第9部 第6章 死者への弔い
それから、俺の肉体は黒い甲冑のような甲殻類のような姿に変わっていたが、最初に修羅達のいる場所へ行く。
皇太子殿下に対して、少し名残惜しそうな気持ちが心の奥の女神エーオストレイル様から伝わっていたが、それは無視した。
「すいませんが、たくさん、私の為に死んでしまった仲間の為に……」
「いや、それは私も行こう。私が巻き込んだわけだし」
俺がそう皇太子殿下に告げると、皇太子殿下も目を瞑ってそう答えた。
それで皇太子殿下も一緒についてきてくれた。
勿論、それで父のシェーンブルグ伯爵も姉もヨハンもゲオルクもアメリアもだ。
死者はあれほどの激戦であれだけ消耗していたのに、修羅の死亡者は56人だった。
負傷者は凄く多かった。
綺麗に死体は清められていたが、涙が止まらなかった。
20人前後の人間が食べられてしまっていた。
ほぼ全滅状態のギード・エックハルト・ツェーリンゲンに比べれば、修羅の強さが際立っていると言えるかもしれない。
だが、強かったからとは言え許されるものでは無い。
「すまなかった。私がもっと良く考えていれば、あんな風に誘われなかったのに」
そう、清められて並べられている死体に俺が頭を下げた。
皇太子殿下がいるから、俺とは言えなかったが。
修羅とゲオルクの騎士団と皇太子殿下の騎士団を合わせると全部で100人を超える死者であった。
あの激戦でこれだけで済んだとはとヨハンとアレクシスは言うがそんなのは慰めにもならなかった。
律の父を亡くした時よりも泣いた。
特に修羅の死は完全に俺のせいだ。
「お嬢。良いんでずぜ。こいつらの顔を見てください」
そう修羅の一人が俺に話しかける。
「顔? 」
言われて気が付いた。
何故か、修羅の連中の死体は皆が笑っていた。
「俺達は最下層のゴミとして生きてきたんだ。上の身分には上がれない、ただ生きているだけのゴミ。だけどお嬢が道を見せてくれたんだ。ゴミで終わらない道を。だから、皆、喜んで死んでいるんだ」
「そうそう、俺達はお嬢のおかげで初めて人間になったんだ。人間として夢を見て死ねるんだ。それが幸せ以外の何物なんだか」
そう修羅の怪我をした荒くれたちが笑う。
傷が痛いはずなのに、微笑んでいた。
身分も最下層に近くて、下請けの傭兵や冒険者として生きてきた彼らの言葉は貴族社会の連中と比べたら話にならないくらいぶっきらぼうな言葉だったが、それは逆に心がこもっているように感じた。
「ありがとう。彼女の為に戦ってくれたと言う事は私の為に戦ってくれたと言う事だ。私は諸君達の恩を忘れない。皇太子妃の言葉は私の言葉でもある。君達が騎士となる道も開く。必ず約束しよう。そして、亡くなった者の家族は私がちゃんと面倒を見るようにする。この私の為に命をかけてくれた事に関しての恩は君達が戦いで亡くなってしまっても絶対に私は終生忘れない」
そう皇太子殿下が横で彼らに語ってくれた。
それを聞いて、修羅達が本当に心の底から微笑んだ。
皇太子妃だけでなく皇太子すら、その夢物語のような話を約束してくれたのだ。
俺も嬉しかった。
彼らとの約束を果たせる。
「それが、こいつらに対する最高のはなむけの言葉でさぁ」
そう修羅達が泣き出した。
貴族階級のような偉い身分の者にこんな温かい言葉をかけてもらった事の無いものばかりだった。
ヨハンですら、母を馬車でひき殺されたと昔に聞いた。
彼らは下層民として常に使い捨ての存在だったのだ。
そして、本来皇太子になれないような母の身分から皇太子になったので、その辺りの階級社会の厳しさや辛さは余計に分かってくれるのだろう。
自分がしてしまった事は取り返せないが、こうやって、少しでも恩として返していければいいなと思う。
皆に何度も俺が頭を下げる。
皇太子殿下も本来なら頭など下げる必要は無いのだろうが、自分の命を助けてくれた者たちに敬意を示して頭を下げてくれた。
アメリア達がこの辺でと言う事で止めてくれた。
それは父のシェーンブルグ伯爵の指示であった。
「私の方からも亡くなった者の家族には手厚い保護を与えるし、今回の褒賞もちゃんと出す。もちろん、それなりに弾むつもりだ。今後もまだまだ大変な戦いが続くと思うが、よろしく頼む」
そう父のシェーンブルグ伯爵がゲオルクの騎士団だけでなく、修羅達にも伝えてくれた。
彼らの奮戦によって、ギード・エックハルト・ツェーリンゲンの反乱とピュットリンゲン伯爵の援軍の撃退と何よりもパーサーギルを倒せたのだ。
それは皇国にとっても、またとない戦果であった。
それから、彼らの仲間への弔いは続いていた。
遺体を家族に届けるのだそうな。
そして、食べられた仲間も使っていて武器とか代わりになるものは修羅の仲間が抑えていたらしくて、それを家族に渡すのだそうな。
これは冒険者の流儀らしい。
それに対して、父のシェーンブルグ伯爵は彼らの家族にと金貨の袋をそれぞれに渡した。
また、何かあれば彼らの家族に対しての保護や援助は惜しまないことも伝えていた。
それで、俺の心は軽くなるわけでは無かったが、安心した。
この世界に来て、律の時のような事はしないと思い、戦いを始めてしまった。
だからこそ、全ての犠牲は俺の責任なのだと。
そう、深く思った。
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