第4話 そして感染は、恐怖と共に広がる

 牛が、馬が、ペットが変異する。徐々に広がっていく変異。

 神野の作った株なら、こんな事にはならなかったはずだった。

 いい加減な管理で、混ざった何か。


 それは、非常に丈夫で、文字通り感染を拡大していく。

 猿は、ゴブリンになり、犬はコボルとやウルフ系に進化。

 豚は、オークに進化して、情報の遅い田舎でその勢力を広げて、もっと大きな所へその活躍の場を広げていった。


 そして、何故か、人間の多くはゾンビとなり、ごくたまにオーガへと変化した。


 ユーラシアでは、それにより静かに小国が滅んでいく。


 倒すには、心臓を止めるしかない。

 だがゾンビ系はヘッドショット。

 中途半端な攻撃だと、他のモンスターもゾンビ化していく。



「いやあ。おめでとうございます」

「ありがとうございます。まさか自分で立って、自分の足で歩いて退院できると思ってはいませんでした」

 喜んでいる彼に、そっと近付き忠告をする。


「気を付けてください。あなたは今、常人を越えた力を持っています」

「分かっていますよ。もう何度も忠告されましたから」

 そう言って、彼は笑う。


 もう、彼を信じるしかない。

 だが、彼には言っていないが、軍関係者の監視が付いている。

 発見したとき、暴れなければ良いが。


 ぴらぴらと、手を振り離れていく彼を見送る。


「無事、問題も出ず。うまく行ったようだね」

「まあ、経過観察でしょうか? どんな影響が出るのかは、まだ不明ですから」

「脅さないでくれ。それと、盗んだ彼女は、海に浮かんだそうだ」

「どこですか?」

「日本海側だ」

「あー。じゃあ、情報は来ませんね」

「そうだな。ユーラシアの半分は、国交がないからね」

「悪用されませんように」

「渡ったのなら、無理だろう」

 むごい返答を、しらっと所長がぶっ込んでくる。


「まあ、それも含めて、軍には渡すぞ」

「オプションもセットで売ってください。彼の状態を見ると、非常に相性が良さそうです。常人の十倍くらいは出ているかもしれませんので、サイバネティクスと骨の強化は必須だと言ってください」

「ああ、そうだな、自身で体を壊すな」

「ええ」

 そこし考え、所長の顔が悪どく歪む。


「高く売ろう。量産を頼むよ。それと、埋め込みのレシピを詳しく」

「できています。偏光素子の中に入れています」

 そう言って、ピアスを一つ渡す。


「最近は、宝石を見ると記憶素子に見えるな」

「良いじゃないですか、結晶方向でダミーを書いておけるし、ぱっと見宝石なら読めなければメディアだと思わない」

「そうだな、そう言えば、前に材料部が作っていたフォトンタイプはどうなった?」

「焦点深度で、苦労していたみたいですよ。カードなら良いのですが、形状がメディアぽいのは致命的でしょう。後どうしてもリーダーが大きくなる」

「そうか」



 それから数ヶ月後、監視衛星でユーラシアの異常が発見される。

「ゾンビ大陸?」

「ええ。動き回っていますが、体温がないそうです」

「大気の層で、赤外がフィルターされているのじゃないか?」

「無人機で計測しました」

「まあ、そうだよな」

 頭の中に紙製、使い捨て無人機が思い浮かぶ。


「それにこれ、普通の生物じゃなくファンタジーですよ」

 出された写真には、確かに映画で見る空想生物が走り回っている。


「もう少し調査。分布をしっかり確認後、ヨーロッパに流してやれ」

「奴らの技術でも、気がついているでしょう?」

「分からんぞ、被害が大きかったから、どこまで復活しているのか不明だしな」

「そう言えば、ジェットエンジンを組んでいるとか、流れていましたよね」

「そうだ、技術レベルが二千年前半まで、戻っている可能性がある」


「外交的優位か」

 そう言って、嫌そうな顔になる。


 この頃、戦争の影響で中間圏を透過する紫外線が多少増加、弱い生物は皮膚を焼かれていた。


 そのため、人種により影響を受けていた。

 皮膚癌の罹患率が多少高い。

 有意差が出るという程度だが、まあ過剰に反応する事もある。


 そこで、有色人種の陰謀論とかが出てくる。

 こちらが優位になればなるほど、それは顕著になって行く。



 そして、計測の結果。ユーラシアは、モンスターの楽園になっていることが判明。

 大騒ぎになる。


「国は、国家はあるのか?」

「不明です」

「外交チャンネルはないし、確認ができん」

「そうですね、あいつら国境を越えると、いきなり撃ってきますからね」

「人づてでも良い、遠回りでもいい。確認しろ」

「はい」



 数ヶ月後。

「国はないようです。と言うか、確認が取れないそうです」

「良し、海側から確認と必要により攻撃。防衛戦を引け。陸に近いところは海洋生物も変異の可能性がある、できればサンプルを取れ」


「はっ」


 緊急で、対策が取られ、一般にも布告される。

「日本海側は注意してください。見慣れない生物には近寄らないで。すぐ警察か国防軍に連絡をしてください」


「一応、現在のところ、海洋生物に変化はないようです。それと、海が綺麗になっていたと言うことです」

「と、言うことは、生活がないという事か」

「そう、なりますね」

「おいおい。全滅か」

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