第2部 第7章 転生者の城

「少し、時間を貰っていいかな? 」


 俺がしばらく無言で椅子に座っていたが、思い出したようにアメリアに頼む。


「宜しいですよ。特に問題は無いと思います」


「では、少し集中するので……」


 俺が自分のチートで探る。

 

 この城に入っただけなのに、俺のチートが研ぎ澄まされていくのが分かる。


 俺はこの城の索敵から始めた。


 独特の転生者の気配。


 この城に来る時に気が付いたのだが、姉とエードアルトがそうであるように彼らには独特の気配がある。


 勿論、姉とエードアルトほどではないが……。


 その感覚を研ぎ澄ませる。


 そして、気が付く。


 城にいる三千ほどの兵の半数近くが恐らく転生者だ。


 間違いない。


 俺が皇太子を守って戦う事が転生者の未来に関わってくるという事か?


 皇太子は……違うようだが。


 だが、アレクシスは間違いない。


 転生者だ。


 勇者ほどではないが……。


 問題はアメリアとニーナなんだよね……。


 うーん。


 転生者なのかもしれないけど……ちょっと微妙に気配が違うし……。


 これは、何か触っているような気配がする。


 そう言う意味では姉と似ているような。


 そうすると俺もそういう気配がするのかな?


 俺自身だから分からないが……。


 それにしても、恐ろしく厄介な話に巻き込まれた。


 そりゃ、アルンハルト公爵家ですら隠ぺいして転生勇者を持っていてシェーンブルグ伯爵家はそれに手出し出来ないんだから、グンツ伯爵家だけど第一皇妃になった人物が転生者を集めたとして、シェーンブルグ伯爵家では手出しできないよね。


 そして、必死になって皇太子を守るために戦うなら、転生者を集めるという選択肢はあり得るわけで……。


 まあ、するわな。


 意外と戦力として強力だし。


 俺が深く考え込んだ。


 索敵は外にまで広げる。


 言われてみれば城の周りは間者というか斥候だらけだ。


 そりゃ、これはザンクト皇国だけでない世界の流れを変えかねない戦いだもの。


 で、見知った気配を見つける。

 

 ヨハンが来てる。


 しかも、それなりの手勢を連れて。


 もしもの時は俺を救出する役目なんだろうけど、手勢が他にもあちこちいる。


 そして、気配が好戦的だ。


 救出に来てるんじゃないのかもしれない。

 

 困ったもんである。


 そこで、索敵を止めた。


 深く、息を吐いた。


「終わられましたか? 」

 

 アメリアがいらないのにもう一杯苦いコーヒーを入れていた。


 しょうがないのでそれを飲む。


 さっきより苦い。


 もう完全に寝れないな。

 

 そうして一気に飲むと、アメリアとニーナがじっと俺が話すのを待っていた。


 いや、何も決まってないんだけどね。


「あのさ。カスパーはもしもの時に俺を助けに来るために来てるんだろうけど、仲間をあちこちに伏せ過ぎだし。戦う気満々なのはどうなの? 」


 俺がそうニーナに呆れるように話す。


 ちなみにカスパーは転生者ではない。


「ああああっ! やはり兄の話してた通り配置とか隠れている場所とか全部が分かるんですね! 」


 二ーナが驚くより喜んでいた。


 いやいや、喜ばれても困るんだけど。


「やはり、斥候だらけですか? 」


「ああ。だから、カスパー達って独特の気配だから凄く分かるよ」


 そう、傭兵や盗賊の気配とは少し違う。


 斥候でもなくてギラギラしてる。


 多分、平安時代の足軽とかが時代を経て戦国時代になった時にはこんな感じだったのかもしれない。


 何というか、上昇志向があると言うか……。


 戦うのを職業にしているだけでは無いのだ。


 のしあがる為にやっているのだ。


 だから、俺を必死に煽っていたのか。


 索敵の精度が上がったせいか、非常にその辺りの感覚がよく分かる。


 そうか、戦国時代が始まる辺りなんだな、この世界。


 困ったもんである。


「どうなさるので? 」


「わからない」


 素直にアメリアの言葉に答える。


 いや、本当にわかんないよ。


「ええ? そうなんですか? 」


 ヨハンに似てるのかもしれない。


 ニーナも戦いたがりなんだな。


 ちょっと残念そうだ。


「ただ、皇太子の軍は弱くないよ。というか、かなり精強だ。恐らく簡単には負けないんじゃないかな」


 そう俺が皇太子の軍の強さを話す。


 俺の俯瞰して相手の動きが分かるのが凄すぎるチートだとして、彼らはもう一つのチートを持っているはず。


 そう、恐らく、この城の半分の転生者は騎士同士の個人戦を集団戦として戦う事に全く躊躇しないだろう。


 ひょっとしたらこちらの世界の兵士も併せてで全部かもしれない。


 忠臣蔵で圧倒的に吉良側が負けたのが、山鹿流軍学にある。


 襲撃の噂が流れて、実は凄腕の剣士を集めていたのに吉良側はぼろ負けした。


 当たり前である。


 山鹿流軍学だと、刀と槍と弓をそれぞれ持つ三人一組が一人ずつ倒していくのである。


 勝てるわけがない。


 集団戦でかかられたら、騎士は騎士たるべきなんて言葉は全く意味が無くなる。


 姉が外道の戦いをしなさいと言うはずだ。


 義経も船の漕ぎ手を矢で射たり、当時の常識を無視した戦いをしたから強かった。


 この世界のやり方ならやりようはいくらでもある。


 それをする気なのかもしれない。


 ただ、問題があるとしたら、戦って滅びる気の皇太子が貴族は貴族で騎士は騎士の戦いに執着するかもしれないだけだ。


 そうなったら部下達の信頼度からして、自由に転生者達は戦わなくなる。


 まるでフランス革命でのバスティーユ襲撃の時に守っていた精兵のスイス傭兵に国民を守る為に戦わせなかったルイ十六世のように。


 結果として、スイス傭兵は身体をバラバラにされても命令通り手を出さなかったので皆殺しにされた。


 もし、スイスの傭兵を戦わせてたら国王側が勝ってた可能性が高い。


 のちにナポレオンが喝破したように所詮大砲をぶち込めばあいつらは逃げると本当にやっちゃう人が証明したし。


 実にナポレオンはそれをやったから、本来は出世できない人間だったのに、一気に皇帝まで駆け上がった。

 

 それだから、俺の動きが大事なのだろう。


 ヨハンは仲間も一緒でそれをやっちゃう人だから。


 いや、逆に言うとだから保険なのか。


 皇太子の考えによっては、この世界が根底から変わる可能性がある。


 両方に手を打っておくことで、シェーンブルグ伯爵家の地位を守ることを狙っているのだ。


 そして、姉君は俺を戦わせて、この世界を変える気なのか?


どちらにしろ、平穏無事な生活を目指している俺には勘弁してほしいが……。


 

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