幕間 第3章

「美しい」


 皇太子がそう俺のドレス姿を見て呟いた。


 だが、混乱しきっている俺からすると鼻汁が出そうだ。


 いやいや、嬉しくないわぁぁ。


 何よ、その性転換。


 ベラじゃないんだから……。


 釣りとかで釣れる外道(間違って釣れる魚の事)のベラは雌しかいないと一番大きなメスがオスに変わる。


 そして、オスしかいないと一番小さなオスがメスになるのだ。


 いやいや、俺は人間なんだけどっ!


「ふふふふふ、我が娘も皇太子殿下の事をお慕いしている様子」


 などと、父のシェーンブルグ伯爵が適当な事を軽く言う。


「それは嬉しい……」


 そうパッと花が開いたみたいに皇太子が微笑んだ。


 冷血とか言う噂を吹き飛ばすほどだ。


「あの……黒騎士様はそのまま食べられるので? 」


 執事が甲冑のままの席に着いた姉の黒騎士に驚いていた。


 甲冑を着たまま着席とか礼儀としてどうなんだ。


「兜を外しても良いぞ。彼女の事は他言は無用に願います」


 父であるシェーンブルグ伯爵がそう真面目に話す。


「か、彼女? あ、ああ、勿論……」


 姉が黒騎士の甲冑の兜を外した。


 そこから俺と同じ顔が現れる。


 双子だが、若干、俺よりは歳上に見える顔だ。


「こ、これは……そう言えば、マグダレーネ嬢には姉がいらっしゃいましたな」


 そう皇太子殿下が答えた。


「姉のシャルロッテと申します」


「神の子を守るために女神エーオストレイル様のご指示で転生しました勇者にございます」


 シェーンブルグ伯爵がそう話す。


 皇太子殿下が息を飲んだ。


 それ以上に背後に護衛として控える側近で武官のアレクシスが息を飲んだ。


 周りの転生者らしい騎士達もだ。


 俺が神の子として転生者であるのはある程度知っていたようだが、シェーンブルグ伯爵家の秘蔵のザンクト皇国の最強の黒騎士も転生者であり、しかも神の子の双子の姉であったとはと……。


「まさか……」


 アレクシスの思わず出た独り言を聞いて父のシェーンブルグ伯爵がにっと笑った。


 アレクシス達は愕然とした顔でそれを見ていた。


 転生者を忌み嫌わない態度から父のシェーンブルグ伯爵もまさか転生者なのかと思ったのを父のシェーンブルグ伯爵が態度で肯定したのだ。


 はっきりは立場があるので父のシェーンブルグ伯爵は言わなかったが。


 まあ、びっくりするわな。 


「いや、これはお美しい……。しかし、最強と聞く黒騎士殿がまさかマグダレーネ嬢の姉君とは……」


 などと皇太子殿下が呟いた。


「私は女神エーオストレイル様より転生した際に、心に荊のような呪いを受けております。それゆえ、私を女性とは思わないでいただきたい」


 などと、聞いたことも無いような話を姉がしだす。


 そんな、恐ろしい話が合ったのかと思い父のシェーンブルグ伯爵を見ると、これまた初めて聞いたのか不思議そうに姉を見て、首を傾げていた。


「荊の呪いですか……」


「はい、呪いの名は<腐女子>と申します」


「「ブーッ! 」」


 真顔で話すので、俺と父のシェーンブルグ伯爵が噴出した。


 それ、呪いじゃねぇよ。


「本当なのですか? 」


 皇太子殿下がよりにもよって信じたらしくて悲しい顔をして俺に聞いた。


「……ええ……」


 って言うしかないよな。


 真面目な話。


「なんとおいたわしい話だ」


 皇太子殿下は本当に良い人だ。


 マジで同情していた。


 父のシェーンブルグ伯爵も申し訳なさそうな顔をしていた。


「と言う訳で、その分、妹を思いっきり愛してくださいね。別に婚約だけで手を出されても宜しいのですよ……」


 姉が満面の笑みで皇太子殿下にそう話す。


 ちょちちちちちちちちょっとぉぉぉぉ! 


