第4部 第1章 夢

 俺は真っ暗な中で気が付いた。


 あたりは闇で何も見えない。


 だが、不思議と怖さが無かった。


 それどころか暖かさがあり、これは夢だと自覚していた。


 そして、そこにいきなり眩いばかりの金色に輝く女性が現れた。


 豊満な身体と美しい容姿、そして衣装すら金色に光り輝いている。


 金の装飾品なのだろうが、細かい巧みな細工で全身を着飾っていた。


 その女性はじっと俺を見た。


「貴方は? 」


 俺の問いかけに、その女性は微笑んだ。


「女神エーオストレイル」


 そう静かに答えた。


 それは静かな池にポチャリと石を投げて拡がる水面の波紋のように響いた。


 そして、こちらを見ると、まるで花が咲くように微笑んでいた。


「あ、貴方様が? 」


 俺が慌てて畏まる。


 この皇国にて女神エーオストレイルは祖ともいうべき存在で、それ以上に大切に大切に信仰されていた。


 本来なら俺みたいな奴に転生させるような存在では無いのだ。


「畏まらなくて良い。我はお前で、お前は我だ。まずは詫びをせねばなるまいし」


「詫びですか? 」


「本来ならばお前の姉に入るはずであったからな」


「ああ、やはり……」


 それは実は俺も思っていた。


 そもそも、女神なんだし本来はそうだろう。


 姉の常軌を逸した強さは恐らく女神エーオストレイルを受け入れるためのものだと思われた。


「だが、我はあえてお前に入った」


「え? 」


 その言葉で俺の顔が少し歪んだ。


「どうやら、我が平らげて封印した邪神どもを復活させようという動きがある。戦わねばならぬ。戦うのなら男の身体の方が都合が良い。本来、お前は姉の補佐であり、姉を守るべき存在として産まれて来ていた。だが、我が戦うなら最初は男の身体の方が戦いやすい。それゆえ、お前の方に入った」


「邪神どもとは? 」


「パーサーギル・バーキラカ・グリュンクルド・ギース・アルメシアの五柱である。それを倒すために我はかっての世界で鬼のようになって戦った。またしてもそれをせねばなるまい。戦うためには我は怪物とならねばならぬ」


「怪物に? 」


「怪物にならねば勝てぬゆえに……。我ら神の身体には剣も矢もそれほどは受け付けぬ。神の力たる顕現した身体にある刃の如きものなどでなければ倒せぬ。それは肉体を変じる事で作り上げる事となる」


「そ、それは……」


「醜き身体にお前は変わっていくだろう。戦いの中で、化け物のような衝動もあるかもしれぬ。お前は本来は知恵を働かせて戦うものであったが、それではどうにもならぬ。そして、お前の姉は私が降りる為に少し増強したが、やはり、それではどうにもならなかった。それゆえに我は予定を変えてお前の身体に入ることにしたのだ」


「ええと……」


 正直、いきなり言われても混乱するような話なので、はっきり理解するのに時間がかかりそうなくらい動揺していた。


「すまんが戦いを続けるたびにお前は人間でなくなっていく。それはどうにもならぬ。そして、本来はその心の方を人間として抑えるのが、あの皇太子の愛になるはずだった。本当に申し訳ないと思うが、まあ、男であるお前に皇太子を愛せよとか難しいだろうの」


 凄く申し訳なさそうに女神エーオストレイルが答えた。


「あ、あの……。となるとどうなるのでしょうか? 」


「その時は仕方あるまい。怪物のまま暴走したままになるのも困るので、最後に自分で自分を処理することとなる」


「……自殺という事ですか? 」


 俺が震えながら女神エーオストレイルに聞いた。


「すまぬ……」


 そう女神エーオストレイルが静かに頭を下げた。


「いやいや待ってください! 俺、すでに一度死んでるんですが! 」


「それゆえ、二度も同じであろう」


「いやいやいや、それはちょっとぉぉぉ! 」


 俺が絶叫した。


「その時は幸せな転生をさせてやろう。ただ、お前には女性である我と男であるマクシミリアン……いや松崎祐介が混ざっておる。ひょっとしたら女性の我の心の方が反応して、かっての我のように皇国の初代皇帝と恋に落ちて戻ったようになって、女性として元に戻れるかもしれん……」


「え? そんな話だったのですか? 」


「え? 皇国の始祖との愛の物語じゃぞ? 知らんのか? 」


「知りません……」


「はあああああ? 我の愛の物語ぞ? 」


「いやいや、男の娘の話しか知らなかったもんで……」


「むう、では良く勉強をしておくように。当時の初代の皇国の皇帝は一途でな。我への愛を貫き通したのじゃ」


 女神エーオストレイルのイメージと違い、凄く惚気ていた。


 余程皇国の初代皇帝との愛が深かったのだろうか。


「そもそもだがな……余計な余計な念を我の転生とお前の転生とお前の姉の転生に混ぜたことで、変な風になった事もあるからの……」


「え? 最初と話が違うのですが……」


「いや、そもそも降りるべき肉体が双子である事はあるまい。それゆえ、転移させる予定のお前の今の世界の母親のおなかの子供が、男と女の双子だったと聞いてから、あの現皇帝が男の娘で良くない? とか術者に騒ぎおって……するはずの双子の女子への増強を男の方にもしたのだ。結果として、男の方が都合が良くなってしまった」


「いやいや、それは聞いて無いです」


「お前の世界ではそんなに男の娘とか言うものが人気なのか? 今の皇国の皇帝がそれを騒ぐので我の復活の為の転生がおかしくなってしまったのも一つの原因なのだ。お前には悪いが、まずは邪神を討ち取らねばならぬ。それゆえにどうしても我は勝ちやすい方を選ばざるを得ないからの……」


「ままままま、待ってください。別に姉だけを増強していれば良かったのでは? 」


「その通りじゃ。だから、我はお前の姉に入ろうとしたのだが、術者が現皇帝の命令でお前の方も増強しているので結果としてこうなった。現在の皇帝の性癖のせいでそうなったようなものじゃ。お前の世界では本当にこんな歪んだものが人気なのか?  男の娘などというだな……」


「いや、そんなマニアックなの知りませんよ」


「そうなのかもしれんが、その結果、我はお前に降臨してしまったしの……」


「ほぁぁぁぁぁぁぁ! ちょっと待ってください! それで俺は死なねばならぬと! 」


「先ほど話した通りに男の娘として愛を育めば、全てが終わった後に、皇太子との愛で娘として性が変わり、この世界で生きていく可能性もある」


「いや、それは無茶でしょう」


「どちらにしろ、それしか無いのじゃ」


「んな馬鹿な」


 そう俺が返すと同時に目が覚めた。


 あんまりな夢だった。


 


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