第24話 虚構の狭間
「ここがオンディーヌ最南端の町フロールです」
「綺麗〜! 小さい舟がたくさん! 同じ港町でもミッドウィルと雰囲気違うんだね!」
フランは案内するビアンカの背後から乗り出し目の前に広がる町並みに目を輝かせている。
恒例の大袈裟リアクション。
「前から思ってたけどお前っていちいちリアクション大きいよな」
「普段はお淑やかな私でも美しい景色を見るとつい感情が抑えられなくなるのよね」
自己認知能力低すぎな。
世の淑女の方々に失礼というものだ。
彼女の場合思ったことを口走るのは通常運転。
残念ながら淑女からは少し遠い。
目の前に広がる海上町は、歩道と同じくらいかそれ以上の水路が巡り、至る所でゴンドラが行き交っている。
すれ違いざまに挨拶を交わす商人や乗客。
ゴンドラに揺られ、気持ちよさそうに風を感じる人々。
そんな風景が開放感があると同時に時間の流れをゆっくりに感じさせる。
白い壁の家々とのコントラストがより芸術性のある景色にしており、まるで油絵で描いたような、そんな温かみのある町だ。
『原初の海』へ向かうには南側から船で海の中心へ向かい北上するのだが、海は非常に大きな海流を発生させており東西北からの侵入を難しくしている。
できる限り安全に『
「オンディーヌ南部地域は、月の満ち欠けの影響を大きく受けるエリアです。満潮時や季節によっては隣町への交通手段に船を使わなくてはならなくなるくらいで、中でもここフロールは月の満ち欠けの影響を一番大きく受ける場所です。今の時期は水位がちょうど真ん中で、一番過ごしやすい時期なのです」
「こんな和やかな町に軍用艦があるなんてとても考えられませんわね」
ローズの言葉にマルコが鼻を鳴らす。
「なるべく景観を損いたくないという陛下の御心だ。それよりさっさと港へ行くぞ。俺たちは遊びにきたわけではない」
「えー! もうちょっと見させてよ!」
「お前は馬鹿か? 陛下がなぜわざわざ俺たち『
「ちょっと! そんな言い方しなくてもいいじゃない!」
掴みかかろうとするフランの肩に手を置く。
「マルコの言い分も尤もだ。ヘンリーの容体がいつ急変してもおかしくないんだ。今は時間が惜しい」
「だからってあんな言い方!」
彼の言葉が皮肉が多分に含まれているのは承知だがあながち間違いでもない。
俺たちは戦争回避とヘンリーの救助という大きな使命を負っている。
戦争を回避するにはヘンリーを助け、アリス女王陛下の信頼を勝ち取らなければならない。
そしてヘンリーを助けるための時間はそれほど多く残されていない。
それは彼を蝕む斑点の大きさを見ても明らかだ。
「フン。これだから話の通じない単細胞は困る。そもそも、仲間を救うのにこんな腑抜けた余所者に頼らなくても俺たちだけで・・・」
俺たちの前に立つビアンカ。
「マルコ。言葉が過ぎますよ」
「も、申し訳ございません」
「確かに彼らは他国民ですが、彼らがいなければヘンリーさんを助けることもハンナさんを救うこともできなかった。そうなれば『
真剣な表情から一変、照れ隠しに舌を出し微笑んだ。
「まだ完遂していませんけどね」
改めて、いかにハンナやヘンリーの存在がビアンカたちにとって大切なのかが分かる。
こりゃますます失敗は許されない。
「ところで、実際にはどうやって『
「数多の犠牲者の軌跡は無駄にできません。有り難いことに、軍と技術者たちの努力により『
「どういうことですの?」
「『
この世界のマナではない?
どういう意味だ?
「ここで問題です」
「敵の強固な防御魔法を突破しようとする場合、どのようにすればそれを破ることが可能でしょう?」
ビアンカの急な問いに、真っ先にフランが手を挙げた。
「はい! そんなの簡単! 相手の防御魔法より威力の高い魔法をぶつけて粉砕すればいいんだよ!」
脳筋か。
相手が自分より格上あるいは使用魔法が上級だったらどうするんだ。
この子、本当にハイウィザードなのかな?
「お馬鹿さんねぇ。違うに決まっているでしょう? 金輪際Aランクを名乗らないでくださるかしら? あなたと同レベルだなんて思われたくありません」
「う、うるさわね! じゃああんたは分かるっての?!」
「あ、当たり前です! あなたと一緒にしないでくださいなっ!」
「あれ〜? ならどうしてそんなに汗かいてるのかしらね?」
「こ、この場所の気温が高いだけですわ!」
見ているこっちが辛い。
二人の強い視線がハンナに集中する。
「一緒にされているぞ」
マルコの言葉にハンナはため息をつく。
「レベルが低すぎですぅ」
「んなっ?!」
「そんな?!」
フランのとんがり帽子が勢いよく折れ曲がり、ローズはしおらしくその場に座り込んだ。
「同じ振動・濃度のマナを流し込めばいいんじゃないのか?」
ビアンカの耳がピクリと動いたのは見逃さない。
「魔法の根源であるマナの性質は本来そこまで違いがない。なら何が違いを生んでいるか。それは振動数と濃度の二つ。この二つが少しづつ微妙にズレた状態でマナ同士が結合することで、様々な質の違いを無数に生み出し、現存する数多の超常現象、つまり魔法となって表れる」
「仮に振動数と濃度が全く同じ力がぶつかり合った場合、二つの力の濁りは完全に消え無に還る。この原理を利用すれば、理論上は相手の魔法を相殺することが可能なはずだ」
この程度の問題なら
まぁ原理を知っているだけで、今まで魔法が使えなかった俺自身試したことがないから偉そうなことは言えないけど。
「・・・・・・」
あ、あれ?
何この空気。
「驚きました。ヴィンセント様、正解です」
ほっ。
正解なら溜めないでくれ。心臓に悪い。
「すごいよヴィンセント! どうしてそんなこと知ってるの?!」
「知ってるも何も、ちょっと考えれば分かるだろ」
「・・・まじ?」
「なんだよその顔」
助け舟を求めてハンナを見る。
「やっぱりバケモノですぅ」
なんで?!
仕切り直すようにビアンカは咳払いする。
「つまり何が言いたいかと言うと、『
「なるほど。それで」
「『
想像しただけで途方もない話だな。
「ですが、これまで犠牲になった人たちのためにも、何としてもこの任務を完遂したい。気を引き締めて参りましょう」
ビアンカの言葉に、俺たちは任務の重要性、そして難易度の高さを再確認するのだった。
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