第8部 第6章 卵

 そして、とうとう姉がそのパーサーギルの巨大な丸太の槍のようになった手をエクストラスキルの<斬撃>で切り落とした。


 相変わらず、異常な強さである。


 そして、残りのパーサーギルの手の攻撃もエクストラスキルの<斬撃>を使用して、俺を守るために前に出て相手の攻撃を払い落とす形にして戦っていた。


 流石の姉も相手の巨大な身体を使ったパーサーギルの攻撃にこちらを守るのが精一杯のようだ。


 俺の方は女神エーオストレイル様の変形が終わっておらず、何をしているのかが中からでは良く分からない。


 その時だ、凄まじい咆哮をあげて逃げて欲しい修羅が動き出した。


「行ける! 」


「行けるぞ! 」


「黒騎士殿の攻撃が効いている! 」


「これなら倒せるっ! 」


 姉が手を一つ切り落とした事で、修羅が一斉に再度バーサーカーモードに入ったらしい。


 今までの距離を置いている弓と槍の攻撃から、剣の攻撃に変えて相手の懐に入り込む攻撃に切り替えた。


 パーサーギルの手足をかいくぐって、一部は本体を突き刺すか攻撃しようとしているし、それと合わせて相手の体重を支えているのに使っている手足が当然にあるから、それを攻撃し始めた。


 それでさらに甚大な被害も出ているが、パーサーギルが混乱していた。


 それでさらに修羅が狂奔して斬りつけ続けていく。


 だが、女神エーオストレイル様と心が一部融合している俺は、それでは倒せないのを知ってしまった。


「逃げてくれ! なんで逃げないんだ! 」


 俺が絶望的になって叫ぶ。


『人間は他人の為に戦えると言われたが、今も変わらないのだな』


 女神エーオストレイル様がそう心に響く様に呟いた。


「お願いします。女神エーオストレイル様の方からも彼らに伝えてください」


 俺が必死に頼み込んだ。


 俺は身体を女神エーオストレイル様に譲ったので、戦うどころか、喋ることも出来なかった。


 だから、必死に頼んだ。


『今は出来ぬ。早く身体を戦えるようにしなくては。パーサーギルだけならともかく、もう一体いる』


「え? 」


 俺がその言葉に驚く。


『私と同格の力を持つアルメシアがこちらを見ている』


 そう女神エーオストレイル様が告げた。


 それで俺が女神エーオストレイル様の感覚の共有している部分で調べる。


 山の上の方に感じる。


 それは俺の索敵でも感じられた、あの気配だ。


 女神エーオストレイル様を俺から引きずり出そうとした奴の気配。


 それがあった。


「二対一なのですか? 」


 俺が絶望的に呻く。


『いや、今の段階では様子見をしているようだ。戦意は感じられない。だからこそ、少しでも早くパーサーギルを倒す必要がある。だから、お前の身体を戦えるように変えていく。すまない』


 そう女神エーオストレイル様が告げた。


「俺のせいで修羅の皆が死ぬ気で戦っている。構わないです。助けてください。彼らを助けてください」


 そう話すと、女神エーオストレイル様は頷いたような気配を感じで、それから沈黙が始まった。


 何の反応も無くなった。

 

 たくさんのツタは俺を覆って行っているようだ。


 それをただただ眺めているだけ。


 そして、悲鳴が上がる。


 いつまでもバーサーカーモードで戦っていても、人間だから疲労は蓄積する。


 いくら大量のアドレナインが出ていて限界がある。


 そこをパーサーギルが狙ったように襲い食らう。


 動きが鈍くなったものから始末していっている。


 姉も黒騎士の甲冑に血が飛び散り、ヨハンもボロボロになって戦っていた。


 そして、最悪の事が起こった。


 パーサーギルの切り落とされた手が再生している。


 それはまるで芽が伸びるみたいに戻って行った。


 流石の修羅も悲鳴を上げるものが出てきた。


 姉もそれにはショックを受けた、だがそれでも引かない。


「諦めるな! 我々に女神エーオストレイル様がいらっしゃる! 戦意を失うな! お前達は修羅なんだろう? 」


 姉が声を振り絞って叫んだ。


 それで修羅のいくつかがまた戦意を戻す。


「ああああああ! 駄目だ! これでは皆が死んでしまう! ああああああああ! 」

 

 俺が自分のトラウマに触れたように叫んだ。


「まだ、我々もいるぞ! 」


 ゲオルクが騎士団を引き連れてきて突撃しながら叫んだ。


 ゲオルクも実は調練していた弓騎兵を連れていたのと、複合弓のさらに強いのも持ってきていた。


 それはシェーンブルグ伯爵家で転生者を使って開発したものだ。


「目だ! 目を狙え! 」


 父親のシェーンブルグ伯爵が叫んだ。


 一斉に、パーサーギルの目を狙って弓騎兵が弓を放つ。


「目だけじゃ駄目よ! もしアシダカグモに似ているなら、足に生えている産毛などで振動を読み取って襲うの! だから足の産毛とか削り落としてしまって! 」


 流石に姉の命令は難しくて、それでそれを実行に移すことはできないが、目を潰すことには弓騎兵が狙い続けていた。


 アシダカグモと同じでパーサーギルは目が八つあった。


 それで流れが少し変わった。


 皇太子付きの武官のアレクシスさんも騎士団を率いて突撃を開始した。

 

 姉がそれで一旦一息をついた。


「……お前が守っている、この植物のツタで出来た卵みたいなのは? 」


 父のシェーンブルグ伯爵が一息ついた姉に聞いた。


「マクシ……マグダレーネ……いや……皇太子妃だよ。というか女神エーオストレイル様が出てきたみたい」


 姉が面当てを外して、皮の水筒から水を飲んでから答えた。 


「これが? 」


 父のシェーンブルグ伯爵が驚いた。


「最初はパーサーギルをそのまま止めようとしていたけど、難しいと思ったのか植物の卵みたいになっちゃった」


 そう姉も答える。


「何を二人ともおっしゃってるんですか? 姉君のシャルロッテ様の方も全然神話を読んでいらっしゃらないではないですか! 」


 甲冑を着たアメリアが叫んだ。


「え? これって、女神になられた時の卵なの? やはり? 」


 そう姉が呻く。


「ご存じじゃないですか」


 アメリアが少し胸を撫でおろした。


 外が見えるだけの俺は神話を読んで無いので全く訳か分からない会話であったが……。

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