第4部 第3章 波紋2

「で、女神エーオストレイル様の御言葉は?  その事に対する御怒りとかは? 」


 アメリアがぐいぐいと聞いてくる。


「いや、逆に戦うためには男の身体の方が都合が良かったと話してた」


「は? 」


 アメリアが少し驚いたような顔になった。


「都合が良かったとおっしゃったのか? 」


 さっきまで睨まれてしおしおになっていた父のシェーンブルグ伯爵の顔つきが変わった。


「いや、封印した? なんだったかな? 邪神どもを復活させる動きがあるとか……」


「やはりか。お告げの通りという事か? 」


「は? 」


 俺が驚いた。


「元々はな、確かに転生者とかの思惑などもあるのだが、女神エーオストレイルの大神殿に住まう巫女が天啓を受けてな。女神エーオストレイルが蘇れる器が欲しいとの話でな」


「ええええええ? 」


 俺は単なる被差別階級だった転生者の革命なのかと思っていたので驚いた。


 女神エーオストレイルはその為の新しい時代の神話の為なのかと。


 つまり、新しい王朝として復興する為にはやはり神話はかかせない。


 それだけ箔が付くし。


 そもそも、あまり神話とか読んで無いから、俺はこの世界の神話を良く知らないのだが……。


 昔、アメリアにちらっと神話が知りたいとか聞いたら、どのあたりの章ですか? とか聞かれて、いや全部とか言いそうになったら、アメリアが凄まじい顔つきに変わって「はぁぁ? 」などと腹式呼吸で睨むからやめた。


 だから、全然知らない。


 こないだは俺の中に始祖の女神エーオストレイルがいるとか言われて、それでええええっと思ったが、まあ、その革命後の皇国の箔付けで降ろしたのかななどと思っていた。


 何しろ、アメリアが怒るから神話の話も聞くに聞けないのだ。


 書庫で神話を書いた王国史を探そうかと思ったが、アメリアは俺の御付きなんで音もせずについてくるし。


「一体、どの邪神が復活するのです? 」


 アメリアが心配そうな表情で聞いた。


 まずい、名前を覚えてない。


 仕方ないので、無言で椅子に座ったままでいる。


「……覚えて無いんだ……」


 姉が言わなくても良い事を言った。


「はああああああ? ギースとかバーキラカとかあるでしょうが……」


 アメリアが怖い。


「駄目よ、この子。神話の話を教えるとすぐ寝るから」


 姉がさらに余計な事を話す。


「そんな! そんな! 女神エーオストレイル様の御告げで選ばれた方がこれでは、話にならないですよっ! 」


 アメリアが半狂乱になっている。


「まあ、女神エーオストレイル様の大神殿に仕える女官様としたらキレるよな」


 父のシェーンブルグ伯爵が他人事のように呟いた。


「ああ、やっぱり女官さんなんだ」


 俺が納得したように聞いた。


「転生させたって事で、女神エーオストレイルに御仕えする為に来たのよ。彼女が強いのは女神エーオストレイルって武神でもあるから、御仕えする女官というか巫女には戦乙女がいるの」


「そう言えば女神エーオストレイル様に言われてた……戦うためにドンドンお前は人間でなくなっていくだろうって……」


「え? 」


「は? 」


「待ってください。そんな事を女神エーオストレイル様がおっしゃったんですか? 

邪神の誰と誰が生き返るとおっしゃっているのですか? 」


「五柱とか言ってたな」


 俺が必死に思い出して答える。


「ひっ! 」


 アメリアが真っ青になった。


「5柱だと? 」


 父のシェーンブルグ伯爵も驚いた顔に変わった。


「ちょっと、まさか、バーサーギル・バーキラカ・グリュンクルド・ギース・アルメシア……? 」


 姉がゆっくりとそれらの名前を言っていく。


「ああ、確か、そんな名前だった……」


 俺が軽く答えた。


 そうしたら、馬車の扉がいきなり開いた。


 そこにヨハンとゲオルクが深刻な顔で立っていた。


 おいおい、馬車の扉を開けても良いのかと思って何か言おうとしたが、彼らの顔が深刻すぎる。


「強かった全部の邪神じゃないですか……」


 ゲオルクが震えた。


「国だって滅ぼせる邪神が一柱だけならともかく五柱なんて無茶苦茶だ」


 ヨハンも呻いていた。


「やはりな。西の大国のクルグルドの宮中に妙な男が出入りしていると言う情報はあったんだ」


「それは初耳なんだけど……」


 父のシェーンブルグ伯爵に姉が聞いた。


「どうも禁術を使うらしくて、『封印師』の流れだそうな」


「ひっ」


 父のシェーンブルグ伯爵の言葉にアメリアが悲鳴をあげた。


「『封印師』って悪いものを封印するんじゃないの? 」


「いや、それがな。この世界の面白いとこだが、どちらかと言うと封印と言うものは女神エーオストレイルがしたもので、この世界では封印するものはもう無いから、逆に封印を強化したり、または解除するものとして見られてるんだそうな」


「へぇぇぇ」


 とそう答えながら、父であるシェーンブルグ伯爵と親子のような会話をしたのが初めてだったので、ちょっと嬉しくてなってしまった。


 何しろ、前世の父親とも俺は疎遠だったから……。


「な、何がそんなに嬉しそうなんですか? 」


 それをアメリアに怒られた。


 どうやら、こんな忌まわしい事を喜んでいると見られたようだ。


「いや、俺は前世でも父親と親子のような話をしたことが無くて、今世も実は諦めていたから……」


 そう俺が正直に答えた。


 こう言うのは誤魔化すとドツボにはまるし、何よりも本当に俺はうれしかったのだ。


 こちらの世界に来ても父は伯爵で親子でも身分が違い、こんな風に顔を突き合わせて一つの問題を話すことが無かったからだが……。


「ああ、この子は前世も不幸なだけで終わってるから、それは許してあげてほしい」


 そう姉がアメリアに話す。


「いや、でも、この話だと今世も不幸では無いですか? 」


 そうゲオルクが突っ込んできた。


「いやいや、勝てば良いんだ」


 父が皆を落ち着かせるために話す。


 それで、皆がゴクリと唾を飲んだ。


「いや、勝っても最後は人間になれずに怪物になって暴走する恐れがあるから、その時は申し訳ないが自殺するからって言ってたけど。それでお前に本当にすまないと女神エーオストレイル様に言われてた」


 俺が父とか家族で話すのが嬉しくてさらっとつい言ってしまった言葉でさらに皆の顔が真っ暗になった。

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