第2部 第2章 姉の策略か……もしくは……
姉が初めて優しく語りかけてくれた。
その事実で驚き過ぎて、結局、そのまま流されるように皇太子の城に入った。
姉は威圧感も凄いし、我がままで俺に女性の格好をさせて妹として扱ってきたせいもあるが、今は分かる。
何しろ、皇太子の城を移動する間でも、まさにお姫様然として俺はそつ無く会釈とかできる。
そして、それをずっと2年間やらされてきたのだ。
おかげで、言葉遣いも女性のままだし、いや、俺も本当に自分で男かと思うくらい、すらすらと皇太子のおつきの方々とご挨拶前の質問の返事とか全然簡単にこなせる。
言われてみれば、妹として良家に嫁ぐというパターンで何度も何度もお姫様遊びをやらされていたが、それはこれの訓練だったらしい。
最初から、あの妹に対するお姫様ごっこはこの為だったのかとハッとする。
あの姉の徹底的に拘るところは、何と俺は今、貞操帯をつけているのだ。
お姫様ごっこから、歩き方がおかしいと何度も注意された。
つまり、股間にものがあるからである。
それで完全にあれが身体にフィットする革製のものをつけさせられて俺は屋敷で妹役をやっていた。
聞くところによると反対に宝塚の男役は股間があるものとしての歩き方を練習するから、それの逆バージョンである。
今回の婚約で、この貞操帯で万が一襲われたら、婚姻するまではと逃げなさいと言われていた。
勿論、合意の上なら別にいいけどと余計な事まで言うのが姉らしい。
何やら期待を込めた目で姉から言われたが、腐女子だった話を聞いたから、どこまで本音なんだか……。
まあ、確かに股間にあれがあると歩き方に関係するから、貞操帯で男であるのが隠せるのは助かるし、それに何かあっても股間が剥き出しになった時に股間のものが見られてしまうよりは良い。
ぴったりフィットの貞操帯で股間は気にならない。
……ちょっと俺のは小さいのかもしれんけど。
後、どこまで考えられているのか、姉は骨格に関しても対処していた。
何しろ、男性と女性の骨格は違うのだ。
だから、分かる奴は分かるし、古流とか関節系の格闘技なんかやってると骨格を意識して練習するから、それはすぐにばれてしまう。
肋骨の形が違うのでどうにもならない話なのだ。
女性はくびれができやすいように肋骨が下側はすぼんだ形をしている。
それに反して男性は逆に下側は広がっているのだ。
これは隠しようが無いはずなのに、この中世に似た世界はこれを誤魔化せる器具があるのだ。
そう、コルセットである。
それの特別なものを使用して、それを隠してるのだ。
勿論、俺が男の分だけ、くびれを作る為に痩せないといけないから、鳥の皮を除いた肉とかタンパク質から何から計算して食事をさせられていた。
そして、14歳ならまだ声変わりも遅い奴なら始まってないし……いや、姉にお声のお薬の飲み物とか言われて飲んでたな……えええと……。
まあ、そんなわけで、俺は姉の拘りの深謀遠慮に驚くより呆れていた。
つまり、姉の妹が欲しかったとかから来たお姫様のような妹としての俺の女装は最初から、この婚姻に合わせて行っていたという事だ。
何という先まで読んだ計画なのか?
俺よりよっぼど将器じゃないか。
ヨハンは間違えてんじゃないのか?
そうブチブチと呟く。
そのせいで、途中で妹のニーナ・カスパーが不安そうに兄が何かしましたか? と囁いてきたほどである。
そして、だからこそ、今回の姉の言葉が気になる。
何故にあんな事を?
まさか、ヨハンみたいに世界を支配しろとでもいうのか?
