第1部 第3章 初陣
迷惑なことにグンツ伯爵家がしきりとうちとやり取りしていたようだ。
うちのシェーンブルグ伯爵家の当主である父はどちらかと言うと学究肌で、全く権力とかに興味が無かったはずなのに、わざわざ第一皇妃の実家のグンツ伯爵家と付き合いをするとか正気とも思えない。
大体、もともと鉱山持ちの金持ちのグンツ伯爵家と転生者を監督するシェーンブルグ伯爵家はお金持ちなだけでなく、評判の悪さもザンクト皇国の両巨頭と言う所であった。
嫌われ者と嫌われ者が組むというのもわからないでもないが、前世でも嫌われ者の家に産まれた俺からすれば、経験上的にそれ以上嫌われてどうする? って思うとこであるが……。
そして、その使いがシェーンブルグ伯爵家に泊まっている日に事件は起こった。
その日は単なる使いが来ただけのはずだが、姉も呼ばれて父のパウル・フォン・ウント・シェーンブルグも立ち合いで話をしているそうな。
相手はグンツ伯爵家の当主の弟でロホス・ジークハルト・グンツ殿が来ているらしい。
グンツ伯爵の弟だが、実質的にグンツ伯爵家を差配しているという噂もあるほどの人物だと言う。
まあ、俺は全く相手にされて無かったのと姉の相手をしないで済むのはチャンスだったから、警備をしているゲオルクの元にいた。
今日は流石に警備の騎士達もピリピリしていたし、それ以上にシェーンブルグ伯爵家の裏の荒事をしているとか言う騎士頭補佐だが騎士に見えないヨハン・カスパーもいた。
彼はそれなりに有名な騎士家の三男に産まれて、ゲオルクとともに傭兵で知られてたらしいが、盗賊だったとか言う噂すらある強面である。
身分は一応に騎士としているが、その辺の冒険者みたいな革鎧で軽装の服装で、冒険者と呼ばれてもおかしくないような服装で、騎士に見えない。
ただ、強面なので暗黒街の人間には見える。
そして、ゲオルクも全部で二千人前後の騎士を本格的には率いるけれども、ヨハンはあちこちに手勢がいて実はゲオルクよりも率いる数が多いとか妙な噂がある人物であった。
まあ、闇社会に近い暗黒街の大物ってとこで、シェーンブルグ伯爵家として命令がしやすいので、騎士頭の補佐としている。
この二人がいるという事は相当に危険な状況なのだと分かる。
「ボンは話し合いに呼ばれてないのか? 」
そう俺にヨハンが話しかけてきた。
ボンとかマクシミリアン様と騎士風に話しかけないで、俺を近所の子供みたいに声をかけてきちゃうところがヨハンらしいのだが……。
何故か相互監視とか配下の管理の仕方で自分の知識を披露したところ、非常に感心したらしく、俺に対しては凄く親し気に話しかけてくれる。
実際、ヨハンが笑いかけてくるのは俺くらいで、家令もメイドも怖がってヨハンには近寄らないくらいで、父のパウルや姉みたいにどう見ても自分より立場というよりも能力が上か? って人物にしかまともに相手にしない人物のようだ。
まあ、それだけ、うちの姉も父のパウルも優秀で一癖も二癖もある人物だという事だが。
実際、普通の奴なら、俺にボンとか呼びかけた時点で、絶対にゲオルクは注意しただろうが、ヨハンに一目置いているせいか、その辺りは放置であった。
まあ、家令なども怖くてヨハンに注意などできないし。
シェーンブルグ伯爵家の家風としては、細かいとこに突っ込んで来るような父と姉でもない。
「なんか、物々しいよね」
「どうやら婚約の話を持ってきたらしい」
ヨハンがさらりと話す。
「おいおい」
ゲオルクが流石に慌てて口止めするような動きをした。
「まあ、縁談自体はあちこちから来てる話だから、別に隠す必要も無かろう」
「だがな? ……。」
ゲオルクは少し不満そうだが黙った。
「まあ、ザンクト皇国の二大金持ち巨頭が組むかもって事でいろいろと刺激はするだろうけどな」
「なるほど」
俺がそれで即座に頷いた。
最初に記憶が戻って12歳だった俺の年齢も14歳になった。
この異世界だと、この年齢辺りで婚約するのは別に不思議ではない。
