第5部 第6章 尊い
「す、すいません。こんな場違いになるとは思わず」
俺が赤くなっているのを自覚しながらも、まずは謝る。
ぶっちゃけ、空気を読まない感が凄すぎる思ったし。
「いや、ありがとう」
そう優しく皇太子が笑った。
それは輝いて見える。
まるで、悪役令嬢のゲームの攻略対象の美男子ってこんな感じなんだろうなって思っていたのだが、ちらっと見たら姉が少し悶えていた。
そういや、こないだ父のシェーンブルグ伯爵が腐女子というのは喪女も多いから、皇太子とかそういう容姿の美しい御方の高貴なスマイルなどを見た時の姉を見てると面白いぞと話してはいたが、本当だ。
いやいや、自分が皇太子妃をした方がよかったんじゃないの?
そう思いつつ自分の動悸が激しいので、少し困るのだが……。
「一体、何事なのでしょうか? 」
僭越ながらしょうがないので、俺が皇太殿下にお聞きした。
本来なら父のシェーンブルグ伯爵が話すべき言葉だが、俺が赤くなっているのせいで、なんだか俺を見て父のシェーンブルグ伯爵まで悶えてる。
父のシェーンブルグ伯爵も姉のことを言えないぞ。
やっぱり男の娘とか好きなんだ。
嫌だなぁ、変態ばかりの家族で。
「実は敵国グルクルト王国から皇国を守る要の国境のヴァンガゥ城が反乱を起こしたのです。城主はツェーリンゲン公爵家の一族のもので時期を見て、反乱されないように穏便に皇帝が領地の配置換えをするつもりでしたが、他の後始末に追われている間に先手を取られてしまいました」
皇太子付きの武官のアレクシスが答えてくれた。
「つまり、そのツェーリンゲン公爵家のものは、敵国グルクルト王国と手を結んでいると可能性が高いと言う事ですね」
「その通りです。流石ですね」
「籠城して援軍も来ないのなら、負け戦でしかないですから、それで反乱を単体で起こすとは思えません。となると、現状で国内のツェーリンゲン公爵家の残党の問題もあり、即応できる軍は皇太子殿下と父のシェーンブルグ伯爵家しかいないので、今から反乱を平定する為に一気にここから攻めると言う事ですか? 」
「お見事です。現状、それが最善の一手だと思います」
アレクシスが大げさに騒ぐ。
いやいや、普通にそう考えると思うけど……。
「素晴らしい」
そう横で皇太子が感嘆のため息をついた。
それで、ますます俺が赤くなった。
なんだか、所作が本当に絶世の美男子の貴族の皇子様で困る。
冷血と言われるほど全てに無関心だった皇太子はもういなくて、ただただ俺に優しい目を向ける皇太子になってしまっていた。
姉がそれでさらに悶えだした。
ちょっと、辞めてほしい。
父もさらに目が興奮していた。
なんなんだ、この人たち……。
「となると、すぐに父のシェーンブルグ伯爵が陣に戻りまして、戦闘準備ですね」
「それは急いだ方が良いです。どうやら、こちらの情報ではヴァンガゥ城の城主のギード・エックハルト・ツェーリンゲンはこちらに全軍を率いて攻撃してきているようで……」
跪いたヨハンがさらに教えてくれた。
「は? 出陣したの? 」
俺が唖然として聞いた。
「やはり、そちらの情報でもそうですか」
「いやいや、そのまま籠城してこちらを引き付けて、攻城戦を行う我々を背後からグルクルト王国に攻めさせればいいのに」
「おお、それを懸念していたのです。流石、修羅を率いる御方は違う」
そう、アレクシスが感嘆の言葉を漏らした。
その修羅って言葉で今度は俺が悶える。
厨二が……厨二が……。
姉は喪女で腐女子で悶えて、父のシェーンブルグ伯爵は男の娘で悶えて、俺は自分の厨二発言で悶える。
なんぞ、これ。
皇太子もドン引きだ。
そう思ったら春の日差しのような優しい目で俺を見ている。
ひーっ、顔が赤くなるのが止まらない。
「御嬢様、皇太子妃になられる方が、安易に軍事の話をされるのは……」
アメリアがそう突っ込んできた。
いやいや、邪神とやらと戦うのは俺だろ?
と思ったが、どうやら、声に活が入るような感じだったので、悶え続けるシェーンブルグ伯爵家の家族全員に悶えるのを止めろと言いたかったらしい。
お前たちが話すべき話だろうにって事らしい。
それで、姉も父のシェーンブルグ伯爵もはっとして悶えるのをやめた。
「いいのだ。私はそれで助けてもらったのだから」
そう皇太子がまたまた優しく俺に微笑んだ。
それで俺は本当にほおずきのように項垂れて真っ赤になり、姉と父のシェーンブルグ伯爵も悶え始めた。
全然、終わんないよぉぉぉ。
「尊(とおと)っ」
「てぇてぇっ」
姉と父のシェーンブルグ伯爵がそう呟きだしたので、さらに焦る。
「え? 日本語? 」
アレクシスが凄い顔をして二人を見ていた。
「しっかりしなさいっ! 」
とうとうはっきりと、びしっという感じでアメリアが姉と父のシェーンブルグ伯爵を一喝した。
それでビシッと言う感じに姉と父のシェーンブルグ伯爵が悶える辞めた。
駄目だ、こりゃ。
完全に力関係が違う。
「ん? ひょっとして、女神エーオストレイル様の神殿の女官だった方ですか? 」
などと皇太子が突っ込んだ。
そう言えば女神エーオストレイル様の件はまだ皇太子は知らなかったんだ。
無茶苦茶焦った。
「はい、おっしゃる通りです」
え?
アメリアが認めちゃったぁぁぁ!
「ええ? 」
父のシェーンブルグ伯爵ですら動揺していた。
今回多分、皇帝からそのお話の説明が直接あったはずなのに、それをアメリアが先に言ってしまうとか。
「夢見があったのです。女神エーオストレイル様の警告が。皇太子妃はこの世界を変える御方です。その御方をお救いしろと」
そう自信を持った感じでアメリアは断言した。
確かに、それらしい話はアメリアから聞いていた。
そして、そのアメリアの言葉に、皇太子が凄く嬉しそうに納得なさった。
アレクシスもその件には全く否定しなかった。
「逆に、だからこそ軍議にも作戦にも今後は貴方も参加してほしい。確かに本来は私がするべき事だし、私が貴方を守るべき方なのだが、それでも、この皇国の国難の時なれば……」
そう皇太子が柔らかい物腰で跪いて俺に頼んだ。
その信頼しきった言葉に、またまた俺が真っ赤になって耐えられなくなって熱くなった頬を両手で隠した。
それで僅かに残った理性で気が付いたのだが、アメリアはあえて皇太子妃は軍事に関わらないと言う話をする事で逆に俺が軍事に参加できる状態に持ち込んだのだろう。
恐るべしである。
だが、それどころでないことが起こった。
姉と父であるシェーンブルグ伯爵がその場でたまらなくなったのか倒れたのだ。
「ちょっ! 」
ヨハンが必死に慌てて二人が変な感じで倒れこむのを支えた。
「「尊死」」
二人の呟きでアレクシスが眉をあげる。
これも日本語だと気が付いたらしい。
馬鹿すぎて眩暈が起きるような状況だが、俺も真っ赤になってて、それをどうのと言う状況にはなかった。
あれ?
俺、男だよね。
皇太子を俺が女性のような気持ちで眩しく見た。
ど、どうしたぁぁぁ?
俺の混乱が止まらない。
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