第5話 お守り

どっちの方角に向かうか、じゃんけんでもしようかと思っていたら、村の方から声がした。


「勇者様!」


村に住むイリアだった。

キルトに目配せをして、オレが対応する。


「こんなところまで出歩いて、魔物に会ったらどうするんですか?」

「わたし、どうしてもこれをお渡ししたくて。」


イリアは持っていたお守りをオレに手渡した。


「魔王はとてつもなく強いと聞きます。どうかご無事で。」


そう言うと、ぺこりと頭を下げて村へ戻って行った。


「誰?あのちびっこいデブは?」

キルトが言った。

「ちげーよ!ちっちゃいけど、ちょっとぽっちゃりなだけだよ。」


イリアはすごくいい子なんだ。

今だって、オレのためにお守りをわざわざ持って来てくれたんだから。


「アイザック、彼女欲しいって言ってたじゃん。あの子じゃダメな訳?」

「イリアは違うんだよ。」

「いい子、って言いながらダメなんだ。人間はよくわからないな。」


違うって言うのは、イリアは、オレみたいなんじゃなくて、もっと真面目に働く、誠実なやつじゃないとダメってことなんだよ…



「で、魔王が何?」

「ああ、引き止められることなくさっさと村を出るために、『魔王を倒しに行く』って言ったんだ。」

「倒しに行くの?」

「行かないよ。第一、魔王なんてどこにいるかもわかんないのに。噂じゃ『世界の果てにいる』ってことになってるけど、じゃぁ、世界の果てってどこだよ?」

「さあ。」

「キルトは魔王知ってる?」

「知らない。」

「魔族のお前も知らないものをどうやって探すんだ、ってこと。ほら、『勇者』に期待される、よくわかんない重圧ってすごいだろ?」


期待してる人達には悪いけど、オレは普通に暮らしたいんだ。

へべれけに飲んで二日酔いになったり、女の子をナンパしたり…


「勇者はこうあるべき」っていう呪いから解放されて、自由になりたいんだ。

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