第7部 第2章 秘密
皇太子がアレクシスとともに皇太子旗下の騎士団を連れて、シェーンブルグ伯爵の騎士団に合流した。
それは皇太子の希望で相当に急いで行われたが、すで修羅がギードの軍を敗北させて追撃戦に入っていると聞き、皇太子の騎士達もどよめいていた。
これで、山賊のように現れてツェーリンゲン公爵家の軍を一気に壊滅させて、その後もこの戦果で修羅は異常ともいえる強さを見せていた。
それは、孤立していた皇太子の騎士団にとっても命の恩人だけでなく、皇国に彼らの味方が少ない中で、どれだけ彼らが勇気づけられているか分からないくらい大きな事だった。
それで、早速、その後の動向を聞いたり感謝を告げる為に、シェーンブルグ伯爵に会うためにアレクシスとかの側近だけで皇太子が自ら陣に来て見たのは、シェーンブルグ伯爵が関わった異様な騒ぎであった。
あの女神エーオストレイル様の神殿の神殿長の娘でもある女官が大騒ぎしてシェーンブルグ伯爵に詰め寄って罵っていた。
「何で行かせたんですか? どう考えても罠だってわかってたんじゃないんですか?
正気なんですか? 今、狙われているのはどう見てもマグタレーネ様じゃないですかっ! 」
アメリアが絶叫する。
「いやいや、ちょっと……」
シェーンブルグ伯爵はメイドの恰好をしている女官に押され気味で困惑気味だった。
「なぜ? マクダレーネ嬢がどうかしたのか? 」
それを騒ぎの少し離れた場所で皇太子が聞いてしまう。
「いや、それは……噂はあるのですが……」
アレクシスが口を濁した。
「どうすんですか! 私も行きますから、すぐに連れ戻さないと! わざわざ邪神の巣に行くようなものではありませんかっ! 何で、神話を把握しておかないんですかっ! そもそもそこが問題なのではありませんかっ! 」
アメリアの激高が止まらない。
「いやいや、マグダレーネ嬢がなぜ狙われるのですか? 」
皇太子殿下がその騒ぎに近づくと、不思議そうな顔で背後からアメリアに聞いた
「マグダレーネ様が女神エーオストレイル様を身に降ろしていらっしゃるからです! 」
アメリアが振り返りもせずに言ってしまった。
それはまだ皇太子には秘密である皇国の最大の極秘事項の一つであった。
シェーンブルグ伯爵が凄い顔をしてそれを見ている。
「そ、それは? どういう事なのですか? 」
皇太子殿下が動揺して深刻な顔で聞いた。
アメリアが女神エーオストレイル様の神殿の神殿長の娘の女官で会った事は知っていたので、それは事実であると皇太子は察した。
「えええええ? 皇太子殿下? 」
アメリアが自分が言っちゃった事に気が付いて、動揺しまくっていた。
「ど、どういう事なのですか? 」
皇太子が真剣な顔でシェーンブルグ伯爵にもう一度聞いた。
「まさか、噂は本当なのですか? 」
アレクシスがそう驚いたように横で聞いた。
「どういう事だ? 噂だと? 私は何も知らないぞ? 」
少し怒ったように皇太子が御付きの武官のアレクシスを睨んだ。
「申し訳ございません。実は、此度の皇帝陛下への我が娘の謁見とともに皇太子殿下に皇帝陛下自らが直接に全てを御告げになられるはずでした」
そうシェーンブルグ伯爵が跪いて話す。
それを見て、アメリアやゲオルク達も一斉に皇太子殿下の前に跪いた。
「この皇国にかって女神エーオストレイル様が退治した邪神が復活するかもしれないと神示が皇帝陛下にございました。そして、転生を告げられたのが私の産まれてくるはずの子供でした」
「なっ! 」
皇太子がその言葉で絶句した
「そのために陛下は荒療治をなさいました。このままツェーリンゲン公爵家に牛耳られたままでは皇国はこの難事に滅んでしまうと。それで、智者と知られるグンツ伯爵の娘に目をつけられて、表向きは皇家の財政難のためにグンツ伯爵の財産を狙うのだと噂を流して、婚姻なされました。本当はツェーリンゲン公爵家と決別なさる為にそうしたのです。その結果、お生まれになられたのが皇太子殿下なのです」
「はっ? 決別するために? 」
皇太子がその言葉で初めて、声を荒げた。
「はい。皇家の深く入り込んだ古い閨閥と決別するためにそうなさったのです」
「我が母を追放してか? 一度も助けるわけでもなく! それが決別しようとしていたと? 」
皇太子の声が震えた。
今まで抑えてきた怒りが湧き出してきたのだろう。
「第一皇妃様は全部ご存じでした。ただ、最後はお疑いになられておられたかもしれませんが……。それをご存じないと言う事は、最後までツェーリンゲン公爵家をはじめ三公爵家と戦うために、それが漏れるのを恐れて、それを御話にならなかったのですね。皇太子殿下には……」
「ば、馬鹿な……! 」
「第一皇妃様は御強い方でした」
「ふざけるなっ! 強いはずが無いだろうが! 戦わざるを得ないから戦っておられたのだ! この産まれてしまった私の為に! 我が母を不幸にするために産まれてしまった私の為に! 私を守るために我が母は奮闘なさっていたのだ! 父として母の愛した皇帝陛下に対する敬意は私にはある! だが、亡くなってしまったのだぞ!
我が母はっ! それがどうしてっ! どうして今頃っ! 」
初めて、皇太子が叫び続ける。
ずっと封じ込めていた深い心の澱が溢れ出していた。
「ツェーリンゲン公爵家が育んできた、閨閥の力と強力すぎる間者と密告の仕組みで陛下は誰も御信じになれない状態だったのです。私と言う汚れ仕事をする、貴族が忌み嫌う人間しか、腹を割ってお話が出来なかったのです」
シェーンブルグ伯爵がそう話す。
「あんまりではないかっ! 我が母は既に亡くなっているのだぞ! 何を父の皇帝が我が母に! そして、私に何をしてくれたのだっ! 」
「皇太子殿下の城に第一皇妃様を逃げさせるのがやっとでした。そして、皇太子殿下の城の建築費などは全部皇帝の苦しい皇家の中から捻出したものが渡っております。グンツ伯爵家は監視されて、そちらからはお金を捻出できませんでした」
「なっ! 」
「それは本当の事です。実は城の建築費などは皇帝陛下から出ております」
「今さらっ! 今さらかっ! 」
横から申し訳なさそうに真実を告げた、御付きの武官のアレクシスに吐き捨てるように皇太子が叫ぶ。
「申し訳ございません。実は第一皇妃様から口止めをされておりました」
アレクシスが跪いて深く頭を下げて言うと皇太子が黙り込んだ。
「ずっと、皇帝陛下は第一皇妃様を心の底から愛しておられました」
率直にシェーンブルグ伯爵が話すと、皇太子は静かに唇を噛みしめて涙を流した。
それはしばらくの間続いた。
「で、殿下……」
「いや、良い。……分かった。取り乱して悪かった……」
そう、アレクシスに皇太子が答えた。
「余計な事を御話してしまいすいません! でも、マグダレーネ様をお助けしないといけません! 誘い込まれた場所はパーサーギルの封印された場所です! 」
アメリアがたまらなくなって叫んだ。
「なんだと? 」
皇太子がそれで激しく動揺した。
「誘い込まれているのです! 間違いなく何かが動いております! このままではマグタレーネ様がっ! 」
「わかった! すぐに向かうぞっ! 」
皇太子がそう気を取り直したように叫んだ。
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