だが、ザンクト皇国の皇家で第一皇妃と第二皇妃の争いがある以上、持参金狙いで選ばれた第一皇妃の御実家ともう一つの金満家であるシェーンブルグ家がくっつくのはオイレンブルク侯爵家と背後のツェーリンゲン公爵家からしたら困る話であろう。
そもそも、本来なら第二皇妃も公爵家が伯爵家の下風に立つのはって事で公爵家と血縁の侯爵家から選ばれたって事で、グンツ伯爵家は無茶苦茶嫌われていた。
ヨハンが俺の新しいサーベルを持ってきた。
突きに特化して細身でありながら、刺突の能力は高く、剣をある程度受けることも出来るという無茶苦茶な条件だったので、これも試作の1本になる。
すでに何度か試作の剣を作っては貰っていた。
「新しい試作の剣だね」
「いや、これで完成って話だった。鍛冶屋のクルトもそう断言してた」
「へぇぇ」
クルトは腕のいい鍛冶屋で俺もいくつも武器の試作をしてもらって、その腕の高さは皆が一目置いている人物だ。
一度だけ会ったことがあるが、老人なのに筋肉質の凄い爺さんだった。
「ん? 」
俺が日が落ちてあたりが暗くなった城のかなり離れた森のあたりを見た。
どちらかと言うと、敵地に近いわけでもないので、この城はシェーンブルグ伯爵家の本職が転生者の取り締まりと監視と研究であるという現実と経済的な意味合いから、街から距離を置いた平地の平城である。
城の城下街のようなものはわざと離れて作ってあって、怪しげな奴が近づけないように、さらに監視しやすいように平地にぽつんと城だけがある。
まともな戦争用の城では無いのだ。
「どうした? 」
「ボン! 何かあったか? 」
ゲオルクとヨハンが俺に聞いてきた。
俺が遠くに気配を感じる。
「夜盗と言うにしたら、随分と組織だった動きに見える。百名前後かな? 」
俺が呟いた。
非常にばかげた話であるが、姉の気配を細かく城内で察したりするのを続けていたら、この能力が異常に発達した。
誰がどこに潜み、どこにどれだけ集まってるとか、そういう動きが分かるのだ。
マジで転生してチートが出る人物がこの世界でも千人の転生者で一人くらい現れるらしいけど、これがどうやら、その千に一つのチートらしい。
ヨハンは俺の知識も価値があると高く評価しているが、一番評価しているのがこれだ。
昔の傭兵時代に伏兵に無茶苦茶やられたことがあって、あの時にボンがいればって良く愚痴る。
ただ、伏兵って言うよりは話を聞いてると略奪しにいって反撃受けただけのような気がするので、それ以上はヨハンに深く聞かないことにしていた。
「やはりな。妙な連中が近隣のリンハルト子爵領から姿を消したって言う情報はあったが、刺客だったみたいだな。ボン、強さはどうなんだ? 」
「かなりヤルと思う」
俺がそう答えると、ヨハンもゲオルクも厳しい顔をした。
しかし、まさか、刺客とか。
正気とは思えない。
実際、毒殺とか皇家でも表向きにはできないけど増えてるとは聞いたけど、ここまでするんだ。
「どうする? マクシミリアン様は城に戻ってもらうか? 」
「いや、ここまで姿を消すのが上手い連中だ。ボンに居てもらって敵の動きを言ってもらったたほうがいい」
騎士頭のゲオルクの言葉に騎士頭補佐のヨハンが反論した。
本来は部下で、騎士とは言えないような人間の方が主導権を持ってるような言い草だ。
だが、戦争は騎士頭のゲオルクに荒事は騎士頭補佐のヨハンにってのはずっとシェーンブルグ伯爵家の決まりである。
だから、シェーンブルグ伯爵家としたら、これでいいのだ。
そう言うわけで、俺はここで初陣という事になりそうだった。
いやいや、もうちょっと伯爵家の嫡男として、ちゃんとした戦場で初陣したかったなとは思う。
でもしょうがない。
あまり、ものものしく警備すると目立つという事で手練れは交代で守る騎士200人とヨハンの配下の100人ほどしか置いていない。
別荘や移動中ならともかく、城を攻めてくるとは思わなかったのだろう。
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