第4部 第2章 波紋1

 目が覚めると馬車の中であった。


 今は夜という事で休んでいた。


 帝都の皇帝の城に呼ばれたという事で、皇太子とともに向かう事になったのだ。


 突然の話なのに強行軍で物凄い短期で行く事になって、皆は疲れていた。


 父のシェーンブルグ伯爵の方もともに俺の剣の師匠でもあったゲオルク配下の騎士達と、皇太子とともに皇太子の直属の武官のアレクシスと皇太子騎士団を連れているので、強行軍なだけでなく凄い数の移動になっている。


 さらに、しれっとシェーンブルグ伯爵の配下としてヨハンも配下をあちこちに分散させて来ていた。


 勿論、ヨハンは現状は、このシェーンブルグ伯爵の騎士団の中の騎士としての恰好であるが、気配とかで誰がどこにいるか分かるスキルのようなものを持つ俺からしたら、思ってた以上にヨハンの配下が10名程度の冒険者グループの形で参加しており5キロ四方にバラバラに俺の馬車と並行して移動していて、今は休んでいるのが分かる。


 すっかり修羅と言う名前が気に入ったらしく、修羅修羅とか自分達で呼んでるらしくて、それは自分の厨二から出てしまった過ちなので恥ずかしい。


 そりゃ、転生者がこの世界に他にいなかったら誤魔化せるが転生者がいたら難しい。


 なにしろ、姉はその話を聞いて黒衣の騎士の顔を隠した面当てが震えるほど爆笑していた。


 正直、泣きそうである。


 分厚い馬車の中の窓のカーテンをずらして、真っ暗な窓の外を眺めて、俺はため息をついた。


「マグダレーネ様。不用心すぎますよ。いきなりカーテンを開けて外を見るなど……」


 アメリアがそう俺に警告した。


 そうなのだ。


 なんでこんな大所帯になったかと言うと、ツェーリンゲン公爵家の残党が俺と皇太子を狙っているとの噂が出ているらしい。


 気配が分かると言うのは本当に困る。


 実は刺客は遠回りでかなり離れた場所にいて、こちらについてくるように並走して同じように移動しているのだ。


 それで、たまに一部がバラバラになって、上手い事こちらに忍び込んでくる。


 逆に修羅という部隊が冒険者の恰好で直径5キロメートルの範囲でちらばっているせいで、かなりそれを妨げていた。


 それでも入り込んできた刺客は、俺があらかじめ考えていた互いが味方だと分かる合言葉で確認して、入り込んだ段階でヨハンに命じて始末させた。


 皇太子の方にも入り込んだので、それを同じ合言葉で始末させた。


 合言葉と言っても、符丁に近い感じで、マクシミリアン? と聞いたら相手に向けて親指を二回立てるとかそういう風にしている。


 それは幾通りか考えてあり、それを毎日変える事で、違うものが入りこむのを調べる意味合いなのだが、まあ、俺が気配で敵を察する事が出来るので、もう特定は済んでいる訳で、斬る敵を斬る為の最後の確認に使われていた。


 「良くマグダレーネ嬢はいろいろとお考えになられる」とか皇太子の武官のアレクシスなんかはお世辞を言うが、普通に野戦の夜襲では相手の確認でこう言うのは普通にするから、転生者らしいアレクシスからしたら本当は知っている当たり前の話だろう。


 大体、マクシミリアンってどなた? などと皇太子に聞かれたそうなので、私が武芸の練習するときに男性の姿でするので、その時の偽名ですって恥ずかしそうに話しておいた。


 父のシェーンブルグ伯爵はそうやって、マクシミリアンの存在をどこかで皇太子に漏れた時の為に先に問題を潰しておいた俺の事を褒めていたが……。


 それにしても、父のシェーンブルグ伯爵は凄くざっくばらんな気さくな父親に変わってしまって、今までの慇懃無礼な態度はどうかとか思うくらいだ。


 馬車の扉からトントンと扉を叩く音がした。


 俺が外をつい覗いたばかりに次の刺客かと思ったらしい。


 扉をそっと開けてアメリアが応対すると次の刺客の事かと思ったヨハンがいたそすうな。


「ごめん。なんでもないんだ」


 そう俺が扉の向こうに話しかけた。


 勿論、刺客の矢とかを警戒して馬車は特別製の頑丈なものだし、こうやって、即、相手が入り込めないように少しだけ開けて外と話すようになっていた。


 護衛の為だけではなく、皇太子妃になる御方はその辺の男と直接には話してはいけないそうで、皇国は歴史だけは古く、そういうのだけは五月蝿かった。


 こないだみたいに、皇太子妃が兵士を前に演説とかは本当にとんでもない話であったそうな。


 演説は駄目でも、普通に話すくらいとか思うんだけど。


 さらに、外のテントで寝たいのに身分の高い皇太子妃がそんな事は許されないとか言うし。


 だからこそ、男装して武芸を訓練してたっていう俺の話が苦笑とともに皇太子側に受け入れられたりしてるのだが。


「なんだよ! 違うのか? 」


 ヨハンの声がでかい。


 直接本人と話しをしているようなもんじゃんと苦笑してしまう。


「というか、夢の中で女神エーオストレイル様と話をした」


 俺が素直に話す。


 こんな夜中に言う事では無かったのだが、それでシェーンブルグ伯爵家の方はちょっとした騒ぎになった。


 こんな深夜なのに父のシェーンブルグ伯爵と姉まで来た。


 それで、極秘の事なので馬車の中で話すという事で慌てて、ニーナとアメリアが二人を馬車に入れる準備をしていた。


 馬車の中はベットをかたずけて簡易の応接間みたいな形になった。


 この馬車は優れもので、寝る場所からこういう応接間のようにもいろいろと中を組み替える事で出来る。


 裏を返したら、馬車の中だけでも生活できるように重要人物の保護の為に出来ているという事だ。


「で、なんだって? 」


「女神エーオストレイル様は、まずは男の方に入ってすまないと言う話だった。本来なら姉さんに入るはずだったんだけど、どうしても事情があって男の俺の方に入ったと……なんか現皇帝が男の娘とやらに拘りを持っていて、俺の方も身体を強化していたのでそうなったとか……」


「ああああああ」


「まあ、そうらしいね」


 そう姉がため息をつきそうな顔で父親のシェーンブルグ伯爵を見た。


 父親のシェーンブルグ伯爵も男の娘に興味を持っていたと言う事で弁解の余地無しという事だろう。


 馬車の扉の向こうで、聞き耳を立てているゲオルクとヨハンが大きなため息をついてるのが分かる。


「まあ、現皇帝はお喜びなのだがな」


「それが問題なのじゃないでしょうか」


 アメリアが珍しく、父親のシェーンブルグ伯爵にジロリと睨んで嫌味を言った。


 どうも、アメリアは敬虔な女神エーオストレイルの信徒で本人ははっきり言わないが、その教会の関係もあってここにいるらしい。


 シスターみたいなものなのだろうか? 


 それにしては物騒なくらいに恐ろしい気配をしているのだけど。


 まれに、女神エーオストレイルの剣とか言う手から刃が出たような腕だけの銀の魔除けをつけているので気が付いて、それとなく前に聞いた時に信徒である事が分かったのだが……。


 その当時はそれ以上は本人には聞けなかった。


 それで、その父と皇帝の性癖にアメリアがブチ切れたので雰囲気は思いっきり悪くなった。


 正直、勘弁してほしいくらいだった。


 


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