第50話 勇者

世界が、変わった。




魔物たちは、まるで可愛い小動物のように、人間たちと共存している。




結局、生まれた村に帰ったオレに、村人たちが代わる代わる感謝の意を表した。


ふざけんな。


何が勇者だよ。


お前らが褒め称えている全ては、キルトが、魔物がやってくれたことなんだよ。

オレは何一つやってない。

ただ、側にいただけなんだよ。


うんざりだよ。


帰って来るんじゃなかった…



旅の日記だって、読んだら悲しいだけじゃん。




家の中に閉じこもっているオレを、イリアが訪ねてきた。


「勇者様、何も口にされていないのではないですか?」


オレは「勇者」なんかじゃない。


美味しそうに飯を食うキルトの顔が浮かんで、何も食べることができない。


「お粥を作ってきたんです。一口だけでも召し上がりませんか?」

「うるさい。うるさい。うるさい。オレは『勇者』なんかじゃない!」

イリアは驚いた顔をしたが、

「アイザック様は、わたしにとって『勇者様』です。覚えていらっしゃらないかもしれませんが、わたしが『デブ』だとか『チビ』だとか、いじめられていた時、いつも助けてくださいました。」

と言った。



「イリアはデブでもチビでもない!ちょっとぽっちゃりしてるだけだ。すごく可愛いんだ。」



「わたしは、いつも救っていただきました。だから、わたしにとってあなたは、いつも『勇者様』です。」

イリアはにっこり微笑んだ。

あまりにも優しく笑うから、涙が出てきた。

「何があったか存じませんが、お辛いこともありますよね。わたし、絶対に誰にも言いませんから、どうぞ、泣いてください。」




ありがとう…




ありがとう、イリア。




ずっと泣けないでいたオレは、イリアの胸で、バカみたいに泣き続けた。

身体中の水分が全部出ちまうんじゃないかと思えるほど、泣き続けた。





涙も枯れた頃、オレは、宿屋を始めた。

人間も魔物も泊まれる宿屋だ。

ここに来れば、みんな大量のカラアゲが食べられる。

イリアが手伝ってくれた。


数年後、オレはイリアと結婚して、その1年後、女の子が産まれた。


ギルティシアと名付けた。


一度耳にしただけで、一度も呼んであげられなかった名前を、人間の女の子に名付けた。




「か…らぁげ」


「なぁ、今カラアゲって言わなかったか?この子…」

「赤ちゃんだから、まだ話せないですよ。」

イリアはそう言った。




でも…




転生しても悪役令嬢じゃなかったよ、キルト。



「転生したら、元魔王の娘だったわたしが、前に一緒に旅したやる気のない元勇者の娘になっていて、溺愛されて毎日カラアゲをたくさん食べさせてもらって、人間として幸せになっていました(86文字)」へ続く(嘘)。




END

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