呵呵大笑

 お父さんはよく笑うひと。

 ハハハハッと大声を出して笑う。

 テレビを観て笑い、新聞を読んで笑い、ご飯を食べて笑い、寝ながら笑う。この前なんかは、つまんない昼ドラを見て笑っていた。

 私はお父さんに尋ねた。


「何がそんなに面白いの?」


 お父さんは自分でも分からない、と笑いながら首を振った。

 私はお父さんの笑顔が好きだけれど、いつも笑顔だからマジメな顔を見た事がない。


 ある日、お父さんは厄年を気にして、神社にお祓いをしに行った。

 すると、除霊師は眼をかっぴらいて尻餅をついてしまったそうで、お父さんの肩を何度も叩いてゴニョゴニョと不思議な呪文を唱えたらしい。

 お父さんはお祓いの時もずっと笑っていたけれど、除霊師が最後に背を叩いた瞬間から、お父さんは一切笑わなくなった。

 テレビを観ても、新聞を読んでも、ご飯を食べても、寝ても笑わない。


 そんな様子の可笑しいお父さんが一年くらい続いた。


 けれど数日前、お父さんは朝早くから何処かへ出かけて、夜遅くに帰ってきた。

 家のドアを開けたお父さんは飛び切りの笑顔で「ただいま!」と叫んだ。

 その日以降、様子の可笑しいお父さんはいつもの笑うお父さんに戻った。家には毎日ハハハハッというお父さんの笑い声が響き渡る。


 そんなお父さんを見て、「笑わないお父さんよりも、笑うお父さんの方がいいな」と私も、ハハハハっと笑顔になった。

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