第44話 ハジマリ

もう食堂の主人に話しかけないように、慎重に店を出ると、ロンバルドって人の家を誰か知っていないか、村の人に聞いて回った。


「狸が畑を荒らすから困ってるんだ。」

「えーん、えーん、エマが僕のおもちゃをとったんだよぉ。」

「ひぃっ、魔物!」


案の定、こっちの質問なんか無視した返事しか返ってこなかった。


意味深な看板を見つけて近寄って見ても、「花壇に入るな」と書いてあるだけだったし。



「ねぇ、あの人は?」

キルトが言う方を見ると、竹川急便の服を着た、配達中の男がいた。


「すみません、世界の果てにある魔王の城を探してるんですけど、ご存知ないですか?ロンバルドって人が隣に住んでるかもしれないんですが。」

「世界の果ての魔王の城ねぇ…もしかしてアレのことかなぁ?」

「知ってるんですか?」

「うん、何年か前まで配達に行ってたんだけど、世界の果てって、『離島・一部地域』扱いだから、やたら送料が高いって、よく愚痴られてたんだよね。生牡蠣なんかは配送に日数がかかるから購入も断わられるって。冷凍より生が好きみたいだった。」



魔王、生牡蠣好きなんだ…



「それ、どこですか?」

「あ、でももう誰も住んでないよ。何年か前に引っ越して、今はハジマリの村の近くに新しい城建てたって聞いたから。その隣の家がロンバルドさん家なのかな?あの辺は担当地域じゃないからよくわからないんだ。悪いね、配達がまだ残ってるからもう行くよ。」



魔王の城がハジマリの村の近くにある?


ハジマリの村って、オレの住んでた村の近くじゃん!


ちょうどキルトと初めて会った辺りだ。



結局、元凶は神父様だよ。

あいつが「魔王は世界の果てにいる」って、ずっとずっと村のみんなに言ってたから、オレもすっかり魔王の城は世界の果てにあるって思いこんでた。


じゃあ、ロンバルドって、もしかしてあのオッサンか?

でっかい家に住んでて、野球のボールが庭に入ったから取らせてくれって頼んだ時、めっちゃ怒って取らせてくれなかったあの、オッサン?

そりゃ、魔王とももめるわ。



「キルト、オレらが最初に会ったとこまで連れて戻ってくれるか?」

「いいよ。」

そう言うと、キルトは大きな黒い羽を広げて、オレを掴むと飛び立った。



ハジマリの村へ向かって。

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