第1部 第2章 武術

 俺が知っている前世と違って、こちらの世界はやはり剣でぶった斬るという感じだけども、古武道の時のように刀の斬れ味ですっと斬り落とすと言うよりは剣の自重で一気に叩き潰すように斬るようだ。


 斬れ味よりも頑丈さ優先と言う考え方なのかもしれない。


 という事で、刀も重いんだけど、剣はもっと重かった。


 それでゲオルクは剣の素振りを言ったが、俺が異を唱えた。


 素振りを何度もすると、当然 身体は筋肉質になる。


 そうなると姉が気付く。


 だから、あまり筋肉が付き過ぎない形で腕に腕力をつけたいと。


「それは、ちょっと無茶でないですか? 」


 ゲオルクも苦笑したが、しかし、あの姉に隠れてやるのだ。


 何しろ、姉のシェーンブルグ伯爵家での権力は下手したら父親に匹敵する。


 あれほど口うるさかった父の信頼が厚い家令が姉の一言で暇を出されているのだ。


 実際、とんでもないところからの縁談も来ているという噂だ。


 とても笑えるレベルではない。


 そんな凄いとこと姉が婚約でもしたら、父親の権力すら超えてしまう。


「まあ、本来なら指揮能力が問題であって、伯爵家の嫡男ですし、いずれ当主でもありますから、ある程度御自分の身を守れたらいいのですがね」


 そうゲオルクが身も蓋も無いことを言った。


「だから、使える技を限定してみたらどうだろうか」


 そう、俺が話すとゲオルクが行く通りかの型をやって見せた。


 やはりだ。


 俺は戦史オタクで、古武道を習っていたこともあって、ヨーロッパの中世の武術とかも良く見ていた。


 元の世界の中世の剣術も実は突きが必殺の技になっていた。


 古武道でやったこともあるが、ナイフにしろ斬るよりは突く方が抵抗なく相手に入っていくのだ。


 だから、突きをメインに習いたいと話した。


 そして、剣もそれに特化させた、軽量の刺突専用のサーベルのようなものを作れないかと話してみた。


 全く敵の剣を受けて躱せないのも困るのである程度の剣の強さは欲しかった。


 突きだけに特化するならフェシングのようなものも良いのだろうけど。


 それで、ゲオルクが驚いた顔をした。


「まさか、マクシミリアン様がそんな武術や戦いに対しての造詣をお持ちとは」


 まあ、ドレス着て姉のお人形さんしてたような奴だし、流石に驚くだろうなとは思った。


「いや、変なお人形さんをさせられている間に、考えることは他にないし」


 そう俺が誤魔化して答えると、ゲオルクは爆笑した。


 結果として、突きを主体にした武技を考えてみるとゲオルクにも言われた。


 彼はこの世界の剣術の流派をいくつか習っており、それから突きの技とかのエッセンスを導き出してみる事と、剣も鍛冶屋に行って開発してもらう事も約束してくれた。


 結局、この世界は重装騎兵の騎士達の戦いがメインであり、かって日本でも同じように甲冑を攻撃せずに関節部などの攻撃が戦場での刀同士での戦いは当たり前だった結果、やはり突きは重宝されていて、いろいろと考えても、非力なら逆に突きに特化させるのはゲオルクからしても悪くないのではという答えだった。


 ついでに鍛冶屋に行くというので、さらに俺の前世での思い出から、変わった武器もいくつか頼んだ。


 シェーンブルグ伯爵家の重装騎兵の移動を見ていて、恐らく前世の知識からすると、これは有用ではないかと思ったものがいくつかあった。


 なんで、ここまで気にするかと言うと、異様にザンクト皇国は今、きな臭かった。


 俺のようなものでも、それは感じるほどだった。

 

 とにかく第一皇妃と第二皇妃の争いが凄かった。


 本当に内紛になりそうだ。


 第一皇妃は本来なら関係を深めるために、ザンクト皇国の三公爵家から嫁ぐか、近隣の王家や帝家から嫁ぐものだが、本当に皇家に金が無かったらしい。


 その結果、図らずも我がシェーンブルグ伯爵家の転生者の技術で儲けている伯爵家と並ぶほど評判は良くない、鉱山経営でお金持ちのグンツ伯爵家から第一皇妃を貰うという馬鹿なことをしてしまっていた。


 第二皇妃は仕方なく侯爵家から来たが、第一皇妃より身分の高いものがなぜ第二皇妃にという事で皇国内も揉めていた。


 三公爵家がグンツ伯爵家の下風に立つのを宜しいと思わず、三公爵家の筆頭のツェーリンゲン公爵家の親族の侯爵家に皇妃の話を回したと言われるほど上級貴族の皆の怒りをかっている。


 さらに、膨大な財産つきで嫁いできた第一皇妃は性格も態度も悪く、何より金遣いが荒かった。


 そのせいで皇家の思惑は外れてしまった。


 お金が皇家に残らないという現実だ。


 とにかく、それで第一皇妃は評判が悪い。


 そして、息子も評判は良くない。


 冷血で優しさが無いと言われている。


 しかも、笑う事が無いという噂だ。


 だが、その辺りは前世の俺も同じだったから、会って見ないと分からないとは思うが……。

 

 などと考え込んでいたら、じっとゲオルクが俺を見ていた。


「まさか? ひょっとして……マクシミリアン様は? 」


「いやいや、無いです。ありえないでしょ」


 そう、俺がびびりながら転生者である事を隠す。


 バレたらとんでもない。


 あまりにも突飛な発想とかすると疑われるから気をつけねば。


「まあ、無いですよね。彼らを取り締まりしてるのがシェーンブルグ伯爵家だし。それなら今の伯爵の弟君を誰もわからない状態から怪しんでいて捕まえた慧眼の姉君がいらっしゃるのだから、当然に貴方がそうなら同じようになってるはず……」


 ゲオルクが苦笑した。


 はい、その通りです。


 だから、バレちゃったんだけどね。


 それほど姉の慧眼は物凄いと言われている。


 実際、なんなんだろうか、あの慧眼は? 


 女装とお人形さん遊びが黙っている為の条件とか、そちらも、おかしすぎるんだけど……。


 とはいえ、他の人間にバレたら終わりなので、脂汗をバレないように搔きながらゲオルクには誤魔化していた。


 とりあえず、ゲオルクからは武術を教えてもらえることを快諾して貰った。


 自分の命は自分で守らないと。


 何と言っても、この国では俺の転生者の事実は命取りだ。

 

 さらに、このシェーンブルグ伯爵家は前世とともにまたしても皆に嫌われてて敵が多すぎる。


 転生者の逮捕と監禁と管理だけでも本当に大変なのだが実入りも大きい。


 いろいろな問題があり過ぎていた。


 

  

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