと思うよ」

 そう言うと、じっと見てくる。


「はっきり言って。覚えていないでしょ」

「あーうん。すまない」

「さすがに、自信をなくすわ。学生時代は結構モテたのに。ちなみに、仕事だからと言って、普通寝たりしないから。あなただからなの。その、一目惚れ? なんだから、いじめるとぐれるわよ」

「分かった」

「で、どうする。裸で、話をするのも恥ずかしいんだけど、午前中はオフでしょ。もう一回する?」


「そうしようか。じっくりと堪能させて貰おう」

 商売柄なのか、髪は肩までのミディアム。

 軽くブラウンにして、毛先の方だけパーマが掛かっている。

 どこかの受付とかにいそうな感じ。

 胸も、下の毛も控えめ。

 

 あまり目立つタイプは、ボディガードには向いていないのか?

「んんっ。いやっ」

「嫌っていうのは、どっちなんだ? 本当に嫌なのか? ならやめるが」

 脇腹から、背中に掛けて触れると嫌がる。


「うーん多分。少しのトラウマ。優しく愛してくれればすぐ慣れるっ。やさしくっうん。だってばぁ。いじわる」


 その後も優しく、彼女を知るため努力をした。

 どうやら満足したようで、爆睡した。

 

 館野といい。良いのかそれで。


 適当に朝食を作り、コーヒーを飲んでいると、血相を変えて彼女がリビングへ走り込んで来た。

 一糸まとわぬ、姿のまま。


 俺を見た瞬間、泣きそうになる。

「起こしてよぉ。置いていかれたかと思っちゃった」

「良いけど、服を着るなりシャワーを浴びるなりすれば?」

 そうして、彼女は自分の格好に気がついた。


「わきゃああ」

 そんな声を上げて、ベッドルームへ戻っていく。


 少しして、服を着た彼女は戻ってきて、ぽすんと向かいに座る。

「頂いてよろしいのでしょうか?」

「うん。男の料理で、たいした物じゃない。口に合うかは知らないよ」

「大丈夫です。おかげさまで、凄くお腹がすいていますので。頂きます」

 そう言って手を合わせると、こわごわ、サラダや目玉焼きに手を伸ばす。


「ご飯とパンどっちが良い? 味噌汁ならインスタントになるけれど」

「ひゃい。ごはん。自分でよそいます。お椀をお貸し頂ければ」

「じゃあ出すついでに、よそってくる。待っていて」

 そう言うと。

「はい」

 それだけ言って、もじもじし始める。

 なんだか、かわいい。ボディガードという感じじゃないな。

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