第7話 タンガルの村

陽が落ちかけた頃、タンガルの村へ着いた。

こんな遠くまで来たのは初めてだった。

生まれた村を出発してから、ほとんど魔物に遭遇しなかったから、かなりスムーズに進んでしまったようだ。



「ようこそ旅の方。」


村の入り口で声をかけられる。

あれ?

「旅の方」って。

「勇者」認定は、生まれた村近辺だけなのか?

だったらさっさと村を出れば良かっただけじゃん。


って思ってたら、後ろから来た、いかにも怪しげな男にも、


「ようこそ旅の方。」


と、声をかけていた。

何だ、定番の挨拶か。



キルトは村の中を珍しそうにキョロキョロしていた。

そっか、村の中とか初めてだよな。


宿屋を見つけて、

「ここに泊まろうぜ。」

と言うと、キルトが不思議そうな顔をした。

「泊まるって?」

「ああ、ここの部屋を借りて、眠るってこと。」

キルトが眉を顰める。

「お前、今までどこで寝てたの?」

「その辺に適当に。」

その辺って…

じゃあ、ベッドとか知らないのかよ…

「飯とかは?」

「その辺にある物を。食べたり、食べなかったり。」

まじか…

なんか美味しいものを食わせて、ふかふかのベッドで寝させてやりたい、そんな母親のような気分になってしまった。



宿屋の主人はオレとキルトを交互に見遣りながらも、そこはプロ。何も詮索することなく部屋に案内してくれた。


部屋の中に入ると、キルトは初ベッドにテンションが上がったのか、小さな子供がはしゃぐようにベッドでゴロゴロし始めた。


「やっぱ人間っていいな。」


本当に嬉しそうだ。

食事を見たら何て言うんだろう?



宿屋の食堂で、適当に料理を頼む。

キルトは、持って来られた料理の皿を見るたびに、目をキラキラさせる。

恐る恐る口にして、更に嬉しそうに頬張る。

こっちまで嬉しくなる。


旅に出て良かった。

こいつと一緒で良かった。

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