第5話 憂い

 リナが青年隊に入隊することが決まってから、リザードン・ムルは毎日考え事をする事が多くなった。


 「あなた、また考え事をしてるわね。何がそんなに心配なんですか。」


 リムルが食事の後片付けをしながらムルに問いかけた。


 ムルはリムルが用意してくれた果実酒を飲みながらボソボソ話しだした。

 「王国がドゥームの手に落ちた時の事がどうしても気になって。


 あの時我等リザードン部隊と人間の混成部隊が戦っていた時確かにドゥームは、リザードンは有無を言わさず殺害していたが人間は殺さずに何処かへ連れ去るのを見たんだよ。


 そしてその連れ去る役割の人物を私は昔王宮で見ているんだ。」


 リムルは後片付けを終えて、グラスに水を注ぎ食卓に腰掛けた。


 グラスは兄のマットが粘土をこねて釜で焼いた手作りのグラスでリムルのお気に入りであった。 


 特に色など着けず焼き物の自然の色がリムルは好きであった。


「それで、あなたが気にしているのはその人の事なのね。」


 ムルは無言で頷いた。


 ムルの飲んでいる果実酒は丸い小指サイズの大きさの山葡萄のワインで彼らの村の特産品だ。


 それをぐいっと飲み干すと呟くように言い放った。


 「俺が思うにあれはかつて王国に仕えていた魔法使いだったような気がする。


 だが、王国の魔法使いはヨシム国との戦争で皆死に絶えたはずなんだが。」


 「魔法使いはもう一人も居ないって言ってませんでしたっけ。」


 「そうなんだけどね。もし、万が一ドゥームの元に魔法使いがいるとなると。」


 そこでムルは言葉を濁した。


 ムルが魔法使いの事を憂いている頃、ドゥームの幹部達は支配者ガイナモの元に勢揃いしていた。


 まず最初に口を開いたのが全身黒い毛で覆われ身体は人の背丈の二倍も有ろうかという長身の化物で、その爪は先の戦いで多くの人間を手に掛けてきた。


 その顔は二つの鳶色の縁と黒目で構成された巨大な目を持ち鼻は申し訳程度に付いて、顔の三分の一を占める牙の生えた大きな口がその化物の印象をさらにおどろおどろしいものにしていた。


 化物は名をコープスと言った。


「ラーンの領地は全て平らげたはずだな。」


 コープスの発言に応えたのは彼の向かって右に座っていた人の背丈程もある巨大な蜂だ。


 スラッシャーと呼ばれている。


 「平らげたと言ってもまだ人間はあちらこちらに住み着いているだろう。


 そいつらをどうするかだな。」


 「皆殺しにすればいいだろうが。」


 コープスの正面に陣取っていた細みだが全身に大量の剣を纏った化物が発言した。


 そしてその化物達の中にそぐわない人間が最後に釘を指すように発言した。


 「フューリー、それは駄目だ。それよりも早くセシル姫を探し出して捕らえるのだ。」


 彼の言葉にはどうやら強制力があるようだ。


 一同頷いて次々に席を立って行った。


 そう、その人間こそがムルの憂いとなっていた魔法使いオミナスであった。

 

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