 マジでそうしたいのかよ。


「……はい」


 などと皇太子殿下は俯いて頬を真っ赤にして俯いた。

 

 そんな訳で、皇太子殿下の自室で今夜は二人っきりで話をすることになった。


 俺は凄く動揺していた。


 流石にやばいだろと思いつつも何故か心臓が早鐘のように鳴る。


 しかも、俺も皇太子殿下と同じで顔が真っ赤だった。


******************************


 食事会が終わり、衣装替えで一度俺は皆と与えられた部屋に戻った。


 アメリアとニーナが衣装をぐっと色っぽく変えてくれてるようで、さらに焦る。


 頭の中は早鐘のようにドキドキする胸と熱くなった頬と、ちょっと冷静にどうするの? と思う心とで混乱しきっていた。


「はい……」


 姉が可愛らしいガラス瓶を渡してきた。


「? 」


 俺は混乱してて声が出なかった。


「転生者の研究棟で徹底的な研究の末に開発された、僅かながらの麻酔入りのワセリンのようなクリーム」


「え? 」


「頑張れ! 私の弟が皇太子殿下とそういう関係になると言う私の夢を果たして! 」


 姉の目は本気だった。


 しかも、ちょっと脅しも入ってたり。


「いやいや、女性になってからでいいのでは? 」

 

「そうですよ! 」


 父のシェーンブルグ伯爵とアメリアが必死に止めてくれる。


「私の夢だから」


 姉がびしりと話す。


 もう、何を言ってんだか分かんない。


 貴方を守るとか言った理由ってこれかよ。


 だが、姉があの脅しのような目をして言う時は絶対に俺が言われたとおりにしなければならない時の目だ。


 逆らうと陰湿な報復がある。


 俺が信じれる姉はどこに行ったのか?


「あのな。初めて話すが、父は前の世界で痔瘻を患っていてな。それで手術したのよ」


「「「は? 」」」


 父のシェーンブルグ伯爵の突然の告白に全員が固まる。


「でな、肛門にもう一つ肛門の管ができるようなのが痔瘻と言う病で、それをメスとかでくり抜くわけだ。そうしたら縫わないの。縫うと中が腐って膿んだ時に大変になるから。それで、開いたままで治るまでそのままで大便の時に、凄い激痛でな……」


 俺達は父の話に固まったままだった。


「いや、だからなんなの? 」


「肛門が緩くなるんだよ。手術後に。だから、そういうのをすると、向こうみたいに医療技術がしっかりしてる訳ではないから、宜しくないと思うんだ」


「確か、向こうと同じ名を持つ皇国の偉大なるケルン大聖堂にいらっしゃる聖女様のヒーリングなら治るはず」


「肛門を治すの? 聖女が? 」


 父のシェーンブルグ伯爵が瞳孔を開いたような目で姉を見た。


「だから、安心していきなさいっ! ヨハンの徹底的な調べでは、皇太子殿下は殆ど母からそう言うのを教えてもらってないし、母が貞操観念が堅かったので、とにかく初心(うぶ)だそうよ。だから、そういう女性を過去にあてがうとか無いから、貴方が初めてならいけるわ! 」


 そう姉が凄い目で俺を威嚇した。


「い、いや、そういうのは、あれでは? 互いの気持ちが高まってですね……」


 俺がしどろもどろに話す。


「あんだけ意識しあってたら十分だ。私は前世であんなの無かったし」


「いやいや、そんな悲しい告白をされても……」


「行ってこい」


 姉の目が殺人鬼のそれになった。


「……はい」


 俺は仕方なくトボトボと皇太子殿下の元へと旅立った。


 流石に父のシェーンブルグ伯爵とアメリアとニーナと皇太子の武官のアレクシスに止められて、姉は俺についてこれなかったらしくて異様な悔しさの叫び声は聞こえたが……。


**********************************


 数時間後、俺が与えられた部屋に戻ってきた。


 そうしたら、姉が仁王立ちで待っていた。


「何で、戻ってきたの? 」

 

 姉が詰問口調だ。


 父のシェーンブルグ伯爵やアメリアやニーナは姉を捕り押さえるので精一杯だったらしくて部屋の椅子に倒れ掛かって疲れ切っていた。


「いや、婚約しただけで同室で一夜はまずいだろうって」


「で、そちらの大事な方の首尾は? 」


「二人の愛が通じれば、神様がこうのとりを使って赤ちゃんを私達のもとに運んできてくださると……」


 こちらも童話とかでは赤ちゃんを運ぶのはこうのとりであった。


「初心(うぶ)って! そこからかよっ! 」

 

 姉がブチ切れて部屋で大暴れした。


 という事で一線はこえなかったものの、部屋は暴れる姉によって無茶苦茶になっていた。


 次の日に、それは<腐女子>の呪いのせいだと平気で武官のアレクシスに話す姉が怖かった。


**************************************

 後書きが無いので、ここに書きますが、続きの編が出来たら投稿します。

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