第20話 ボアボアの村
ユーガスに案内され、家に連れて行かれた。
家の中に入ると、すぐに目に入ったのがタンスだったが、オレは開けない。
何なら壺も割らない。
「ま、魔物っ!」
部屋の中の人間たちがキルトを見て叫んだ。
説明しようと口を開きかけたところで、ユーガスが言った。
「この魔物は、勇者様のお仲間ですから大丈夫です!わたしはこの目で見ました!」
なんだか得意げだ。
「わたしが勇者様に助けられ、洞窟を出たところでこの魔物と居合わせたのですが、どうやら勇者様の仲間になりたかったらしく、勇者様に訴えてきたんです。それで、勇者様が仲間になることを了承されたところ、どこからともなくそれを祝福するような、神秘的なメロディーが響き渡りました!」
自分で言っといてなんだけど、「仲間になりたそうにしている魔物」なんて全然わからない。
しかも、BGMはオレが歌ったし。
「そうですか。それなら安心だ。」
一番年長と思われる爺さんが言った。
「それで、なんであんな危険な洞窟にいたかと言いますと…」
ユーガスが言った。
あ、聞いてないのに自分から聞かれた風に話し始めるんだ…
「そこで横になっている弟が病気で、こちらの魔導士様が、洞窟を抜けて北に行った森の中になっている、オリーブの実を食べたら良くなるといわれたので。それを取りに行く途中だったのです。」
ベッドに横になったユーガスの枕元には、いかにもな魔導士が黙って立っていた。
存在感薄すぎて、ユーガスに言われるまでいるの気が付かなかった。
ちらりとキルトを見ると、キルトは、魔導士を睨んでいた。
「何?」
キルトに声をかけると、
「あいつ魔物。」
と、小さな声で言った。
「でも、ここの人たち全然気づいてないけど?」
オレも全然わかんなかったけど?
「めちゃくちゃ弱い。だからあの子の生気を吸い取ってるんだと思う。」
「じゃあ、オリーブの実って?」
「単にあいつが好きなんじゃない?」
オレらがひそひそと何かを話しているので、ユーガスが言った。
「な、何か恐ろしいことでも?」
オレにはそこにいる魔導士が普通の人間にしか見えなかった。
でも、キルトはあいつが魔物で、病気の元凶だと言う。
キルトの言う通りなら、ここであいつを倒してしまえば全て解決だ。
でも、もし違ってたら…
バカバカしい。
オレが自分で言ったんじゃん。
キルトはオレの仲間だ。
オレは剣を抜くと、魔導士をぶったぎった。
めちゃくちゃ弱い。
一瞬人間だったのか?と思ったけれど、切った瞬間、ちっこい宝石になった。
「さすがは勇者様!」
ユーガスが叫んだ。
「一瞬で魔物を見分けるとは…」
爺さんが感慨深そうに言った。
ベッドに寝ていたユーガスの弟は、いきなり起き上がると、
「ありがとう!勇者様!」
と笑顔を見せた。
絵にかいたような大円満で、洞窟ミッションも、オリーブの実を取りに行くミッションもさけられた。
キルトを見ると、嬉しそうにしていた。
ごめんな、キルト。
今回オレが「勇者」やってしまって。
キルトが好きなカラアゲ死ぬほど食べさせてやるから。
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