第34話 リスペクト

鍛冶屋が、魔王を倒せる伝説の剣ができるまで時間をくれと、言ってきたから、とりあえず村を後にした。

ここで待ってても絶対完成しないんだよな。



めずらしく昼間ゆっくりしたせいで、気が付くと夜になっていた。


どうやら、目の前の山を越えなければ次の目的地には着かないらしい。

登り坂かぁ…

キルトについてうねった峠を上っていると、急なカーブにさしかかるたびに、人がたくさんいる。



夜は魔物が多いのに、怖くないんだろうか?



そんなことを考えながら、歩いていると、上からすごいいきおいでパンダが走ってきた。

しかも、手に持った紙コップの水をこぼさないように。

目の前のU字カーブを横滑りしながら走って下って行く。

それを見た人々が歓声を上げた。



嫌な予感がする。



山の頂上に着くと、更に大勢の人がいた。

その中の1人が話しかけて来た。

「あんたもプロテインDのスケさん・カクさん兄弟を見に来たのかい?でも今日は二人とも走りそうにないよ。」



タイム。

タイムだ。


これは絶対一言言っとかないといけない。

全巻カバー付きで暗所に大事に保管してある。

近未来が設定の方だって既刊分は全てカバー付きで暗所に大事に保管してある。

バイブルなんだ。

なんたってこれの影響でMT車だったんだ。



「誰か俺とビニールテープデスマッチするやつはいないのかよ?」

大きな声でさけぶやつがいた。


「あいつ魔物。」

キルトが言った。



やっぱりオレには全然区別がつかない。



「おれやる!」

キルトが声をあげた。


「ほう、それじゃあルールを説明しよう。お互いの剣をビニールテープで手に固定して、この山を走って下るんだ。もちろん戦いながらな。それと魔法はなしだ」



それって…

すっごい変なバトルだよな…

だって走るのは自分の足なんだろ?



キルトがそっとオレに聞いて来た。

「何巻め?」

「え?あ、4巻め。」

「わかった。ちょっと待っててもらって。」

キルトはどこかに行ってしまった。


「おいおい、怖くなって逃げる気か?」

キルトが魔物だと言ったやつは挑発的だった。


「ちょっとだけ待ってくれよ。」

「ふうん。」

でも待ってくれた。

わりかしいいやつだ。


ちょっとしてからキルトが帰って来た。

「準備いいよ。」

キルトはオレにささやいた。

「4巻まで読むの時間かかった。アイザックに文字教えてもらっといて良かった。」



えーっと?

何?



バトルをギャラリーしているやつが、両手と剣をビニールテープでぐるぐるに巻いた。


「言っておくが、両手が塞がってるっていうことは、防具が持てないってことだからな。それに、いつものように剣を振るうのは難しいからな。覚悟しとけ。」



でも、オレは知っている。

第9話読んだらわかるけど、キルトは剣使ってないんだよな…

夜だし、一瞬で終わるかな。



ギャラリーの合図で、バトルがスタートした。



え?



相手の攻撃がキルトより早かった。

それをキルトは、ぎりぎりのところでかわした。



こいつ強いのか?


人の姿をした魔物は強いんだった…



と、思ったら、キルトの攻撃で相手の魔物は一瞬で宝石にかわった。

全然走らなかった。

いつものようにキルトはオレに宝石を投げてきた。



何だよ?

心配させんなよ…



「ちゃんとできてたでしょ?最初ひやっとさせるとこ。」



あ…

そう言えば、4巻で確かにそういう展開があった…



「ちょっといいかな?」

気が付くと、目の前にプロテインDのスケさんが立っていた。


「もうムリ!!怒られる!」

オレはキルトをひっぱって、逃げた。

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