第35話 本当にバイブルだと思っているのか?

なんとか山を下りると、目の前に大きな川があった。

橋がかかっていたので、渡ろうとしたら、橋の上にいた人々が次々と川に飛び込んでいくのが目に入った。

みんなその手には、6本分の大根おろしを持っていて、髪の毛は赤い色をしている。



正直このくだりは違う意味で危険だ。

今度こそダメかもしれない。

こんな綱渡りをするくらいなら、さっさと魔王を倒した方がいいんじゃないかと、最近感じずにはいられない。



「アイザック、あそこにいる人、『あきらめたらここで試合終ピーーーーッよ』の人だよね?」



キルトはいつのまにかオレのバイブルを読んでいるようだ。

これも全巻カバー付きで暗所に大事に保管してあるやつだ。



「キルト、あれは違う。よく似ているけれど、違うんだ。」

キルトが言っていた、眼鏡をかけて白いスーツを着た恰幅のいい、白ひげをたくわえ、杖を持った男は、橋のたもとで川に飛びこんでいく人々をじっと見つめている。

心なしか説明がくどい。



橋の上で突っ立っていたオレたちのところに、かわいい女の子が近寄って来た。

「大根おろしはお好きですか?」

と、声をかけられる。

なぜか

「大好きです。ラガーマンですから。」

と返事をして、女の子から6本分の大根おろしを受け取ってしまった。途端に髪の色が赤に変わる。


6本分の大根おろしを受け取ったオレは、無性に川に飛び込みたくなってしまった。

橋げたに足をかけたところで、キルトがオレの前でオレンジのタオルを振った。

それで我に返る。


危なかった。

危うくオレンジのタオルを使うことになるところだった。

オレは黄緑か赤いのが好きだ。オレンジじゃない。



これで更に目に見えない敵を作ってしまうかもしれないと思ったが、言わずにはいられなかった。



「あの女の子、操られているみたい。」

キルトが言った。

「この近くに魔物がいるのか?」

「ううん…」

キルトが首を振った。



魔物じゃないなら、なんなんだ?



キルトが悲しそうな顔で、

「白いスーツを着た人が、念じているみたい…」

と言った。



ああ、そうか。

オレは理解した。



白いスーツの男のところに行くと、男が話しかけて来た。

「わたしは、カーネルンサンダーソンという者です。どうか、私がかけずにはいられない呪いをとめていただけませんか?」

「大丈夫だ。あんたはもう、チェーンでつながれている。もう二度と川に放り込まれることはないよ。」


男は、はっとした顔をすると、微笑んで消えて行った。


橋の上を見ると、もう川に飛び込んでいる人はいなかった。


目に見える魔物よりも、心の闇の方がよっぽど怖いのかもしれない…



「ねぇ、アイザック!おれこれ知ってる!橋の近くに飾ってある、この片足で立ってる人の絵って、『たった今 このピーーーーッの子 舞いたった』の絵だよね?」



違うよ、キルト。

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