エピローグ1

 それから、アメリアと父のシェーンブルグ伯爵と姉に言われて、自分の専用馬車に移動した。


 父のシェーンブルグ伯爵は俺の姿が変わったことで、どんな状況なのか把握したかったようだ。


「女性の方しか馬車には入れません」


 だが、アメリアが馬車の前でシャッタアウトした。


「いやいや、まだ女性になって無いのでは? 」


 父のシェーンブルグ伯爵が囁くように突っ込んだ。


「何をおっしゃるのやら、すでに女神エーオストレイル様は顕現なされているのですよ! 」


 アメリアがその女神エーオストレイル様の神殿の女官の責任感からかびしりと発言した。


「いや、だがな……」


 父のシェーンブルグ伯爵は俺の身体を心配しているらしい。


「いや、女神エーオストレイル様は思っている以上に心が乙女だから、確かに他の男性は駄目かも」


 俺がそう話す。


「は? 」


「なんですって! そうなんですか? 」


 困惑した父のシェーンブルグ伯爵に対してアメリアがキラキラと目を輝かせた。


 女神エーオストレイル様の話は神話でしか読んで無くて、本物の心に接しているのは俺だけなのだ。


 身体を変えて戦う姿は見ていたとしても……。


「凄い。そうなんですか? 」


 ヨハンの妹のニーナも興奮していた。


「乙女なの? 」


「皇国の初代皇帝が無茶苦茶好きみたい」


「おおおお」


 アメリアが低い声をあげる。


「というか、記憶を共有したせいで見えたけど、皇国の初代皇帝が凄すぎる人で」


「そうなのか? 確かにそういう話は皇家には伝承であるが……」


「言っていいのかな……」


「なんですか? 言ってください」


 アメリアが期待を込めて聞いた。

 

 修羅達も葬儀で忙しいし、ヨハンもいろいろとあるらしくて、ここは父のシェーンブルグ伯爵と姉とアメリアとニーナしかいないから、良いのかな。


「実は人間は彼らの餌だったんだ」


 俺がそう話す。


 すると、アメリアの驚きが凄いだけでなく、父のシェーンブルグ伯爵と姉も息を飲んだ。


 しくじったかもと思うくらい空気が重くなった。


「……本当なのか? 」


 父のシェーンブルグ伯爵が聞いた。


 もう、言ってしまったので誤魔化せない。


 仕方ないので言ってしまう。


「間違いないと思う」


「そうか……皇帝から実は内々で皇帝と一部のものにだけ伝わる伝承に『我々は餌であった』とあるんだ」


父のシェーンブルグ伯爵が真剣だ。


「実は……実は……神殿にも神殿長だけに伝わる伝承があって……女神エーオストレイル様は元は邪神の仲間であったが、善なる心を持って善神となり戦って邪神を滅ぼしたと……」


 アメリアも凄く真剣な顔で話す。


「皇帝からの内緒の話と同じだ。皇帝が女神エーオストレイル様の神託を受けた時に、内々で人払いして私だけに教えてくれた全ての話と一致する。それを初代皇帝が女神エーオストレイル様と意気投合して、説得を受け入れて人間の守護者となったと……」


 父のシェーンブルグ伯爵が続けた。


「いや、説得……になるのかな? 話し合いしてドンドン自分達は分かり合えるはずだって女神エーオストレイル様に皇国の初代皇帝が言うんだ。凄い知識と凄い考え方をしていて……」


「えええ? 餌と分かり合うの? 」


 姉が姉らしい無骨さで話す。


「そうみたい。信じられないくらい豊富な知識と考え方で説得されて、女神エーオストレイル様がドンドン初代皇帝に魅かれていくの」


「おおおおっ! 」


 全然、女神エーオストレイル様の心の戸惑いを見抜けなかったアメリアが興奮していた。


 こりゃ、恋の相談とかは、やはり駄目かなとも思った。


「え? 餌だよね? 」


「凄いカリスマなんだ。それで、他の邪神は殺せって言うけど、女神エーオストレイル様は殺せない。それで、彼を守るために戦いを始めたって感じ」


 まあ、大雑把だが、流れてきた記憶はそんな感じだった。


「そうか、やはり初代皇帝を守るために戦っていただけだから、邪神達はトドメを刺していなくて封印したのか……」


 驚くことに父のシェーンブルグ伯爵は本質を見抜いていた。


「そういう事みたい。でも、今回は決別するみたいだけどね。パーサーギルは中核を破壊したから、もう復活しないから……」


「そうか……。その決心をしてくださったのだな……」


 父のシェーンブルグ伯爵の雰囲気からすると、それは皇帝も同じように持っているかもしれない女神エーオストレイル様への懸念だったのかもしれない。


「それは、そんなに大きな話なんですか? 」


 ニーナが不思議そうに聞いた。


「大きな話なんだ。昔の仲間を殺すのだから」


 父のシェーンブルグ伯爵の言葉にアメリアが何とも言えない顔をした。


 心が共有している俺はそれで知ったが、やはり皇家と神殿はある程度は真実を把握していたのだ。


「やはり、自分の血筋だものな。皇家は……」


 父のシェーンブルグ伯爵がそう頷いた。


 言われてみれば、それも真実なんだよなと思う。


 だけど……。


「いや、どちらかというと……皇太子殿下が……」


「ん? お前がこないだ言ってた奴か? 皇太子殿下の魂がって奴か? 」


「絶対では無いけど、可能性が……」


「マジか……」


 父のシェーンブルグ伯爵が目を剥いて驚いた。


「ぶっちゃけ、女神エーオストレイル様は初代皇帝に惚れまくっていますれば……」


「キャー! 」


「そうなんですね」


 ニーナとアメリアが大喜びしていた。


 まあ、恋バナだもんね。


 さっきの重い展開はなんなんだ?


「となると、いろいろと問題があるわね……」


 などと姉が余計な言葉を口にした。


 俺は嫌な予感がしていた。



 


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