んな、馬鹿な。
皇太子の城とは言え、今の皇太子が住むようになって、随分と拡張とかしたと聞いたが、本当だった。
これだと帝都の皇帝の帝城に匹敵する大きさだ。
一説に第一皇妃が言い張って大きくした為にこれの支払いで、皇家にお金が残らなかったのだとか。
これを豪奢だと貴族達は誹り、グンツ伯爵家から来た第一皇妃を罵るものが多かったとか。
だが歩いてみて気が付いた。
城の中核に入るまでに何度も何度も曲がったりと言う道がある。
それは必ず広がった場所に出る。
そこは必ず上の大量の銃眼がある城壁から見下ろした場所である。
これは、そこからボウガンで敵を殲滅するためのものだ。
恐ろしく、ヤバい設計で出来ている。
そういえば、今、重体の第一皇妃は毒を飲まされたとの噂もあったよな。
そんな事を考えながら、窓の外から城の通路とかの配置を見ながら唸る。
あれ?
話が違うのでは?
贅沢では無くて、皇太子を守るために増強したのかもしれない。
城があまりにも堅城過ぎる。
これは皇帝の次の皇太子が威儀を見せて住まう城ではない。
誰かに攻められるのを前提にした城だ。
「……どういう事でしょう? 」
俺が呟く。
こういう、ちょっとした驚きの言葉も姉の妹としてお姫様ごっこしたせいか自然とお嬢様の言葉になる。
すげぇゃ、姉さん。
「どうかなさいましたか? 」
そう、皇太子付きの武官のトップのアレクシス・ホフマイスターが最初から護衛としてついていたが、親の言葉を聞きとがめたようだ。
「いえ、随分と厳重なお城で……まるで皇帝とともに皇太子として君臨し国威を見せる豪奢な作りと言うよりは、その……」
そう俺が言葉を濁した。
「……なるほど。シェーンブルグ伯爵家より秘蔵の妹君が来られると聞いて、驚いたのですが、そういう意味だったのですか……」
少し感嘆したようにアレクシスが呟いた。
「秘蔵とは……」
そう、手にした扇で顔を隠す。
こういう動きが自然にできてしまうのが恐ろしい。
実はマリーアントワネットとかも扇を使っていたが、それは日本が南蛮貿易で輸出していのだ。
異国情緒あふれるという事で向こうの上流階級で大ヒット。
その結果ヨーロッパには和紙が無いので、ヨーロッパでは布とか象牙とか使って作ってたという。
ちなみに同じようなものを転生者がこちらで作ったら、それもこちらで大ヒット。
特にシェーンブルグ伯爵家は転生者の取りまとめしているから、余計に彼らが作ったものを売る為にアピールで使用しているから、これはそれであったりする。
ただ、昔はシェーンブルグ伯爵家では商品アピールも込めて使っていたのだが、人気が出た為に、今は上流階の女性なら誰でも持っている代物なのであった。
「我らとしては姉君との婚姻を期待していたのですが、貴方のお父君に秘蔵の妹の方がよろしいでしょうと言われて話が進んだのです。皇太子殿下もいろいろと言われてますから、恥ずかしながら、そのせいで避けられたのかと思っていたのですが、なるほどなるほど……」
そう感心しきりであった。
いやいや、騙されてると思うぞ。
男の娘計画の結果なんだよ。
だが、アレクシスの感心は止まらなかった。
「通路と銃眼の数とで、その狙いを見抜くとは、恐るべしですな」
アレクシスが本当に、俺がそれに気がついた事に衝撃を受けたらしかった。
多分、この城は彼の設計によるものなのだろう。
あまりに異端な城だからだ。
この世界は騎士が騎士らしく、貴族は貴族らしくで、正面突撃で終わりの国だ。
なのに、この城の考え方は乱戦での戦いを意識している。
逆に言うと転生者とかのノウハウのような気がする。
あまり突っ込んでも良くないだろうけど、それだとシェーンブルグ伯爵家はツェーリンゲン公爵家とは実は反目しているって事か?
いやいや、そうでなくて、この場合だと……両天秤にかけているのかな?
保険という事で……。
うちのシェーンブルグ伯爵家って転生者を管理しているせいか、意外とこの時代では異端の考え方するからな。
まるで戦国期の大名みたいな考え方だ。
どちらが勝っても、生き残れるようにするという奴かも知れない。
俺はそう結論付けた。
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