第9部 第4章 終戦……アルメシアにとっての始まり
クオウがパーサーギルをエーオストレイルが完全に滅したことで少しショックを受けていた。
「そうか……、今度は我らを倒すのでなくて滅ぼすか」
かっての戦いではエーオストレイルは中核を破壊しなかった。
だから、その仲間としての情を捨てたという事になる。
それはクオウ……アルメシアにも衝撃だった。
「自分は我らの仲間に戻るのだ。それは必ず人間どもの心にお前に対する気持ちの変化をもたらすはず。お前は結局、地獄への道を選んだのだ。人間どもが餌だった時代とは違う。人間はもはや、この世界の主のような顔で生きている。それならばお前は神の姿を捨てた以上は異物でしかない」
アルメシアが少し悲しい顔で呟いた。
その時にヒュンと言う凄まじい音とともにパーサーギルの中核を貫いた槍がとんできて、アルメシアの足元に突き刺さった。
それで、爆発しているパーサーギルの上を飛びながら、こちらを睨んでいるエーオストレイルを見た。
それは憎悪でもなく、悲しみが含まれたが戦うと言う決意を込めた顔だった。
「そうか、本当に決めたのだな。人間を守る為に今度は私達を滅ぼすと……。だが、私は諦めてはおらん。お前はいずれ人間達からも忌み嫌われるようになるだろう。それは我らと戦う上には人間と言う偽りの姿を無くすことだから。女神ではなく、奴らが邪神だという我らと同種である姿をお前が見せる事になるからだ。だからこそ、お前が仲間に戻るときを待つつもりだ。もちろん、他の奴らをお前にぶつける事になるがな」
アルメシアが諦めには程遠い顔で笑った。
邪神同士にも仲間意識はあるが、アルメシアにとって仲間はエーオストレイルだけだった。
だからこそ、エーオストレイルの仲間としての復活を画策するのだ。
「お前の大切にしていた餌はもうおらんのだ」
そうアルメシアが呟いた。
それと同時にエーオストレイルの中にいる皇太子妃が叫んだ。
アルメシアが何をしようとしているのか分かったからだ。
「逃げろ! 山が崩れるぞっ! 逃げろっ! 平野に向かって走り続けろっ! 狭隘地から出るんだ! 逃げろっ! 」
エーオストレイルの中にいる皇太子妃が叫び続ける。
またしても、修羅の生き残りは最初に逃げ出した。
皇太子妃とかが鍛えたせいか、すでに息のある仲間を狭隘地の最前線からすでに引き上げさせていて、その上で半分が警戒で残っていたが、彼らは信じがたい勢いで撤退を始めた。
それに続いて、シェーンブルグ伯爵家の騎士団も続いた。
皇太子の騎士団はそれに遅れて続く。
シェーンブルグ伯爵は修羅とともに同じ速度で撤退した。
皇太子は黒い騎士が抱えて馬で逃げていた。
「ちっ! 逃げ足だけは速い! 」
アルメシアが舌打ちした。
山上でピュットリンゲン伯爵家の逃げてきた者どもを餌食にした根が動き出す。
それは山を崩し始めた。
凄まじい地響きが起こった。
燃え盛るパーサーギルの身体を包み隠すように、そして死した兵士たちを埋めるように土砂崩れが起こる。
最初から二段重ねで皇太子とピュットリンゲン伯爵を殺す気だったのだ。
だが、彼の目的は二つとも果たせなかった。
「糞、まだ生きている者もいるのに……」
反対側の山の中腹に投げられてボロボロになりながら、息も絶え絶えでピュットリンゲン伯爵は生きていた。
足は折れて、身体を這いつくばりながら動いていた。
彼は生きるつもりだった。
生きて、あの怪物を何とかしなければと思っていた。
だから血止めだけして、足の骨折をはめて木切れで固定すると、後は岩陰に隠れて運に任せた。
動けば血止めした場所から再度出血する可能性がある。
だから、彼は動かなかった。
それが果たして良かったかはまだ誰にも分からなかった。
だが、クオウを演じるアルメシアにはそれは大きなミスだった。
エーオストレイルが自分の道を彼らと戦い彼らと滅ぼすことを選んだことが、彼が思っていた以上に彼にとって、大きなショックだったのかもしれない。
だからこそ、普段はしないはずのミスをした。
投げ落としたピュットリンゲン伯爵が死んだかどうかを確認しなかったのだ。
アルメシアは混乱しながらも最初の計画通りに山を破壊して崩してパーサーギルの死体と共に兵士達の死体に瓦礫や土砂などを山を崩して落として姿を消した。
そしてエーオストレイルはそのアルメシアを追わなかった。
それがかっての情なのか、それともアルメシアの転移能力を警戒したせいか分からないが、それでも、このパーサーギルとの戦いは終わった。
山は崩れて血みどろの戦場は崩れた山の土砂に埋もれて見え無くなっていた。
あの巨大なパーサーギルの死体すらも全く見えなくなっていた。
全てを土砂が覆い隠して、何もなかったような風景が戻ったが、これは次の戦いの始まりでしか無かった。
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