第3話 実験

自分の住んでいる村の近くでは、身バレしているので、とりあえず、旅人でも通らないかと、2人で森に向かった。

幸い2人は背格好が似ていたので、お互いの服や武器を交換する。

そうすると、見た目にはどっちがどっちかわからなくなった。


「名前何?『勇者』って呼ぶわけにはいかないでしょ?」

名前を聞かれるのなんて、すごく久しぶりだった。


「アイザック。」

「アイザックか。おれはキルト。」

「キルトね。」




しばらく森の中で待っていると、いい感じの商人らしき男が馬車を引いてやって来るのが見えた。

さて、どうやって自然に対面するかな…

そう考えていると、タイミングよく、商人の前に魔物が現れた。

思った通り森の中は魔物の出現率高いな。


「わっ…あああ…」

商人は驚き、馬が暴れる。


オレらは顔を見合わすと、颯爽と商人と魔物の間に割って入った。


「我々にお任せください。」

キルトは勇者風なセリフを吐くと、剣を抜いた。

と、同時に魔物を切り裂いた。



え?

早っ!

こいつ、めちゃくちゃ強いじゃん。



魔物は倒されると宝石に変わった。

その宝石をキルトはひょいと取ると、オレに投げてきた。

「やる。」



まじか…宝石、いらないんだ。



商人は馬車から降りると、

「ありがとうございます!何とお礼を申し上げればよいか…」

と言って、オレらの顔を交互に見た。

少し迷ったようだったが、最終的にはキルトに向かって、

「さすがは『勇者』様でいらっしゃる。」

と言った。

そして、怯えたような顔で、

「ま、まさかこちらは魔…」

と言いかけてやめたので、キルトが、

「大丈夫。彼は私の仲間なので。」

と言うと、安心したようだった。


商人は、何度もお礼を言って、去って行った。



結局のところ、みんな何となく「勇者」を認識してたってことだ。

流石に神父様は騙せないかもしれないが、大体のところはいけそうな気がした。


「なぁ、この宝石もらっていいのかよ?」

何もしていないのに宝石をもらうのは気がひける。

「いいよ。興味ない。」

「あ、じゃあオレが持っとくから、これでうまいもん食べたり宿屋泊まったりしようぜ。」

と言うと、きょとんとした顔をした。

「2人のもの、ってことだよ。」

「わかった。」

キルトは嬉しそうだった。

「『勇者』っていいな。」

ニコニコしている。

そうか、良かった。

オレもこの気楽な感じが気に入りそうだ。

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