第3部 第3章 決意
「どうなさいますか? 」
アメリアが優しく俺に微笑んだ。
前世は誰もいなかったが、今世は違うのか。
本来なら、転生者としてエードアルトのように虐待されていてもおかしくないのに。
俺が深く深呼吸をした。
「そうか、一人じゃないんだな」
そう俺が呟いた。
普通なら、一人じゃないなら皆も巻き込めないと考えるのだろうが、その時の俺は一人じゃないのが本当にうれしかった。
俺は前世からずっと一人で孤独だったのだ。
そして、皇太子も孤独だったのだろう。
同じなのだ。
これを見捨てれば、また同じことを繰り返してしまう。
皆が俺の後押しをしてくれるのに……。
「姉のシェーンブルグ伯爵家の軍隊はどこに? 」
ヨハンに聞いた。
柔らかい笑顔で。
「エードアルトが転生勇者で今回アルンハルト公爵の軍にいるので、それと並列して戦場に向かってます」
ヨハンはそう答えたが、俺が笑っているので少し驚いていたようだ。
「並列って? 」
そうニーナが驚いた。
「いや、背後から来られたら、もしもがあったら困るんだろう? それでアルンハルト公爵家側が提案した。シェーンブルグ伯爵家は罰ゲームとして妹君を出したが、それを不安視するものがいて、ツェーリンゲン公爵家から離されている。そして、アルンハルト公爵家にも転生勇者がいるからな」
「では、姉上に連絡をしてくれ、そのまま戦場では動かないで、アルンハルト公爵家に威圧を」
「え? 」
「これで3000減るし、転生勇者も参加してこない」
「いや、それはそうなんですが」
アメリアが少し驚いた顔をした。
「ヨハンは全部で4000。全部連れてきたんだろ? カルトロップは全部持ってきたか? 訓練はさせてあったはずだが? 」
俺がヨハンに聞いた。
「マジか! やるのか? ボン! 」
「ああ、やろう。もう死んだように生きるのは御免だ。例え、歴史が変わろうとも」
俺がそう笑顔で話した。
「しかし、時間がありません。もはや、皇太子の全滅は……」
「全部の半数のカルトロップをばらまかせながら馬で駆け抜けてリンブルフ公爵家の戦場への道をつぶしてくれ。そして、残りの半数はツェーリンゲン公爵家の軍の分断に使う。前に話した通りカルトロップで分断させて各個撃破する」
そう俺がヨハンに説明した。
「よし、すぐに皆に伝える」
そうヨハンが嬉しそうに笑った。
カルトロップ……西洋式のマキビシである。
ただ、日本のマキビシが小型であるのに対して、カルトロップは三角錐のような形でしかもとがった槍のような部分は7センチ以上ある。
転がすと常に上に刃先を向けて草叢にすっぽり隠れて、敵にはわからない。
これを踏むと騎馬なら馬が倒れる。
この世界は重装騎兵なので、中世に実際に使われた通り、馬がカルトロップで足を貫かれて倒れた時に一緒に落ちてその自重で地面にたたきつけられたたり、落ちた先にカルトロップがあって刺さったりで良くて重症かそのまま死んだりする。
所謂、無茶苦茶卑怯な武器なのだ。
何しろ、刺さってすぐに抜けないようにちゃんとかえしもついている。
アレキサンダー大王の時代にはすでにあって、現代まで使われているものだ、その有効性も分かる。
あるヨーロッパの中世の戦いでは正規軍に対して、農民に近い兵士が使って、これだけで壊滅させている。
あまりの卑怯さに実際は戦争で使われまくったのに、卑怯で恥ずかしいので歴史では使わなかったことにしたほどの武器なのだ。
何もしなくても相手の通り道にばらまくと勝手に死ぬからである。
まあ、本式は貝を焼いた石灰をまぶして、身体に刺さった時に石灰が血液と反応して怪我とともに大火傷をさせるのだが、それはまだ先にするとして……。
「勝てるのですか? 」
アメリアが凄い顔をして聞いてきた。
「うん、勝つよ」
俺が軽く笑った。
こんだけ卑怯をやって勝てないとかありえない。
これプラス集団戦である。
俺は敵に対して三対一くらいで戦うつもりだ。
実際にヨハンにはそれを徹底的に訓練させてあった。
いずれいると思って……。
こちらはカルトロップで分断して少なくなった兵を集団戦で潰していく。
きっと後世では義経より外道と称えられるのだろう。
なるほど、外道にならないと駄目だな。
勝つためには姉の言う通り外道になるしかない。
「えええ? 」
俺の勝つ発言で、アメリアの顔がマジでドン引きした顔になった。
「本当に神の子なんですね。シェーンブルグ伯爵が召喚するときに、すべての敵を滅ぼして世界に覇道を導ける魂をって召喚したと兄が……」
「ええええええ? 」
初耳である。
あれ?
となると聞いてる話と違うのか?
俺が戦うのは織り込み済みとか?
あれ?
「あの実は兄が用意してたのですが……」
そう鎧を出してきた。
女物だった。
「え? 男で戦うんじゃないの? 」
「男の娘が戦うのが大切なのだそうで……」
「はあ? まだ続けるの? 」
俺がドン引き。
でもドン引きしている間に、アメリアとニーナが俺のドレスを脱がせて着せた。
で、胸にシェーンブルグ伯爵家の紋章がついている。
「いやいや、これは駄目だって! 正体不明の軍団が戦ったって話にしないと! 」
そう俺が叫んだ。
「ええええ? 」
「他の奴にもシェーンブルグ伯爵家の紋章をつけてんなら消させて! 」
俺がニーナに命令した。
慌てて、ニーナが飛び出していった。
「あの、シェーンブルグ伯爵家の紋章をとっていいのですか? 」
「やってくれ。でないとまずい」
「……では失礼して」
流石に自分が仕える伯爵家の紋章を削るのは気が引けたようだ。
それでアメリアがおそるおそると短刀で削りだした。
「急いで」
急がないといけない。
何しろ、皇太子の軍は死ぬための軍だ。
正面から最初に皇太子が突撃するかもしれないのだ。
だが、シェーンブルグ伯爵家の紋章を削るのはしないといけない。
バレバレでも誰がやったかわからないって形にしないと。
あくまで山賊に狙われたとかって感じにしないといけない。
だから、俺達は慌ててやった。
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