第8部 第5章 真実の衝撃
俺の身体が膨らんでいく、甲冑が耐え切れずに爆ぜた。
身体の全身に何か動いているような感覚がある。
そして、俺の心の奥底から何かが俺の心に上がってくる。
『悪いけど、変わるから』
そう頭に響く。
あの夢で会った女神エーオストレイル様の声だ。
「何で? どうして? 」
横に居た姉が黒騎士の甲冑を投げ捨てて叫んだ。
そして、ヨハンが信じられないものを見たように俺を見た。
視線に何か植物の芽のようなものが一斉に伸びていくのが見えた。
そして、それが俺の身体を変化させて行くのも見えた。
そうか、女神エーオストレイル様は勝った後に豊饒をもたらしたとあるが、植物を操れるのか……。
などと、俺は他人事のようにそれを見ていた。
映像のように見えるくらい、身体の感覚とかが遠のいていっている。
正直、本当に女神エーオストレイル様が前面に出て戦うらしい。
そして、ある程度の考え方と言うか思考の共有。
おかげでいろいろと分かった。
何か隠していると思ったが、やはり彼ら邪神は仲間と言うよりは同種だったようだ。
それを皇国の初代皇帝と会った事で心が変化して人間側に寝返ったのだ。
信じられない。
少しずつだけど、女神の記憶の皇国の初代皇帝のいろいろな姿や言った言葉が流れ込んでくる。
人間は間違いなく餌だった。
餌なのに不思議な考え方を持つ彼に魅かれて、餌を同格の生命体と思うようになり、そして、その初代皇帝に恋をして結ばれる。
女神エーオストレイル様が凄いと言うよりは、皇国の初代皇帝が凄すぎる。
聖人と言うか、宗教家と言うか、なんだろうこれは……。
最初は餌と馬鹿に仕切っていた女神エーオストレイル様を会話して説得して、その考え方を変えさせて、いつしか同じ生き物として仲間になり、恋に落ちる……と言うか女神エーオストレイル様が惚れて女性化して結婚する。
男の娘がどうのとか性別転換がどうのとか言うレベルで無かった。
異種婚姻譚としても信じられないくらい皇国の初代皇帝が凄すぎる。
何だろう。
全然、神話も歴史も勉強していなかったから、逆に驚いた。
こんな、凄い人間がリアルでいる事に驚いていた。
目の前でツタのようなものが次々とパーサーギルに飛んで相手の動きを止めて行くのを見ながらも、あまりの真実の凄さにそっちに気を取られた。
いるのか、こんな人。
えええええええええええええええ? である。
大体、人格者だのと言われてた人もイメージだけで実在はとんでもなかったりするし、俺的には海外で有名になった野口英雄が日本に少しだけ帰ってきた時に、当時の日本の新聞などが凄い人が帰ってきたって大騒ぎして、あの炉端だかに手を突っ込んでやけどして……だの有名な話などを伝記として大大的に取り上げた。その時に、野口英雄本人が勝手に出来たその伝記を見て、『こんな完璧な人間がいるかぁぁ! 』と本を叩きつけたと言う身も蓋も無いエピソードが大好きなのだが、本当にそんな凄い奴がいたんだ。
実際、異国に勉強に行くための資金集めで結婚詐欺に近い事してたりしてたので、その辺りも野口英雄は自身で屑と自覚していて、それはそれで立派だと思うけど。
坂本龍馬にしろ、西郷隆盛にしろ、人格者と知られているが、いろいろと突っ込むとそれなりにあれ? って話があるから、そんな人物なんていないんじゃないかとか思っていたのだが……。
『失礼な』
またしても頭に響いた。
なるほど、愛している人を疑われるのは嫌なのだろう。
確かに、これは惚れてしまうだろう。
こんな凄い人間を見たことも聞いたことも無い。
元の身体に戻れたら神話とか良く読んでみよう。
もっと喧伝されていてもいいくらいの凄さだ。
あの女神エーオストレイル様が惚れこんで人間になってしまうだけはある。
と思ったら、共有している視界の中でパーサーギルを縛り付けたはずのツタが緩んで歪む。
パーサーギルが動けなくなりかけていたのに、それで、その強力な顎でツタを切り落として再度動き出した。
それで気が付く。
あの女神エーオストレイル様が照れていなさる。
照れすぎた為に、パーサーギルとの戦いが疎かになっているぅぅぅぅ!
これは、惚気ですか?
惚気なんですかぁぁぁ?
それで、パーサーギルがなんと女神エーオストレイル様の隙をついた、一気のツタによる捕獲から脱出してしまった。
ピンチだ。
ピンチになってしまった。
惚気たら、どうしても戦いがコントロールが効かなくなるとは、本当に女神エーオストレイル様も乙女なんですね。
などと思ったら、パーサーギルのその長い手足の槍のような部分で身体が付き抜かれた。
ただ、それは植物が伸びて作った部分なので大きなダメージどころか痛みもない。
『黙っててくれる? 』
女神エーオストレイル様の言葉が再度頭に響く。
「マクシミリアン! 」
そして、姉が金切り声をあげて俺を心配している声がする。
「ボン! 大丈夫かっ! 」
ヨハンが死にもの狂いで叫んでいた。
そして、必死にパーサーギルの貫いてきた槍のような手を剣で攻撃している。
大きさが違い過ぎて、厳しいのだろうが、姉の方は本気のエクストラスキルの<斬撃>を惜しみなく使っているので、パーサーギルの巨大な手がもう少しで斬り落とされるレベルになった。
それに勇気づけられたのか、戦って欲しくない修羅達もパーサーギルへの攻撃を再開した。
それで凄く凄く反省した。
余計な突込みをしたものだ。
女神エーオストレイル様が戦ってくれると言うのでほっとして心が緩んだ部分もあったと思う。
「ごめんなさい」
俺がそう女神エーオストレイル様に謝った。
そして、続けた。
「彼らを助けてください! あんなに血まみれになって戦っているのは俺のせいなんです! これ以上彼らを死なせないで! 」
そう必死に頼んだ。
それは俺の心からの願いだった。
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