第6部 第2章 これから

 俺がシェーンブルグ伯爵家の陣に急いで戻る。


 それで、即座に動けるように馬車の中で甲冑に着替えることにした。


 ドレスを慌てて脱ぎ始める。

 

 アメリアの発言のおかげで、正式に皇太子から戦いに参加しても良いと言われたからだ。


「ちょっと、馬車の中で着替えるのは良いけど、父さんが出てからにしなさいよ。そもそもヨハンもいるじゃない」


「いや、俺は男だし」


「そういう普段からの行動が皇太子様の前で出たらどうするんですかっ! 」


 アメリアが激怒した。


 そのおかげで、俺は下着姿で正座して反省する羽目に。


 ついでに、父のシェーンブルグ伯爵とヨハンは馬車からいきなりたたき出された。


 父のシェーンブルグ伯爵はともかく、ヨハンを投げ飛ばしたアメリアの動きを見ていると、並々ではない技量を感じる。


 戦闘メイドとか言ってたけど、本気で神殿の戦乙女でもあるらしい。


「ひでぇ」


「俺までかよ」


 ヨハンと父のシェーンブルグ伯爵がたたき出されて、ブーブー言っていた。


「ああ、ヨハンは情報が欲しいんだけど」


 正座しながら、俺がそう告げた。


「ん? 修羅単体でやる気か? 」


 そう父のシェーンブルグ伯爵が気が付いたのか、俺に聞く。


「ええ、多分、二段重ねで皇太子狙いだと困るんで、一番動きやすい部隊で動きたいと思ってます」


 そう俺が修羅という言葉に少し心が折れながらも答えた。


「いやいや、皇太子妃が動くっておかしいのでは? 」


「ヨハンの調練の具合を見れば、多分、皇国で最強の軍隊だよ。修羅って」


 俺が率直に話す。


 何でもありで、しかも包囲殲滅までこなすのだ。


 問題は指揮系統が今一つで、勝手に戦っちゃうのがなぁ……と思いつつ口には出さなかった。


 「ボン」


 ヨハンが少し涙ぐんで喜んでいた。

 

 何しろ、ヨハンに調練は任せっきりだから、そういう意味では我が子が褒められたような感じだろうか。


「いや、ボンとか皇太子の前で言わないでくださいよ! 」


「お兄ちゃん! 」


 アメリアとニーナが腰に手を当ててヨハンを怒っていた。


「どうやら、グルクルト王国の方からも騎士団が出てきたらしい」


 ゲオルクが父のシェーンブルグ伯爵とヨハンの乗る馬を連れてきて教えてくれた。


「本気で平地で戦う気なのか? 」


 俺が唖然とした。


 城に籠って粘れば、今、内部がガタガタの皇国の方が分が悪いのに、それを考慮に入れずに来るとは……。


「いや、数が少ないから、ギードの進軍を止めに出たのではって話だがな。問題はうちが内内でやってた弓の騎兵がいるらしい」


「やっぱり、そこまでは普通に前世があれば考えるもんな」


 騎馬の機動力と弓兵の攻撃力を合わせるのだ。


 騎馬の機動力と攻撃力……火力を合わせるのは、これが銃になっても続く。


 実に、それを止めたのが、秋山兄弟の兄の秋山好古である。


 騎兵をずっと勉強して、騎馬を降りて機動力を捨てて機関銃などで陣を構築して相手の騎兵を叩くと言う豪快な戦術で、ナポレオンすら破った最強と言われたコサック兵を撃退したことで、世界中が真似して騎兵が無くなっちゃったと言う。


 秋山兄弟は弟の秋山真之が有名だが、兄も凄い傑物だった。


 いや、普通騎兵を生涯やってて研究して、騎兵を倒す為に、騎兵の一番有効な機動力を捨てて騎兵じゃなくなって戦うなんて対策は、普通の頭では考えれない。


 人は自分の技術に固執するものだけど、それを超える柔軟な頭をしていたと言う事だ。


「まあ、差し当たって、対策は無いなぁ。こちらにもいるんだよね。弓騎兵」


「まだ、調練がいまいちですが……」


 ヨハンが申し訳なさそうに答えた。


 でも、使えるラインにはあると見た。

 

 ヨハンは意外とその容姿と違って完璧主義だし。


「いやいや、一気に世界の戦争の歴史を進めていくな」


「遅すぎるんだと思う」


「まあ、特権階級意識と騎士への拘りが凄いと言う変な意識が強すぎる元の世界のヨーロッパの中世よりも酷い世界だもんな」


 そう父のシェーンブルグ伯爵がため息をついた。


「まあ、硫黄は調べて集めさせてるけど……間に合わないな」


「はああああ? お前、どこまで進めんの? 」


 父のシェーンブルグ伯爵が驚いて俺に突っ込んだ。


「いや、普通でしょ」


「まあ、今まで、その考えに行かなかったのが不思議ではあるんだけどな……。そうか、火薬も視野に入れてしまってるか」


「多分、硫黄という物質自体が、この世界で認識されてないから、転生者として罰を受けると考えて、手が出せなかっただけだと思うけど。問題は鍛冶のレベルを見ると鉄砲は難しそうだけどね」


「ええ? そこまで視野に入れてんの? 」


「構造自体は覚えてるから。ただ、良い鉄が難しいよね」


「日本式の鍛冶は実は研究させてるんだけどな」


「実を結ぶのには、まだまだ時間がかかるでしょ。均質な製品化となると特に」


 そう言いながらも数丁は作れるかもしれないと俺は思っている。


「まあな」


「日本みたいにあまり良質な鉄が取れないって事では同じみたいだから」


「ううむ」


「いやいや、どこまで進めんの? 私としては世界はファンタジーのままで終わってほしいんだけど」


 姉すらドン引きしていた。


「やっぱり火薬ってやばいのか? 」


「製造に入った時に事故とか怖いんだけどね」


「いやいや、戦争に与える影響を言ってるんだと思うぞ? 」


 ヨハンの突っ込みに答えたら、父のシェーンブルグ伯爵から突っ込まれた。


「……前から思ってたけど、マクシミリアン様って相当やばい? 」


「「かなりやばい」」


 父のシェーンブルグ伯爵と姉が頷く。


「やっぱりやばいんだ」


 ゲオルクが苦笑した。


「向こうの世界で言うと数百年か……こちらだと千年くらい戦争の歴史を進めようとしてる」


 父のシェーンブルグ伯爵がため息をつくように答えると、ヨハンとゲオルクが絶句した。


 


 

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