第5話 ヨーロッパも、滅亡に向かう。
日本でそんなことを言っていた頃、ヨーロッパで残っていた国は、未曾有の危機を迎えていた。
言わずとしれた、モンスターの来襲。
それが、質の悪いことに伝染し、広がり仲間を増やす。
さっきまで、仲間だった兵士が噛まれてゾンビ化をする。
分かっていても、撃つのは辛い所業である。
「畜生、あいつは来週結婚をすると、あんなに嬉しそうに……」
酒を飲みながら語っていた。
てれてれと、だらしない顔を見ると、もげちまえと思ったのは確かだが、今向かってくる奴は、血の気がなく、ただ獲物に食らいつきたいと近寄ってくる。
どこかの映画のように、俊敏じゃないのが救いだ。
とにかく、動く目標は当てにくい。
そのため、バーストモードでばらまく。
だが、情報で、ゾンビはヘッドショットだと、伝えられている。
照準し、見越し撃ちで三発ばらまく。
見慣れた友人の顔が砕け散る。
思わず、目を伏せる。
だが、こんな戦場でそんな行為は危険だ。
次にやってくるのは、子どもが生まれた。父親として頑張るよと言っていたあいつだ。
だが奴は、奥さんに、妊娠中の浮気がばれた、くそ野郎だ。遠慮はしない。
話すとおもしろい奴だったが、今は、ジョークも言わないだろう。
言われても困るが。
元仲間だった奴らを、撃ちまくる。
何故そんな事にと言うのは、奴らの出てくるところが、基地だからだ。
さすがに、宿舎内では装備を外していた。
そこを、襲われたのだろう。
俺達は、攻撃に出た帰りだというのに。
もう弾倉が。弾がない。
俺達も、気を抜けば奴らの仲間となる。
「おい残りは、まだ弾はあるか?」
「掃討作戦だという事で、基本の倍。一人頭マガジン十個はあったが、もうあまりない。入り口の作戦用倉庫の中か、武器庫を奪取しないと駄目だ」
「そうだな。行くぞ」
勝手知ったる基地の中、俺達小隊は五十人。
「おい。嫌みな上官様だ。皆撃て」
一気に皆の銃が火を噴く。
「今の、ゾンビだったのか?」
「確認する暇はない、だが、アドリーヌなら捕まえて確認するぞ」
「ああ、良いな。おれは、ブリジットを探そう」
「おう、そうか、頑張れ」
ブリジットって、いやまあ、個人の趣味だ。多くは言うまい。
大事な戦友だ。
ブリジットは売店の、セリーヌの娘で……。
「あっ。いた、ブリジット」
「オーギュスト」
抱き合う二人。
そうか、そもそも、付き合っていたのか。
二人は親子ほども、年が離れている。
だが、ブリジットは、四十歳を越えているはずだ。
「悪い、ブリジット。他の人たちはどうした? 無事な人間は?」
だが、ブリジットは、俺の問いかけ、それを無視して聞いてくる。
「生き残っている隊員は、これだけなの?」
「ああ、作戦に出ていたのは、俺達だけだ」
その瞬間に、にこやかだった顔が変わる。
「なんだ、つまらない」
そう言った瞬間。彼女の右手には、オーギュストの首が握られていた。
したたる血を飲み始める。
訓練のたまものか、自動的に体が反応して、銃を向けて連射をする。
だが、ブリジットは、左手で軽々とオーギュストの体を持ち上げ盾にする。
後ろから、撃った誰かの弾が俺の右耳をかすめる。
痛え。
だが、その甲斐があって、オーギュストの体を通し、ブリジットに当たったようだ。いつの間にかブリジットの背中には羽が生えていた。コウモリのような真っ黒な羽。
念のために、頭にも撃ち込み、さらに胸にも撃ち込む。
「誰かニンニクを持っていないか?」
「食堂に行けばあるかもな。持ち歩く奴は、アジア人くらいだろう」
「ああ居たな」
隅から隅まで探したが、生存者はいなかった。
この基地は、急遽作られた前線基地だが、二大隊。二千人はいたはずだ。
モンスター化しても人数が少ない。
「おい。人数が合わん。どこに行ったと思う?」
「逃げたなら良いが、夜這いだろ。近くには村がいくつかある」
「そうか。そりゃ最悪だな。隊の残り、千人を超える人数に、村人か。装備を固めてパリに戻ろう。本部はまだ落ちちゃいないだろう」
「サン・ドミニク街のブリエンヌ館は、大丈夫かもしれんが基地はどうだろうな? まず、人数と弾薬。近くの基地へ行くのはどうだ?」
「無線で、呼びかけながら行くか、返事がなければ素通りにしよう。無駄玉はないからな」
「そうするとしよう」
俺達は、腰を上げる。
宿舎から出て空を見上げると、もう明るくなってきていた。
赤く、燃えるように。輝く空。
ふと、腕時計を見る。
六時過ぎ。
「おい。今の日の出は何時だ?」
「今なら、七時頃だろう? どうした?」
「空が赤いし、まだ六時だ」
「あっちは、パリかな?」
騒いでいた皆も、聞こえたのか静かになっていく。
一発銃声が響く。
バカが一人、諦めたようだ。
「まあ、何とかなるだろう。祖国が駄目なら、傭兵として南に向かうか」
「おおい。酒と弾薬は積めるだけ持って行くぞ」
「途中で、買えるか分からんからな」
笑いが起こる。
そして俺達は、燃えるパリに向かっていく。
そして、誰かが言う。
「見ろ、あれが巴里の火だ」
「笑えねえよ」
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