第8部 第1章 邪神とは
「ふははははははははははははははははははははははは! そうか! 邪神か! なるほどな! 皇国の餌どもはそう教えていたか! 」
クオウが笑う。
それは狂った笑い方だった。
何かに憎悪したものの笑いであった。
「我らが邪神なのならば、エーオストレイルも邪神だ。あれは我らと同種なのだ。そう、あれは我らの同胞なのだ」
そうクオウが歌う様に話す。
そして、ピュットリンゲン伯爵を嘲るように話を続けた。
「我が国のグルクルト王国は女神エーオストレイルと戦った邪神五体を聖なる存在として祭っている者どもがいる。奴らの所で話を聞いたことがあるか? 」
クオウがピュットリンゲン伯爵に問う。
ピュットリンゲン伯爵家は皇国からグルクルト王国の目付として、グルクルト皇国の子爵になった経緯がある。
転生者が当主だったので、そういう辱めを受けたと今もピュットリンゲン伯爵家ではその仕打ちを憎悪していた。
それは皇国と貴族に対してであって、決して皇国の始祖でもある守り神の女神エーオストレイルに対してでは無い。
守り神たる女神エーオストレイルに対しては、敬愛の心を持っていた。
「行ったことなど無い! 邪神に対して信仰などできるわけないでは無いか! 」
ピュットリンゲン伯爵が吐き捨てた。
「ならば、実は皇国の女神エーオストレイルに対する信仰よりも実はこちらの
邪神に対する信仰の方が古いのは知らぬのだな」
「何? いや、確かに皇国の歴史を見れば邪神達が支配する世界を男神として降臨したエーオストレイル様が駆逐して、その後破壊された世界を女神になられたエーオストレイルが豊饒な世界にしたと言うのだから、その可能性はあるかもしれない……」
ピュットリンゲン伯爵が少し震えながらも答えた。
「女神な……」
クオウがそう呟く。
それはあらゆる憎悪が詰まっていた。
そのあまりの憤怒の凄さにピュットリンゲン伯爵が恐怖で身体を縮こまらせた。
「で……伝承では……」
それでもピュットリンゲン伯爵が震えるように反論した。
「グルクルト王国の教団も邪神として五体の神様を崇めて、それを駆逐したエーオストレイルを悪神としているが、あれも嘘だ」
「嘘? 」
「貴様のように皇国への憎悪が真実を変えてしまったのだ。いいか、真実はお前たちの言葉を使えば、全て邪神なのだ。エーオストレイルもパーサーギルもグリュンクルドも全てが同じ仲間であったのだ」
「馬鹿な! 」
「女神エーオストレイルなどと呼んで、愛だの正義だの教えているが、そんなものはない! 強きものが全てを奪う、弱肉強食こそ真理! それが本当のこの世界の姿だ! 良く考えてみよ! 自然の世界は弱きものは食べられて、それらを食べる強きもので生き残った者が正しいと言うのが現実だ! あんなものは塗り固めた嘘でしかない! 」
クオウがまるで心の澱を吐き出すかのように叫んだ。
「いや、それは……」
「人はその世界では我らの餌であった! そして、皇国の祖師は戯れに捕まえた餌をエーオストレイルが飼っていたものだ! 私はそれを止めたのだ! 餌は餌として扱うべきだと! なのに、その餌をエーオストレイルは大事にしていた! 餌を飼うなどと愚かな事をしたばかりに! 」
クオウの叫びが悲鳴に聞こえた。
震えていたピュットリンゲン伯爵が少し驚いていた。
これは、この憤怒は憎悪ではない……憎悪ではなくて……まさか……後悔?
自分がそれを止めれなかった事を悔いているようだ。
「餌は餌なのだ! 友でも無い! それなのにエーオストレイルは! その餌を我らと同格と認め、そして番になろうとした! 餌と番だと? 正気の沙汰ではない! あの餌に特別なものを見たとしても、それは餌でしかないのだ! しかも、愛だと? 番だと? 我らはただ存在し餌を食い君臨するだけであったはず! 我らは永久を生きるものだ! 餌のように子孫など必要ない不死の存在であり、そのようなものはいらぬはずであった! それを! それを! 」
クオウが叫び続けている。
「不死? 」
だが、グルクルト王国でも智将ともいわれる立場のピュットリンゲン伯爵が動揺していた。
それは皇国の神話でも読んだことが無くて、彼自身も初めて聞く話であった。
不死とは?
ならば、皇国に伝わる邪神を駆逐して殺し尽くして平定したと言う神話が嘘だと言う事になる。
いや、目の前のクオウは間違いなく、それらの邪神の一体である事は間違いない。
伝承の通り深紅の目を見せて、ピュットリンゲン伯爵旗下の騎士団を操って見せた。
確かに、邪神は生きて存在するのだ。
ならば、邪神は駆逐はされていなかったのか?
殺し尽くしたと言う伝承は?
ピュットリンゲン伯爵が目の前のクオウが邪神である事にとらわれて、そちらに気を取られているうちに、異様な血なまぐさい匂いがした。
それはいつもの戦場の匂いだが、今回はさらに酷い。
恐らく、それは修羅と言う戦争の時代を進めようとしている、あの皇太子妃の時代を超えた殺戮の軍団のせいだと思われた。
慌てて、眼下の狭隘地を見た。
クオウの狂奔する力を受けたピュットリンゲン伯爵の騎士団が、その修羅とともに切り刻まれながら戦い続けていた。
血に狂ったように。
そして、修羅は三対一でそれを超える残忍さで切り刻んでいた。
本来ならば、戦列騎馬はある程度の騎士同士のルールがあった。
相手を捕まえて身代金を取ったりする為にも、勝負がついた場合に切り刻む事はしない。
あくまで、ある意味のお約束でスポーツに近い部分もあった。
だからこそ、無防備な戦列騎馬なのだ。
それがグルクルト王国が勝つ為に、弓兵を使って殺戮してから様子が変わり出した。
それを行ったのがグルクルト王国が皇国に勝つ為なので、それをさらに進めた戦術が出てきてもおかしくないのだが、皇太子妃の修羅はそれをもっとも先鋭化させたものだ。
捕虜などとらないし、相手を完全に敵として殺し尽くすと言う意味でだ。
「ああああああああ……」
部下達が操られているのを止めれなかった自分と、あまりに凄惨な戦場にピュットリンゲン伯爵が呻いた。
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