第18話 魔法使いとグリマー
帰り道三人はヤムには会えたけれども成果らしい成果もなく足どりも重い。
「これからどうする?」
ジュエルが問いかけたが後の二人は口を詰むんだままだ。
その日は結局今後の方針もないままに村に戻りそれぞれ別れて各人の家に帰った。
「おかえり。」
リナの帰宅をリムルは優しく迎えたが、リナは生返事をしてテーブルでマットとチットが何やら話している横に座ってぼんやりと二人の話を聞いた。
「チットはまた父様の訓練で気を失ったらしいな?
何やってんだ。
そんなことじゃドゥームにやられちまうぞ。」
「僕には素質がないんだ。
もう僕には無理だ。」
チットは泣き言を言いだした。
「何を言ってる。
今からあきらめてどうする。」
「僕は兄さんとは違う。
生まれながらに身体が弱いんだ。」
リザードンはどんなに感情が高ぶっても声を荒げたりはしない。
それが子供であっても例外はない。
チットの後ろ向きの言葉にマットは穏やかに諭した。
「それはお前が産まれた頃の事だろう。
あきらめるな。
俺だってまだまだ父様にはかなわない。
しかし俺達が強くならないと母様やリナを守れないだろう。
俺はあきらめない。
強くなって皆を守る。」
そのやり取りを聞いていたリナはそれをまず痒く感じながらもあきらめないという言葉に強く感化された。
「そうね。ヤムに会えたのにあきらめている場合ではないわ。」
翌朝、リナの姿がどこにも見当たらない。
「マットはクレメンス殿の所を見に行ってくれ。
チットはジュエル殿の所だ。」
二人は返事をするやいなや駆け出した。
しかし、リナはヤムの所に向かっていた。
「ヤムさん。居ますか?」
洞窟の奥から寝起きの声が聞こえた。
「また、あんたか。」
「はい。私です。」
リナは洞窟の入り口に持って来た果物を差し込んだ。
「一緒に食べましょう。」
ヤムの手が果物をつかみ取り込んだ。
「おはいり。」
老人はとうとうリナが洞窟に入ることを許した。
リナはロムを背負ったまま中に入った。
二人は仲良くリナの持って来た果物を食べた。
「これは、美味いな。
それはそうと昨日わしの所にどうやってたどり着いた?」
ラコスはクレメンスが持ち帰った。
実物がないので身振り手振りで説明した。
「王城で見つけたこれくらいの大きさのアクセサリーのような物が熱で示した方向にあなたが居ました。」
老人の顔が曇った。
「それは我々魔法使いを見つけるために奴等が使う魔具だ。」
「えっ。それを持っていても大丈夫なんですか?」
「それを手にしてないと熱は感じられないから心配ない。」
果物を食べ終えるとリナは聞いた。
「私達を助けて下さい。」
老人はそのリナの願いの声には応えず
「それよりお前さんの背中に乗っかってるのはグリマーだろ?」
グリマーはリナの背中から膝の上に移動した。
「わしはもう戦いのできる身体ではなくなっとる。
グリマーはな、ある特定の力にひかれる。」
老人が目をつぶり手招きをするとグリマーは老人にまとわりついた。
「おまえさんにグリマーがなついているのは少なからず力をひめているのじゃろう。
その力が奴等に通用するかどうかはやってみないと分からんがどうじゃ、訓練してみるか?
訓練したからといって魔法が使えるようになるかどうかはわからんがの。」
思いもよらぬヤムの問いかけに戸惑うリナだったがそれが今かなう最善のことであることは明らかであった。
リナはヤムの訓練を受けることにした。
訓練に先駆けてヤムがまず手本を見せた。
「では手始めに集中力を高める訓練をする事にしよう。」
「そこの台座をそのあたりに置きなさい。」
リナが台座をヤムの
そういうとヤムはグリマーを台座の上に座らせリナに言った。
「意識を集中させてグリマーに台座から離れないように念じるのじゃ。」
グリマーはいっときは台座にじっとしていたもののリナと目が合うと台座からリナに移動してしまう。
「どれ、わしがやってみよう。」
グリマーをリナから引き離して台座に戻すとムルは視線をグリマーに向けたままリナの立っている位置に移動した。
グリマーはずっと視線をリナの方に向けて四肢を延ばしていつでも動き出せる体勢を保っていた。
しかし、台座から離れようとはしなかった。
どうやら魔法が効いているらしい。
「もう少し片付けた方が良いな。
後の二人に手伝ってもらえ。
グリマーを思うように出来たら呼びに来なさい。」
そう言ってヤムは王城から出て行った。
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