第21話 ヘルナンデス・トイル
ヘルナンデス・トイルは、伯爵子息であるが三男であり、家督を継げる可能性はほぼない。
そうなると、彼の道は家柄の良いところへ婿に入るか、騎士になるかの選択だった。
肉体を使う事は嫌いだったので、彼は婿に入る道を選んだ。
顔は美形、仕草も洗練されており、身分も三男だが伯爵子息だ。婿養子先は沢山あった。けれども彼は一つに決められず、ふらふらと女性の間を渡り歩いた。
そして彼は気がついた。
自分は幼女が好きだと。
初めは童顔の女性を好んでるのかと思ったが、子供も参加するお茶会に参加してから、彼は自分の嗜好に気がついた。
けれども、現在この国では幼女とは結婚できない。
孤児院に訪問して幼女を愛でたりしたが、一線を越すと犯罪者だ。社交界から追い出される。
なので彼は堪えた。
そうこうするうちに、どんどん歳を重ねて、家督を継いだ兄から結婚への催促が強くなっていく。
そうして参加した夜会で、再婚相手を探している未亡人に出会った。顔は好みだが歳を食い過ぎていた。だが兄におかしな相手を当てがわれるよりマシだと、彼女にアプローチした。
年齢にそぐわない初々しさは可愛らしかったが、なんせ年齢が問題。もし彼女が幼い頃に出会うことが可能であったならばと夢想しながら、求愛を続け、婚約まで漕ぎ着けた。
だが直ぐにダメになってしまった。その原因は彼自身の素行の問題で、家を追い出される事はなかったが、早く行き先を決める必要がある。しかし、一度婚約解消された彼に寄ってくる女性は遊び目的の女性が多くなり、結婚の道のりはどんどん厳しくなった。
それで彼は家を出る為に金を得る事を考え始め、寄ってくる女性に貢がせ売り払い収入を得た。そのうち裏の社会の人間も知り、彼は国を出て好みの幼女と暮らす欲望を抱くようになった。
そんな時、前の婚約者マーガレットに似た幼女の話を耳にして、彼は愛人であるベロニカを巻き込み、好みの幼女を手に入れる計画を立てた。
「可愛い子。これからずっと私が可愛がるからね」
睡眠薬が効き、マーガレットは深い眠りについていた。
ヘルナンデスは彼女の小さい体を抱き上げ、腕に抱き、その髪を愛しげに撫でる。
薄暗い倉庫には他にも数人いたが、彼はただマーガレットだけを見つめていた。
☆
ラナンダ家の応接間に現れたのはジョセフが率いる近衛騎士数名と、もう一人、それはケルヴィン・シュメリダ公爵だった。
「ベロニカ。お前はもう我が妻ではない。よってシュメリダの名を使う事は許さない」
シュメリダ公爵は、ベロニカへそう宣言した。
「ど、どうして」
「今まで、私はお前の行動に目を瞑ってきた。どのような男を連れていようとも。だが人を攫うなど以ての外だ。お前はもう我がシュメリダ家の人間ではない」
「ケルヴィン様!」
「ジョセフ。手間を取らせるがよろしく頼む」
シュメリダ公爵は泣き叫ぶベロニカを一暼する事もなく部屋を出て行った。
「ベロニカ。店の者から証言が出ている。貴様が加担したのは明らかだ。本来ならば我ら近衛騎士の管轄ではないが、陛下から許可は頂いている。デラック、連れていけ!」
ジョセフは部下にベロニカの捕縛を命じる。
近衛騎士によって縄を手にかけられ、彼女はふらふらと立ち上がる。目は血走り、真っ赤な唇はひび割れていた。
ベロニカはジョセフを睨んで笑った。
「ふふふ。私はもう終わりだわ。だけどあの子達も道連れよ。今頃海の上かしら」
「海の上?!」
サミュエルが先に反応し、ジョセフははっと目を開く。
「今頃海だということは、すぐ近くの港だ。私はビラビティ港へ行く。デラックとアレックはベロニカを王宮へ、残りは私に続け」
「僕も行きます!」
サミュエルの言葉にジョセフは頷き、騎士たちはすぐに行動に移した。
「サージ。悪いが後のことは頼む。僕はジョセフ様と一緒に行く」
「ご無事で!」
「当たり前だ」
サミュエルは執事のサージに屋敷のことを預け、厩舎から馬を借り、ジョセフたちに続いた。
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