第2部 第6章 現実の闇

「率直に聞きましょう。貴方はどちらの味方になるか決めましたか? 」


 物凄く直球だ。


 さっきまで凄く同情していたのだが、ひょっとして凄く全てが直球過ぎるのが問題なのでは無いかと思った。


 普通、確かに皇太子妃として来た婚約者の部屋に来ないよな。


 そして、俺を完全に女性として扱っているところからして、俺が男なのを知らないらしい。


 その辺りはアルンハルト公爵家が今回の事を知らないのか、それともやはり転生者として人間扱いされていないので知らされていないのがあるのか……どちら何だろうか……。


「あ、いや、こんな朝早くから女性の部屋に来た私をお許しください。私にも大切な事なので……」


 俺が黙っているせいか、そう本当に焦ったように話す。


 本当に知らないのかな?


「あの……私は……」


 と明かそうかと思ったら、アメリアが肘でついてきた。


 これはアメリアがいつもそれは駄目と思った時に伝える方法である。


 ああ、俺の性別とかは、やはり知らないんだ。


 それで男の娘は言ったら駄目なんだと思った。


 ならしょうがないな。


「私は何も決めておりません」


 そう俺はさらりと断言した。

 

 発言を躱したように取られたかなと思うが、本当に決めていない。


 それで、じっとエードアルトが俺を見る。


 質問を躱したと思ったらしい。


「私は貴方のお役に立てると思うのですが……」


 いきなり核心をついてきた。


 裏切っても良いよって事かよ。


 えええええええ?


「貴方の選ぶ道に未来をかけたいものがいるのです」


 そう自分の出来たばかりのような痣を撫でる。


 その辺りの事情は分からないではないが……。


「では、私の姉を見ていてください。姉は私の気持ちを察して動くはずです」


 少し目を瞑って考えて、そう俺が答えた。


「おおお、分かりました。では、私が敵でない事を証明する為に知っている事を話します」

 

 そう嬉しさのせいか立ち上がって話した。


 またしても、ちょっと直情的すぎるような気もするが……。


 だが、転生勇者なのは間違いない。


 姉と互角で戦えるかもしれない相手は出来るだけ敵に回したくない。


「第一皇妃が亡くなられた段階で、ツェーリンゲン公爵が軍を動かして皇太子を攻めます。三公爵の軍は同時に動くと思ってください。アルンハルト公爵家は付き合いで仕方なく参戦ですが……」


「馬鹿な。皇太子ですよ? 逆賊になるではないですか」


 俺が驚いた。


「皇家は動きません。静観しています」


「は? 」


 俺が驚く。


 本当に捨てられているのか? 


 あり得ない。


 自分の息子だろうに。


「理由は不義の子です。第一皇妃は婚約するはずだった相手がいたのです。それを取り上げて、皇帝の血を引いてないとするつもりです」


「いやいや、そんな馬鹿な話が? もし本当だとしても皇帝にとっても恥では? 」


「そう言う事に御興味があられる御方では無いのです……」


 そうエードアルトが俯いて呟いた。


 男の娘には興奮して興味津々なのに?


 とんだ馬鹿じゃねぇか。


「? その責任を問わせるとして、現当主のグンツ伯爵を降ろすのですか? 」


「良くご存じで。いや、シェーンブルグ伯爵にはグンツ伯爵の弟君は御話はしていたのかな? 婚姻の件でシェーンブルグ伯爵家にも出入りしてましたし、今後の事を考えたらお話していてもおかしくない。おっしゃる通りグンツ伯爵家は弟君が後を継ぎます。ただ、本人は知らないが、ザンクト皇国の創設の時に与えられた鉱山はすべて奪われますので、意味の無い伯爵家になりますがね」


「愚かすぎますね。弟君は鉱山の所有はそのままって信じているんですね……」


「その通りです」


 俺があきれ果てる。

 

 最初に経緯を良くしらべていれば、シェーンブルグ伯爵家のようにほぼ把握できるはず。


 多分、鉱山の管理はうちにしか出来ないと勝手に思い込んでいるのだろうか。


 俺が考え込む。


 すでに詰んでいる。


 そこまでエードアルトの言う通り転生者として人間扱いされていないものまで知っているのなら、予想以上に周知された話なのだろう。


 これでは……。


「第一皇妃が亡くなれば……。すぐに動き出すと思います。そして、それはここ数日。ひょっとしたら、今日かもしれません。第一皇妃はもう持ちません」


 そうエードアルトが続けた。


「皇太子殿は? 」


「お分かりだと思いますが……」


 諦めているのか……。


 しかし、この城があれば……。


 だが……援軍が来ない籠城なんて負けしかないが……。


「……母の名誉のために皇太子は降伏は出来ません。そこまで読んだ作戦です」


「なっ! 」


 俺が本気で驚く。


 殺す気なのだ。


 だから、幽閉させる気も無い。


 戦わないで降伏すれば皇太子である息子が不義の子と認めたことになる。


 戦うしかないように追い込むために、不義を持ち出したのか。


 除くだけなら、転生者として決めつければいい。


 だが、戦うように持ち込んで完全に潰すのか。


「叩き潰さないといけないのです。第一皇妃は知恵者でした。だから、貴方を望むだけでなく、自衛のためにそれなりの人物を集めてしまいました。だから、潰さないと後の問題になると公爵家は見ております」


 それで、この厳重な城が出来たわけか。


 あまり、はっきりと言わないが、ひょっとしたら転生者もかなり集めていたかもしれない。


 息子の為にそこまで禁忌を恐れず動く第一皇妃に恐らく公爵側は恐怖したのだ。


 だから、本気で潰してくるという事か。


「戦力は倍以上違います。でも、恐らく、貴方ならひっくり返せると思ってます。いゃ、はっきり言うと信じています。皆の希望なのです」


 そう直球に話す。


 多分、話していないが、これ……ひょっとして転生者の革命みたいなポジションじゃないのか?


あまりに直球過ぎて、分かってしまった。


 そのヤバさが……。


「あまり、ここにいると疑われてもいけないので……貴方が我々の希望になる様に信じております」


 そう告げるとエードアルトは静かに去って行った。


 そして、俺の気配察知はその予想が間違いない事を告げていた。


 城の連中が引き入れていたのだ。


 俺にエードアルトを合わせるためにだ。


 何人かが心配そうにエードアルトにどうだったか聞いてるとしか思えない気配なんだもの。


 チートも良し悪しだ。


 火山の噴火口で自分が踊っていたことが分かって震える。


「……貴方は思った通りに動けば良いと姉君が……」


 俺の動揺に気が付いたようにアメリアが囁いた。


 俺はふぅと深く息をついた。


 

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