第5部 第7章 何か

 動揺しまくっている俺を見てアメリアがここは一旦陣に戻りましてと父のシェーンブルグ伯爵に提言したおかげで、グダグダの状態から脱出することが出来た。


 もう隠すことなく、アメリアが女神エーオストレイル様の神殿の女官である事を名乗ったおかげもある。


 神殿は相当な隠然とした力を皇国で持っており、その実力者の神殿長の娘さんなのだ。


 そりゃ、皆が気を遣うわけだ。


 正直、それで俺は助かった。


 というかおかしい。


 皇太子を見てるだけで動悸が止まらないのだ。


 まるで少女になったようだ。


 馬車の中で軍議をしながらって事になって、横に父のシェーンブルグ伯爵と姉とヨハンが乗った。


 ヨハンは連絡に来たとの事で、ゲオルクはすでにシェーンブルグ伯爵の騎士団と修羅を戦闘ができる状態に移行させているとの話で残っているそうだ。


 修羅って考えるだけで眩暈がするが仕方ない。


 それよりもだ……。


「父さん? 」


「お、珍しいな。なんだ? 」


 そう父のシェーンブルグ伯爵が興味深そうに聞いてきた。


「皇太子に皇国の始祖の魂が降りてるって事は? 」


「ん? んん? 」


 凄い顔で父のシェーンブルグ伯爵が唸る。


「……あってもおかしくないわね」


 姉が冷ややかに呟く。


「動悸が激しかったり、さすがに自分でもおかしいと思う」


「そうか……戦う時のコントロールの意味合いでも、それをやっている可能性はあり得るのか……」


 父のシェーンブルグ伯爵が考え込むようにして呟いた。


「なんて素晴らしい……」


 そうアメリアが瞳をキラキラさせて、打ち震えるように呟いた。


「いやいや、どうかな? 」


 俺がそう反論する。


「まだ、そんな後ろ向きな事を考えているんですか? 」


 アメリアが一喝するように言ってきた。


 でも、そうじゃない。


「違う、どちらかというと、この場合はそこまでしないとやばいって事じゃないかと思うんだが……」


 俺がそう反論した。


「どういう事? 」


「多分、神様だから先が読めるんだろう? それなら、そこまでしていると言う事はき相当にやばい事が起こっていると言う事で……」


 姉の疑問に説明した。


「それは当たり前です! 五大邪神の復活です! それを討ち果たすために女神エーオストレイル様が動いておられるのだから! 」


「し、神話ではどうなっているの? 」


 アメリアのキラキラの目が凄いのだが、今はそれよりも大事な話がある。


 アメリアに神話を知らないことで怒鳴られるかもしれないがと聞いたが……。


「*/####%%&%$$%##$%%&&$$#%&&&&#"##! 」


 藪蛇になった。


 俺が知らないことが許せないらしい。

 

 アメリアの意味不明の怒鳴り声が止まらない。


「……何かあると言いたいわけね」


「ええ」


 姉上がそう生真面目に返事をしてくれた。


「残念だけど神話には特に悪神を平らげたとしか無いわ」


「そうですか……」


 多分、神話を書いた人が知らないのか、隠しているのかどちらかだと思った。

 

 神話は往々にして、良い話しか残らない。


 元の世界での聖書は意外と生真面目に全部書いてあったり、イエスに父親がいてイエスが神について話を始めたら、この子はおかしくなったのかと思った話とか、イエスが死に望んで「エロイ、エロイ、レマ、サバクタニ(わが神、わが神、どうして私を見捨てられたのですか )」と叫んだとか、意外とちゃんと載せている。


 もともとキリスト教はユダヤ教から来ていて、ヤハウエ神は契約の神で、聖書はある意味契約の書なので、一言一句でも変更するのは罪に当たるとか、そういう話もあったからかもしれない。


 その辺りはいろいろと贖罪だの宗教として言うけど、あのあたりはイエスの生の言葉だと思う。


 余談はそこまでにして、おそらく、この国の神話は何かが抜けているのだ。


 もっともっと根本で知らせてはいけない大事な話が。

 

 おそらく、それは書かれていたが、タブーとして削られてしまったのだろう。


 都合の悪い事は削られていくのは、普通に国家の歴史の本でもある。


 だから、今では神話に書かれていないのだと俺は思う。


 それが書かれていないから分からないのだが、もし、本当に皇太子が始祖の魂なのなら、何か本当にそれだけ準備せざるを得ない事があるのかもしれない。


 多分、俺に謝りに夢で現れた自体も、邪神に勝つけど自分が助かるのも難しいのかもしれない。


 そこまで女神エーオストレイルが自らを追い込まないといけないと言う事だと思う。


「そこまですると言う事は何かあるっていう事か? 」


 意外と父のシェーンブルグ伯爵は馬鹿ではなく、俺の気持ちを読み取ったらしい。


 前世の記憶があるけれど、父は父であると言う事か。


 それは俺にとってはうれしい事だけど。


「相当やばい話が眠っているって事ね」


 姉もそれに気が付いたみたいだ。


「いやいや、何があると言うのですかっ! 」


 興奮気味のアメリアが叫んだ。


 いやいや、キレられても困るのだが。


「その隠された話が、多分、大事な本当の話で、今回の事を成し遂げるのに大切な話なんだと思う。何かあるんじゃないかと思うんだけど……」


「あり得るな。調べれるかどうかわからないが調べてみよう」


 父のシェーンブルグ伯爵がそう答えてくれた。


「何があると言うんですか? 」


 やはり信仰が深いとしょうがないのだが、女神エーオストレイルを否定的に捉えられていると思っているのかもしれない。


「勝つ為に必要なことだと思う」


 だから、直球でそれを話す。


 それでアメリアが黙った。


 ヨハンは真剣な顔で黙ったままだった。


 何かがあるのだ。


 この度の為に女神エーオストレイルが降臨して、しなければならないことが。

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