第8話 勇者あるある

ドアをノックする音で目が覚める。

キルトを見ると、やはり目を覚ましていた。


「どうぞ。」


声をかけると、宿屋の主人と、その後ろに老人が立っていた。


誰だこの爺さん?


「少しよろしいでしょうか?」


嫌な予感…

どうせ「よくない」って言ってもいきなり用件を話し始めるんだろ…


案の定、こちらの了承も得ず、老人は話始めた。

「わたしはこの村の村長をしております、クルガと申します。こちらに勇者様がご宿泊と聞いて伺った次第です。実は昨晩、家に盗賊が入り、大事な宝物を盗まれてしまったのです。」


「それはさぞかしお困りでしょう。」


キルトが勇者っぽいセリフを言う。

だんだん板についてきたな。


「どうか、勇者様のお力で宝を取り戻していただけませんでしょうか。」


はいキター。


そうだよ、昔読んだ「勇者の旅あるある」って書物に書いてあったんだった。

「初めて訪れる村では必ず困りごとを解決してほしいと頼まれる」って。

すっかり油断してた。


「犯人は分かっています。村の東にある、水門をくぐった先の森に住む、盗賊たちです。」


キルトが訴えるような目でオレを見る。

行きたいのかぁ…

仕方がなくうなずくと、キルトは

「どうか我々にお任せください。必ずや宝物を取り返してきましょう。」

と約束した。

「ありがとうございます、勇者様。」

老人は深々と頭を下げた。

「どうか町の道具屋で必要な武器や道具をお揃えください。盗賊たちはとても強いと聞きます。」

「あの、宝物というのは何ですか?」

何を取り戻せばいいのか聞いてない。

「サファイアです。」

宝石ね。

「そうそう、水門の鍵は、この村を西に行った、トリトンの町の町長が持っています。どうか、よろしくお願いします。」

老人はそう言うと、また頭を下げて部屋を出て行った。



やっぱりな。

やっぱりそうなんだ。

東に行くために、まず西に行けと。

この村の方が水門に近いんだから、この村が水門の鍵を管理しときゃいいのに、なんでわざわざ逆方向にある町が管理してるかなぁ…



2人きりになるとキルトが言った。

「水門の鍵とかいらないし。」

「いや、ないと向こう側に行けないから。」

「飛べばいい。」

そう言うと、キルトの背中に大きな黒い羽が現れた。

「アイザックくらい余裕で乗せて行ける。」

「そうできればいいんだけどさ、『勇者」は一応人間ってことになってるから、飛ぶとかはなしの方向で。」

「そっか。」



キルト、空も飛べるのか。

どんだけ能力高いんだよ…

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